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生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~  作者: イチイ アキラ


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第78話 ――それは覚悟。


 それは、凄絶なる母の覚悟だった。

 そこに至るまで、どれほどの葛藤が、血の涙があっただろうか。


 彼女も、許されるならば子を連れて逃げ出したかっただろう。


 期待を、希望(のぞみ)をかけていた者がそうしたように。


 ――しかし、逃げ出したとして、その先は?

 子を、誰が守ってくれる。

 自分に何かあったら。

 下手をしたら贄になるより、惨く、恥ずかしく、哀れな末路になるかもしれない。


 それは獣の性が悲鳴をあげる。怒りで呻る。

 獣こそ、ときに何よりも誇りを重んじる。


 彼女は、だから、覚悟した。


 ならば愛しい我が子を、誰もが忘れず、讃え、感謝し――そんな存在にしてみせよう。


 ――白いことを忌避するこの国を、我が子で最後に。




 静寂が部屋に落ちる。

 シュンレイさんの想いに、誰もが言葉を失ったからだ。


 話しを聞いて、私はまず――恥ずかしくなった。

 いや、母が子を殺しちゃいけないよとは、思う。それは当然なこと。

 でも私がそれを言うのは、彼女が既に悩み尽くした果てのことだ。彼女は果ての先をもう見据えているんだ。


 恥ずかしくなったのは。

 私には――覚悟がなかったからだ。


 自分にはどうにかできる力があるのに、影響与えるのが怖いからって……そんな日和見根性。びびっていた。




 私は――ドラゴンなのに!




 その瞬間、部屋に満ちた私の――竜の力。


 ロザリーさんとヒョウカさんにあとから聞くには、火花が弾けたようだったとのこと。

 それは一瞬の解放でもあったから。


 そしてそれは私の、覚悟が――覚醒がまた一つ起きたからだった。


 その時の反応は様々。


 眩しさのなか目を見開いたのは全員だったが。

 無意識に拝む竜人と、また無意識に深く笑みを浮かべる強者の傭兵。


 そして素晴らしい反応速度で壁に飛び退き刀を手にした桑呀の長。


 ――さらに凄まじい反応速度で、抜き放たんとしたその柄頭を踵で抑えて封じた白銀冒険者。


「……抑えられよ。両手が塞がりましたゆえ、失礼をば」

「……いえ」


 左手は私を庇い遠ざけるように掲げて、右手は己の剣の柄に。そして足でシュンレイさんが抜こうとした剣を、そうはさせまいと制した――一瞬で。すごい。


 シュンレイさんはまたすぐに判断をして……忠告とおり、抑えられた。

 もしも剣が旦那さんの形見だったら、足蹴にされたらただではすませなかったけれどとは、後々。

 この刀はシュンレイさんのコレクションの一つで実用だけど、こうしたお飾り品だったそうで。

 いやそれでも、でっかいこの青竜刀を片手で抜けるほどの方だと、このときのロザリーさんはしかとシュンレイさんの実力も見ていた。

 ……このとき私は、掲げられていた。

 いや、ヒョウカさん拝まないで。

 ゲンヤさんは――逆に楽しくなるタイプだとそろそろ解った。まさに俺より強い相手に、だ。いや、この人が長にならなかったのも、ちょっとわかってきたぞ?


 シュンレイさんは私たちの様子に、とくに同族であるゲンヤさんの様子に抑えられた。

 彼の実力は義姉として、長として、よくわかっていたから。

 彼が、何かしら理由があって連れてきた人間――理由が、これ、かと。

 やはり判断が早い。

「これは、いえ、それは、いったい……?」

 これ、それ。つまり私。

 皆の視線が集まる中、私は掲げられたまま――、

「私はジュヌヴィエーヴと……」

 そしてドラゴンです、と――続けるはずが。


「まぁ! しゃべった!?」


 あ、はい。お約束ありがとうございます。




「まあ、ドラゴン……竜ですか」

 再び席にそれぞれ。

 何事だと部屋に飛び込んできそうだった桑呀の皆さんをゲンヤさんが「大丈夫だから」と下げてくれた一騒動もあったけど。


「旦那様が、いえ、ヒョウカ様が探しておられた……」

 シュンレイさんは亡き旦那様が若い頃にヒョウカさんと一緒に旅に出ていたお話を、たくさん聞いていた。大事な思い出話。

「そうなのです。この方こそ……」

 感極まっているヒョウカさんへの視線は、もはや皆さん優しい。シュンレイさんの視線は生温かさもなく、本当にほっこりしているのは旦那様のそのお話があったからかしら。

「ほんにようございましたね」

 優しい。

 そんな私を一瞬の判断で危険視したことを謝られた。

 まぁ、正体不明の爆弾のようなものでありました。

 まず攻撃(・・・・)は、戦闘部族な反射的、思考――お恥ずかしいとされたけど、仕方なく。

 止めてくれたロザリーさんがひっそりとすごかったんだけど。


 これは私もうっすら記憶にある。ロザリーさんと出会ったときに、ゴブリンたちもそうだったな、と。

 しかしながら。もちろんシュンレイさんがゴブリンのように弱いわけではない。


 むしろ強いから。


 恐慌状態になり、自棄っぱちで攻撃してくるのはめちゃくちゃ厄介だけど。彼女のように反射的に攻撃してくるのは、また意味が違う。どっちも紙一重なところもあるけど、紙の分厚さが違うそうで。

 彼女よりさらに上になると、竜に敵対してはならないと判断もする――と、これは後々に。シュンレイさんもまだまだだとか――。

 そういえば双子さんたちは弱っていたから互いにかばい合う判断をしていたな。ランエイさんが本調子だったらどっちだったのだろう。ゲンヤさんは……落ちついてすぐ餅食ってた。ううむ?

 ……拝んでたヒョウカさんは気にしないとこ。


 でも、シュンレイさんが本当に彼らより下なわけでなく。

 ずっと一緒にいたロザリーさんにも……人間のロザリーさんにもわかるほど、今一瞬で、私の何かしらが、強くなっていた。


 何かしら。

 それが私のドラゴンの何か。


 ――また一つ、殻が外れたように。




ひっそりと美人と美女の対決回(武力)。

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