第89話 ロザリーさんは、強い。
もしも「白い子」が一人なら、コウランもこんな願いに囚われなかったかもしれない。
願い一つに、贄も一つだ。
そこに――ベニユキさんの帰還。
ここに、願いが二つできることになった。
そうして獣王コウランは、己の願いを抑えられなくなった。
若返りたい――ヒョウカとまた、旅がしたい。
あの楽しくて、楽しくて――美しく輝いていた日々に戻りたい。
彼の中にあった獣王としての大事なものを、想いや誇りを、またその大事な記憶が押し退けてしまった。大事なもの同士の天秤が傾いてしまった。
自分の欲望を先に叶えてしまった。
「さぁ、次の贄を……いや、本来の贄をこちらに」
彼が見るのは、示すのは――ベニユキさん。
もう一人の白い子。
そうか、そもそもの初めの予定はベニユキさんだったんだ。病のあれこれを祓うのはベニユキさんでやるために。
もしもベニユキさんが戻らなかったらリョウガできちんとその病あれこれを決めたんだろうか。
もうそれも、きっと獣王にもわからないんじゃないか。
その金色の瞳は、きらきらと輝いている。こんな状況なのに美しい。
だから彼が正気なのか、狂っているのか――いや!
「狂ってんでしょ、こんなん」
私は、小さくつぶやいていた。
子供の命を奪う奴なんて。
獣王サイドのひとたちも、まだ戸惑っている。
彼らは獣王が若返ったことに対して、同じように戸惑いを感じているようだ。
けれども、彼らは――やはり獣。
咆哮が。
それはガロンの咆哮とも違った。
王の咆哮だった。
獣王コウランの咆哮に、その場にいた獣人たちは慄いた。
それは獣の性。
王に、長に、頭に、獣は従う習性だ。
獣人たちは動けない。
誰一人。
だから獣王はやれやれと苦笑して自らがそれを取りに来た。
嘆く母の啜り泣きもその咆哮で止めた音がしないその場に、獣王の足音が美しく響く。その足もまた、若い軽やかな歩みだ。
ベニユキさんを。
兄の腕の中、震えて堪えるしかない哀れな白い贄を。
誰も、兄のランエイさんさえ、抗えない。
それが獣王という存在なのだと。
――けれども!
「……待たれよ」
私たちは違った!
私たち――いや!
ロザリーさんが、獣王の手を掴み、止めた。
そう、彼女は人間。獣人ではない。その性には当てはまらない。いや、並の人間ならばその咆哮や雰囲気に、獣人以上に動けなかっただろう。
並の人間、ならば。
彼女は――……。
ロザリーさんは、この中で獣王に唯一人、恐れず、震えず、むしろ静かに立ち塞がった。
その胸に白銀色の輝きが。
彼女は――白銀冒険者だ。
「……邪魔をするな、人間」
ロザリーさんが人間だと気がついて、どうしてここに人間がいるのかと獣王は不思議そうに首を傾げた。けれどもロザリーさんが自分の邪魔を、ベニユキさんを守る位置にいることにも気がついて。
「邪魔、か……」
ロザリーさんはそれでも獣王の手を離さなかった。振りほどいたのは獣王の方から。自分の言うことを聞かなかったロザリーさんに、獣王は不機嫌そうに目を細めていた。
「しかし、見過ごせん。この者には縁がある」
そう、縁だ。だから私たちは獣王国にいるのだから。
「……そうか」
その鋭い瞳がロザリーさんを――その強さを読み取ったのか、身構えた。
次の瞬間、どこまで皆が目に追えただろうか?
獣王の手に持った短刀と、ロザリーさんの素早く抜き放った剣がぶつかり合い火花が散った。
ロザリーさんの愛刀は片刃だ。僅かに反りがあり、日本刀に近い。
西洋剣にも片刃なのがあった――と思ったけど、ここは自分が生きていた世界じゃないんだと、その知識のままじゃ駄目だと慌てて修正した旅の最中。
通ってきたお国によって文化や住む人、地方特産だって違うわけで。獣王国が私には和風に近く見えるけれども、この世界で何風というなら「獣王国風」となるのだろう。
この世界の武器や鎧、そういったものはやはり様々とあり。
だって魔法だってあるし。魔法がかかった武器や防具、まさに異世界。
ロザリーさんももってるアイテムボックスとか、そうした不思議道具だって。
そもそも不思議存在が、ここに、でしたわー……。
獣王はまさに全盛期にまで若返ったのだろう。
獣王になる条件の一つが強さ。
その一撃一撃が、鋭く速く、重い。
けれどもその攻撃を、ロザリーさんはその片刃の剣で受け止める。
恐ろしいのはむしろロザリーさんだ。
私はゲームが好きだ。
格闘からRPGや育成ゲームまで……。
そんな私が、この剣と魔法の――ドラゴンがいる世界で、今まで一度も試さなかったものがある。
出来るだろうな、とは……感覚でわかる。そこに指輪があるのが解るように。
そろそろ私は理解はしていた。
自分がドラゴンであるならば、それはすなわち――チート的な存在であろう、と。
それならばどれほどの能力があるか。どれほどの数値があるか。
だが。
恐かったんだ。
なんて表示されるか。
ステータス。
プロパティ。
他にも呼び名はあるだろう、今の自分を――解らせてくれるもの。
――鑑定的な。
それを私は確かめたことはなかった。
きっと見たら、特記事項とかに、自分の現状とかあって、もっと早くに
こんなペンギンが――ドラゴンと表示されなかったらと思ったら、恐かったんだ。
――飛べない鳥は……。
自分を知ることは恐い。だから、他のひとをかってに覗き見たりは失礼だと思って、これだけ一緒にいるロザリーさんのこともそうした能力でみたことはなかった。
でも、知ってた。
彼女は――強い!
「退け!」
「……ふんっ!」
ロザリーさんが獣王の攻撃をふせぎ、双子へと一歩も近づかせない。
が、彼女は獣王への攻撃はしていない。
防御に手一杯なのではない。
それは、相手が「獣王」だからだ。
どこまでやっていいのか、「人間」で「冒険者」のロザリーさんは、一国の王であるコウランを傷つけるわけにはいかなくて。
ロザリーさんは防御だけで獣王と互角に渡り合う。
本当に、強い。
その隙に、私は。
ロザリーさんは強いです。だからソロ冒険者できてます。
属性は明らかに善だけど――あえて、当てはめるなら実はバーサーカー。
…こんな善人が狂ってないわけがなく。今後もお楽しみにです。
そして異世界ですから武器もあれこれ、ペンギンもびっくりなものがいっぱいです。そもそもお前さんがびっくり存在だw
今期ニチアサの主人公が狼だったことにそわっとしてました、実は。終わっちゃうの哀しみ…1週間の活きる糧が(´;ω;`)
(…竜モチーフのキャラが狂信者なことにもそわそわしてました。しかも眼鏡…。




