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生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~  作者: イチイ アキラ


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第79話 精一杯、キリッと。



「改めまして、ドラゴン――竜のジュヌヴィエーヴといいます」


「まあ……」

 シュンレイさんはそのきれいに色を引かれた目を丸くした。アイシャドウとか、お化粧用品がちゃんとあるんだよ、この世界。ロザリーさんは化粧気なくてあんまりしらなかったけど。

 ぬいぐるみがしゃべったことに驚かれているのではなく。ないったら。


 シュンレイさんはドラゴンがこうして意思疎通ができる存在なことにも驚いていた。

 ドラゴンとは伝説、物語の中の存在だったから。

 彼女はまだ、旦那様や彼が師事していたヒョウカさんのこともあり、ドラゴンが――竜がいると、信じてくれていた人の側。

 だから、話は早いと思ったんだけど……それは甘い話。


 何から話すべきかと自己紹介をしてから悩んだ。

 ランエイさんとベニユキさんに話をしたときのとは――いいや。


「私はドラゴンです」


 きりっと。

 まず、私がしっかりしていないと。

 これはあの時よりも、さらに。

 ……覚悟をしたんだから。


「私に、息子さんを会わせてみませんか?」


 だから。



 一歩踏み込もう。この獣人たちの世界に。





「……息子(我が子)に?」

 戸惑うシュンレイさんに、補足をしてくれたのはロザリーさん。

 ロザリーさんはずっと私と旅をしていたし、ベニユキさんに会ったときもまさに、その場に一緒にいてくれた。

「この者はまさにドラゴンであり、呪われているかどうかも見抜くことができます。そう、貴方が先ほどおっしゃった……」

「黒婉の……」

 それは「忌み子」をと他のものなら続けている言葉。だが、同じように白い子をもつシュンレイさんは、そうは言いたくない――ベニユキさんの仇だ名。


 黒婉の忌み子。


 名前にもつくよう、ランエイさんの一族は黒い髪が目印のような、黒猫の獣人。

 黒い石の中に白い石がぽつんとしていたら、目立つ。私はオセロを思い出した。

 でも、そのようにして忌み子は獣人の中で悪目立ちする存在だった。


 こちらのシュンレイさんの子も。


「本当に呪われているのかどうか、私ならわかります」

 この、ドラゴンの目なら。

「その目で見ました。ベニユキさん――ランエイさんの弟さんは、呪われてなんかいませんでした」

 本当に。真っ白く。


「ただ、真っ白で美しく、きれいなだけでした」


 美形な猫の獣人さんな、だけでした。


 堂々と、自信を持って言い切るのが大事。


 そして、なおさらしっかりと。


「良ければ、私が皆さんの前で証言します。忌み子なんてのは、間違いだと」


 ――生け贄なんて要らないと。


 ドラゴンの――神の如きが、そう言うと。


 私は覚悟を決めたんだ。

 自分の保身でドラゴンということを隠しておこうと思っていた。

 だけど、私の存在で救われるものがいるかもしれないのに、見て見ぬふりは恥ずかしいだろう。


 そんなのきっと――ドラゴン()じゃない。


 ここで私が自信なさげだと、シュンレイさんも不安になっちゃう。

 だから私は精一杯、キリッと。

 ふわふわな子ペンギンだけど!


 私が一生懸命、威厳を出そうとしているのを皆さんも察してくれたのか。

 ロザリーさんは私の背後で頷いてくれている。白銀冒険者である彼女も保証する、と。ベニユキさんを見た時も一緒にいてくれたからね。あ、私、今は膝からテーブルの上にあがらしてもらってる。お行儀悪いけど。じゃないと皆さんと――シュンレイさんと目線が合わないから。

 ヒョウカさんは拝まないで。うん。


「シュンレイよ……どうだ?」

 ゲンヤさんの問いかけに、彼女はその整った眉を寄せた。

 母の苦悩は、その数秒間にどれほど深く……。


「本当……に……」


 やがてシュンレイさんは、その瞳を潤ませた。


 ――子の死を願う母などいない。


「本当に、我が子を……」


「ゲンヤさんのお話を聞く限りでも、お子さんの症状はベニユキさんと同じです」

 お日様に弱かったり。

 その注意事項をお話すると、シュンレイさんはその度にうなずいた。泣きながら。まさに我が子も同じだと。

「アルビノという、生まれつき色素が足りないだけです」

「生まれつき……」

「これは、親御さんのせいでもないです」

 はっとしたシュンレイさんに、間髪を入れず私は伝えた。

 誰が悪いわけでもない。

 彼女の――()がちゃんと産まなかったせいだと、彼女はずっと苦しんでいたのも、察するにあまりある。


 大事な旦那様の忘れ形見ならなおさらに。


「太陽に弱いというのに無理をさせてしまったな」

 それ以外は元気な子だったから、鍛えようと昼間の最中にも外に連れ出したことがあると、ゲンヤさんも再び反省している。

「黒婉の皆さまは、そのように適した蔵の住居を……」

 話を聞いて、シュンレイさんも何かしら思うことがあるようだ。


「なので、お子さん、えぇと、リョウガくんでしたか?」


 会わせてみませんか、て私は思ったんだけど。

 シュンレイさんは――ぎゅっとまた美しい眉を寄せた。


「実はもう――城に……」


 ――遅かった。



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