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生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~  作者: イチイ アキラ


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第80話 風雲急。


「もう――城に……」


 遅かった。

 その場にいた全員が、ガタリと椅子を鳴らした。

 唇を噛むシュンレイさんが一番……。

「いつ?」

「朝方……ゲンヤさまが出掛けられたあと、城より迎えが」

 儀式が近づいているから、ベニユキさんのように逃亡しないようにと、先んじられたのだろう。

 そんな不安な感情を隠して私たちに対峙していたのは、長として、そして母としての強さだった。


 どうしようか。

 私たちが悩んでいる時間は短かったと思う。

 何故なら――


 ――我が主よ!


 何故なら――緊急糸電話!


「ガロン?」

 お供のオオカミ種の魔物の声に私は耳をすます。しかも何だかとても切羽詰まった声だ。

「どうし――」


 その緊急連絡に、その内容に、私のぽわぽわの羽毛が逆立つ。


「どうした?」

 ロザリーさんが何事かと私を心配してくれる。実はロザリーさんは、ガロンとゼノンの話す言葉はわかるけど、この糸電話はつながらない。やはりこれは主従関係があるのか、魔物間にしかできないものなのか。

 しかし今はそれを調べている時間は無く。

 何故なら、ガロンからの知らせは――。


「ヒョウカさんの庵が、襲撃されました」


 そして――。


「双子さんが、掠われました」



 ――贄になる、白い存在が。




 時間は私たちがシュンレイさんにお会いした頃だろうか。


 扉を直していたランエイさんたちは、一通り切りが付いたと休憩していた。ガロンたちもそのお手伝いをして。いつもは私たちの通訳があるけど、この数日間のお付き合いで言葉は通じないながらも、身振りや視線で意思疎通できていた。

 ゼノンは子ども好きなベニユキさんに仲良くしてもらって、よくあやとりしているくらいだし。そんな風に弟が誰かと仲良くしている姿を、ランエイさんは嬉しそうにしていたし、そんな双子さんに皆が微笑ましくしていたり。


 はじめに気がついたのは、その耳のよいガロンであったという。

「その時に……二人を逃がすべきでした」

 影を使い移動してきたガロンは申しわけなさそうに。

「しかし、あっという間に庵に迫り……」

 竜人の庵に近づくものたちがいる。

 しかし自分たちのように竜人の客人だろうかと、悩んだのだという。

 やがてその気配に――鎧や武器がこすれる金属の音が混じっていると気がついたときは遅かった。

 いや、それらが訓練された部隊だったから、ガロンが気がつくのが遅れたともいえる。


 庵を襲撃してきたのは――獣王国のかなり上の組織部隊だったそうだ。


 ガロンが気がついたからこそ。

「双子は、我らは関係ないから逃げろと……」

 その猶予が出来た。

 ランエイさんが……そう、覚悟を決める時間が。

 部隊が自分たちを捕らえに来たのは明らかだ。それ以外に国が兵を出す理由はないだろうと、消去法で。

 何せ庵には迷うようヒョウカさんの術があったはず。それすら解いて来ていると――さすが次期獣王候補は気がつき。

 ガロンとゼノンは、彼らは魔物だから、巻き込めば容赦なく殺されてしまうとランエイさんは、それも。

 だから彼が応戦する隙に二人は――口惜しくも逃げることを選んだ。


 選んで、私に伝えることこそ、大事だと。


「よく、逃げてくれました」

 その判断で良かったのだと、私は彼らを労った。ランエイさんの判断も。彼らを助けてくれた。

 ロザリーさんも話を聞いてうなずく。

 そして私たちはヒョウカさんたちにガロンたちの話を伝えた。

 魔物が影を伝って侵入してきたことに身構えていたシュンレイさんは、このハウンドウルフと一角猩々はドラゴンのお供であると、私たちがガロンから話を聞いているときにゲンヤさんたちから説明を受けていた。

「従属するとそのような……しかもオオカミは上位種の魔物……」 

「ドラゴンの魔力有ればこそのようだ」

 そんな話を。

 そうして獣人の彼らは双子が国の兵士たちに掠われたと私から聞いて。

 ヒョウカさんがうなる。

「私の術を解けるものは、国の暗部やもしれません」

 暗部。

 すなわち国王直属の、影となる――はい、歴史オタクな私は理解早く。時代劇も大好き。忍者あれこれも履修してます故に! 外国でも人気だった!

 それに獣王国では部族の長であったり、中々の立場にあるシュンレイさんもすぐに察して。ゲンヤさんも何かしら思い当たるのかはっとしてる。

 ロザリーさんは……海千山千なさすが白銀冒険者。

「国によってあれこれ後ろ暗いことくらいいくつもあろうよ。そうした専門組織部隊も」

 と。この国の暗部もあっさり納得された。

 私たちが理解しているとわかると獣人の皆さんも話は早いとなった。

「何故? リョウガが贄になると連れて行ったのに……」

「いや、どうして私のところにベニユキくんがいると解ったのでしょう……ゲンヤくん、貴方何かしました?」

「いや、俺ではない。シュンレイは?」

「さっき知ったばかりでしてよ?」

「ですよね。ならばどこからもれたか……」

 獣人さんたちの話はさくさく進む。さすが判断が早い人たち。


 一つ、私も気になることがあった。


 ――いや、本当は二つだったけど。


「あの、今まで生贄になるのは、一つの儀式に一人でしたか?」


 思い出すのは半年前。


 あの森の黒いのは――量より質、だった。


 だけど、世の中いくらでも例外はある。ほら、ここにドラゴンなのに飛べない鳥なやつだっているし。

「それは……どうでしょう。私は贄の儀式あれこれは興味なく……詳しくなく」

 興味なかったから存じ上げないとヒョウカさん。何度かそんな儀式はあったが、関わらないできたと長命の彼はいう。私も関わりたくないからわかりみ。

「俺は……すまん、覚えない」

「私も……」

 桑呀のお二人も。

 生贄になるのは忌み子だから、あまり後々も話にあがらないとか。でもお二人が覚えがあるような、近年には生贄ごとは無かったとしたら良いと思おう。

 でも……それを変えようと、生贄になるものを「英雄化」しようとしているのがシュンレイさん。こうしてみたら、記憶に残らないのは、つらくもあるよね……。


 私はベニユキさんが掠われたと聞いてから、気になったんだ。

「私、考えてしまったんです。予備とか、その……そういうのを、用意するのは……」

 どんなイベントも、不測の事態に備えるのは大事だとは思う。思うけど……。

 予備、と――彼らをそう呼んで良いのか悩んで言葉を選びつつ。

「そうだな。この国のもの(・・)がどういうものかさっぱりだが、量より質を、逆にするものであったとしたら……」

 経験者のロザリーさんがうなずいてくれた。あの時はそう、エリナさんも直前になって量を選んだ。それがロザリーさんが助かった理由のひとつで――私を拾ったのもまた理由。


「リョウガだけでは不安だと……」


 受け取る側はまた一人で充分だったり、等価交換かもだけど。

 でも量が足りないかもしれないと、国の……生贄に推進組の王たちが考えたなら。不安になってしまったら。

 そこに、本来の生贄予定であったベニユキさんの帰国が知られたら。


「ちょうど良い予備で補充が来たと考えるか……」


 そして掠うなんてことをするのは。話し合いもなく。

 話し合いがあれば――ランエイさんは実ことを皆に報せられただろう。彼はそのために帰国したのに。


 ――そう、彼はまだ知らなかった。私が覚悟を決めたことを――。


 つまりそれだけ急ぐ理由が。


「……儀式は、いつ始まるんだ?」




ペンドラゴンもなんとか再開を…。

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