第70話 迷子は自分だけじゃなかった。
さて。
獣人国へ旅してきた私たち。
それは竜人さんに会い、私の――ドラゴンの住まいをご存知ないかお尋ねするためで。
結局……ご存知なかったわけだけども、この世界について獣人サイドの知見をいろいろ教えて貰えて、決して空振りだったわけじゃなく。
むしろ、自分をドラゴンだと――改めて自覚できた。
今までのようなふんわり感ではなく。
自分が魔物の有り様すら変えてしまう影響力がある存在だと。
私は、ドラゴンがどれほどすごい存在か、旅の途中で聞きながらきていたけど……正味のところ、信じられずにきていた。
だって、ペンギンよ?
どれだけドラゴンの気配あろうが、しょせんは灰色のふわふわの子ペンギンよ? ふんわり感とかけたわけじゃないけど。
エリナさんのところの黒いヤツ。
あれの時は、何かしらぶち切れていたので、今思いだすと、あれよりドラゴンの方が――この子ペンギンの方が強かったのかな……と。
でも。
私はぽんぽん……お腹をさする。
そこにある鱗。
ドラゴンの鱗。
私はこれのおかげで今まで魔物の皆さんが恐れたり慕ったりしてくれたと思っていたけど、どうにも、私自身もちゃんとしたドラゴンであったみたい。
どうしてペンギンなのかはおいといて、ドラゴンであるというそれは、しっかり自覚したほうが良い気がする。
誰だって、自爆したくはないわけで。
ドラゴンて……もう、そういう存在じゃない?
自分が自分で、ちょっと恐い。
そんな存在に、100%善意で付いてきてくれるロザリーさんという存在。
ありがたや……。
さて。再び気を取り直して。
これからどうするか?
「次、目指すならば、霊峰……か?」
まだこれからも付き合ってくださる気満々のロザリーさん。ありがたやありがたや。
「そも、霊峰てなんでしょう?」
「うむ、山……ではあるのだろな?」
峰、てありますもんね。
「ここはゼノンの里に行ってみるか……?」
確かに。ゼノンのお里のおじいちゃんたちの昔話だった。
「ゼノンの住まいは……」
すると、ゼノンはシュン――と、目に見えて落ち込んだ。隣にいたガロンがその背中を肉球で撫でる。
「ゼノンは己の住んでいた里が解らぬそうで……」
「え……?」
どうして、と思って――はっとした。
彼も捕まっていた。
出会いはあの檻……。
皆、ぼろぼろで、檻には鍵がかかっていて。思えば彼らが何日も檻の中にいたか察するべきだった。
「ゼノン……」
そうか、彼も私と同じく迷子だったんだ。
彼はまだまだ子供。
私は精神年齢的には大人であるからまだ、大丈夫だったけど、彼はどれほど恐くて辛い日々だったのか。
ついてきてくれたことに疑問もたなかった、この私の不甲斐なさ。
帰るところが、方角も土地勘も、何も解らなかったから……も、あったのだろう。
そうしたところをガロンがフォローしてくれていたと気がついた。
あの逃亡から後、再び合流するまで、ガロンがこの小猿を守ってくれてもいたのだ。
同じ脱出仲間として。
――ドラゴンの僕仲間として。
ガロン偉い……。わんこ偉い……。
私とロザリーさんの尊敬の視線に居心地悪かったのか、ガロンはちょっと咳払い。でも尻尾揺れてる。
「うむ……では、ますますゼノンの里を探さねば……」
ですね。
ゼノンが嬉しいとぽろぽろ泣き出した。あわわ。いままでごめんねぇ。
すると私たちの相談を聞いていた――まぁ、同じ部屋にいるから聞こえてしまうよね。
私とロザリーさんの方の言葉しかわからなくても、充分わかってしまう内容だったよう。
ヒョウカさんに提案された。
「それならば、むしろこちらに逗留なさいませんか?」
と。
その夜、早く気がつくべきだったと、ロザリーさんと二人で反省会したペンギン。




