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第6話 ドラゴンの威を借るペンギン。



「雛、なるほど」

 私が日本昔話を思い浮かべている間に犬さん――ではなく、ハウンドウルフさんと一角猩々さんがうなずいている。

 狩人らが日本昔話を知るわけないだろうし。私が桃太郎ポジもなんともはや。

 いや、そもそも私自身、川からどんぶらこしてないや。


 そんな私を放っておいて、お三方はなにやら私の呼び名を決めたらしい。

「雛のお方」

 と。

 何だかくすぐったいような、雛です、と開き直りたいような。

「雛のお方、早くお逃げなさい」

 あ、呼び方なそれどころではないのだった。

 ハウンドウルフさんが再び言ってくれたが、私は私でそうもいかないのです。

 っていうか、どうしてハウンドウルフさんたちは私に対してそんなに低姿勢なんだ?

「あのー……私は、えーと……」

 何と言ったら良いのか悩んでいたら、一角猩々さんもハーピーさんもまた私に逃げるように言ってくる。

 みんな狩人に気がつかれないよう小声で。

「貴方さまのような尊き方が、人間などの手に落ちたら……」

 そこなんですな。


 尊き。


 何が?

 この魅惑のふわふわぼでぃーがでしょうか?

 確かに私もかわいいとぬいぐるみを買いましたが。

「あの、私は……そんな尊きとは……?」

 首を傾げるペンギンに対して三人は顔を見合わせて苦笑したようだ。


「何をおっしゃる。かように気高き竜のオーラをお持ちなのに」


 ――え?


「竜の……オーラを……?」

 一角猩々さんの言うことを繰り返した。

 竜――ドラゴン。

 ……おお。

 皆さんは私をドラゴンとわかってくださるのか!

 生き餌から真の姿に戻ったね。ペンギンだけど。

 そうかー、オーラあるんだー私ー……


 ……あるかな?


 自分の身体のどこらへんにそんな威厳があるかしらと、ぽわぽわした灰色の身体を照れながら撫でくり、撫でくり――あ。

「……兄上さまの、鱗」

 ぽわぽわの羽毛の中に輝く鱗。

 自分の胸元に輝くそれに合点がいった。

 兄上さまの、竜の気配が残っているのだろう。殻にだって残っていたくらいだ。

 胸元と檻の中の三人を何度も、首をくりくりと動かして見てしまう。

「……竜のオーラ……気配……竜の……」

 ああ、謎のがっかり感……。


 いやでも、逆に考えて、私!


 兄上さまの残り香――残り気配を大事に!


 現状の私はただの子ペンギン!

 しかも拐われ中。箱入りだったせいでお家がどこにあるのかすらわからない。

 そんな私にあるのはこのふわふわぽわぽわボディーと兄上さまの鱗。

 これしかないんだ。

 私には何の力もない。

 だから、ハウンドウルフさんたちに手助けしてもらわなくては。彼らが気にしてくれるこの残りオーラを大事にしなければ。


 ここはありがたくドラゴン(兄)の威を借りましょう!


 そうと理解すれば改めて檻の彼らに向き合った。

「私ひとりでは逃げられないのです」

 私にはぺったらぺったら歩くことしかできないのだ。

「雛の方……」

 するとお三方はなにやら戸惑ったあと、うなずいた。何やら力強く。

「おひとりでは逃げられぬとは――」

 そうなんです。そうなんです。雛ですから。ぽわぽわボディーでかわいいしかないのです。


「我らを置いては行けぬと、そう言ってくださるのですね」


 ――ぺ?


「ああ、慈悲深い方……!」

「何とお優しいのでしょう……」

「そのような幼さで……さすが竜……!」


 おおお!?

 お三方の中で、なんかすごく私の株が上がってる!?

 いやいや、言葉が、なんだが違う捉え方されてる!?


 ひとりでは逃げられない。


 自分で逃げられないから――が、自分だけ逃げるなんてとんでもねぇ、と……私がそんな男気溢れるペンギンになってしまってますよう。女だけど。


「……ぺん」


 ……でも、そうだな。

 置いては行けないよなぁ。

 どう考えても彼らの未来が明るいとは思えない。

 さっき私は何を想像した? ペンギンの開きじゃなかったか?

 それが、ハウンドウルフさんたちの姿に脳裏で入れ替わる。

 ……嫌だ。


「ペンっ!」


 ――皆で逃げよう。


「はい! 私ひとりでは逃げられないのです!」


 もう一度繰り返した。

 さっきとは違う意味で。


「一緒に! 一緒に逃げましょう!」




また急に寒くなったので、わんこに慌てて冬服着せました。洗ってまた冬に、と片付けてあったのですが…とほほ…

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