第85話 迷宮は糸を辿ってがお約束…だけども。
一角猩々のゼノンは、まだ子猿――子どもなのに。
しかしその成長速度は著しいものがある。
その身体だけでなく。
能力も。
……だけれど。
だけれど、まだ子どもなんだ。
心までそんな一息に成長するものか。
彼がもともと賢い子であったことに、私たちは甘えてしまっていた――むしろ身体側が急に成長したことに戸惑うこともあっただろう。彼が私たちに気を使っていたことを、彼の涙で解かったはずなのに。
私の考えが、配慮が、足らなかった。
「あっ、あ……アァッ!」
私を抱えてくれていたゼノンが悲鳴をあげる。
私達はランエイさんを救出したあと、ゼノンの糸の先――ベニユキさんを目指して牢屋から。牢の鍵はまた魔法とアナログだったのだけど……うん、牢隙間、私が通れたので。まんまるふかふかボディで。
そしてまたおなじみ昇龍……んん、アッパーカット。
牢屋はランエイさんの他にも何人かいたけど、お疲れなのか騒ぎもなく。「なんだろう、この丸いの……」な視線をは送られつつ。はい、安定安定。こういうのは私が挙動不審にならないように、堂々としちゃうもんね。ひとはそうしたもののほうが、呆然と見ちゃうらしいの。うん、慣れたさ。この半年で。
なので騒ぎになることもなくササッと。
牢番もいたけど、ゼノンの糸で動きを止めている間に。そしてランエイさんが一撃いれて、鮮やかに昏倒させて。
いやぁ、ポーションのお力、すごいなぁ。
ランエイさんはまるで影のように、そして御身の猫のよう、素早くしなやかに動いてあっという間に。
獣王になるには強さも決め手とあるとおっしゃってたけど、なるほどです。
そうして私たちはひっそり王城の地下を進んでいた。
ランエイさんがゼノンの案内聞いて前を行き、私を抱っこしたゼノンが後をついていく。
抱っこ。
……だってペンギンのスピードに合わせてもらうわけには行かなかったから。仕方ないの!
……ぺん。
ファンタジーなゲームとかではお城の真下、直に牢屋があったりするのが多いけど……いやぁ、やっぱり現実はそんなの危ない。牢屋は王城の敷地内の端っこでした。
だからベニユキさんは別に連れていかれたのだね、と。
だけども地下通路はあれこれありました。これはいざとなれば脱出通路なのかな? 浪漫を感じつつ、こうした脱獄もどきには問題がありましょうけども。
私たちはゼノンのおかげでベニユキさんの後を追えて。まさにアリアドネ。ダイダロスの迷宮脱出。
いや、地下通路、本当に迷路みたいで。子猿さんとはぐれたら迷子確実なペンギンと猫のお兄さんです。
だけれども。
あと少しなところで。
私たちは間に合わなかった。
ゼノンは糸の先で、見てしまった。
――白い子が心臓をえぐられる、その場を。
子どもには見せてはならないものを。
ゼノンの悲鳴と一緒に、それを私も……。
子どもには酷いことしたくないのに…と、ぐずぐずしておりました…




