第71話 海は危険だったから。
「逗留……ですか?」
ヒョウカさんに提案されたことに私たちは顔を見合わせる。
つまり、ここに?
獣王国に?
「はい、よろしければですがご提案させてください」
ヒョウカさんは姿勢を正すと説明をしてくれた。
「私は竜の……ええ、貴方様の噂を聞いて出かけておりましたが、それはその情報がありましたからです」
「……あ!」
なるほど。わかった。
「闇雲に探すより、ここで情報収集を……て、ことですか?」
「はい! さようでございます!」
私が答えたら、すごく嬉しそうにお返事くださったが、これテンション高いの私相手だからだよね。
……ゲンヤさんがしらーっとした視線向けてるもん。うん。
「なるほど。一理ある」
ロザリーさんもそう思われた。
「先生がもう少し竜といたいからじゃないのか?」
ゲンヤさんのつぶやきにヒョウカさんの肩が揺れたけど、気がつかないでいてあげた私たちでしたとさ。
「まずは笙瑚の一族に話を聞いてみましょう」
しょうこさんとな?
「あ、虎の一族のひとつでございます」
私たちのキョトンとした顔に追加説明が。獣人さんたちは一族名があるのでしたね。種族で統一されているのではなくて、一族の。
「虎の一族?」
本当に様々な獣人さんたちがいるのだなぁ。
「彼らは海商をしております」
そう、ヒョウカさんが私の噂を聞いて。そしてあの国への往復をこの短時間でできたのは。
獣王国には海がある。
そして砂漠の国とも商いを行っていた。
マティの実はそれによりこの国に持ち込まれたものだった。うん、量を守れば良い品だもの。
そうして「ドラゴン」の噂話は、私たちより先に獣王国に着いていた。虎の一族さんにより砂漠の国から。
ヒョウカさんはこの虎の一族と仲が良い方なのだそう。竜虎の関係?
なので、あちこちに出向く彼らに、竜の噂があったら教えて欲しいと、常々お願いしていたそう。
時には乗せてもらって、自ら遠出して調べたり。
そうして今回もヒョウカさんはその商船に乗せてもらって、砂漠の国経由で森の国に行ってきたのだとか。
私たちは半年近くかかった。
ヒョウカさんは噂を聞いて、だいたい二ヶ月くらいの旅だったそう。海の時間もだけど、砂漠の国辺りでたくさん竜についてききこみしてきたそうな。
山あり谷ありな陸路より、さえぎるものがない海路はやはり早い。
それでも私たちが陸路だったのは。
海は危険だったから。
この世界、魔物がいます。ここにもほら。
そして当然、海にも。
海の魔物の方が時として大変。
私はゲームを思い出す。ドラゴンを冠した老舗のゲームとかね。戦闘シーンは船の甲板でなものが多かったが、現実は酷いものだそう。
魔物が甲板でおとなしく戦ってくれるものか。
そして何より、逃げ場がないのだ。海上は。
虎の一族の商船は、武装商船団であると聞いて納得感。
「魔物や海賊が出たときの用心棒として乗せてもらいました」
……しれっと言っているけど、つまりヒョウカさん、強い?
竜人……竜……。
この世界の竜――ドラゴンの位置。
そういえばゲンヤさんが「先生」と呼んでいるの……。
それは後で聞くとして。
つまり、この世界では海は旅に使うものではないのだそう。
どうしても、となったら、商船の倉庫の隅にでも乗せて貰うしかないそうで。しかもどえらい大金を払って!
それでも安全まで保障はされない。
遠くの海運国家では人間も運ぶ、いわゆる豪華客船的なものがあるそうだけど、この辺りではまだまだ。それもガチガチに武装してあるのだろうとヒョウカさんやゲンヤさんが。
そんなわけで私たちは遥々と徒歩だったので。はい、このペンギンは運ばれる側でしたよう。ロザリーさん、ありがとう。拝み拝み。
ペンギンだから海が気にならないわけじゃないのだけどね。
……私、泳げるのかしら?
このふわふわぽわぽわの子ペンギンの姿で?
……。
まぁ、それもまたおいおい。
私たちはありがたくヒョウカさん家にご厄介になることにした。
ランエイさんとベニユキさんたちのことも気になっていたからね。このままお別れはちょっとご縁が悲しいところ。
……生贄云々はまだまったく終わっていないから。
獣王国には海があるといっても港がある地区までは徒歩では半日ほどかかるらしいので、少し旅の疲れを癒やしてから、と。
うん、本当にロザリーさんにはしっかりと休息していただかないと!
あいている垢ありましたので、このご時世にX(twitter)さんをなろうさんようにしてみました。@akira_i_chii
まずは手癖でざざっと描いた赤毛の白銀冒険者とよく拝む子ペンギンをおいてみました。書き手はこんな雰囲気のイメージでおります。




