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第56話 次期獣王候補、筆頭。


「人間の、冒険者の方が、何用かと思いましたが……」


 私たちが待っていた部屋に訪れたのは鷹の獣人さん。

 ランエイさんと同じ二十歳前後な若者だ。

 翼と同じ焦げ茶色の髪をポニーテールに一結びにされているから、若武者のよう。

 猛禽類の特徴な金色の瞳がちょっと鋭くて怖いが、逆に凛々しくもある。

 そう、ランエイさんが美形なら、お友達も美形でした。


 彼はランエイさんと次期獣王の座を争う好敵手にして、ともに武と文を切磋琢磨するお友達であるという。


 そう、彼は今や次期獣王候補、筆頭。

 そんな彼を手紙一つで呼び出すことができたのは、ロザリーさんの肩書きだけではなく、ランエイさんの存在があったからだろう。

 ランエイさんこそ、彼の前に筆頭候補であったという。それをさっきの門番さんが教えてくれた。時間かかってごめんなさいと、お茶のおかわりくれながら。

 ランエイさんはすごいひとだったんだなとびっくりした。御本人はそうした素振りを見せなかった。偉い人ほど、偉ぶらないてことか。見習いたいドラゴン――偉ぶるタイミングがありません。ペン。

 そんなひとも、家族の為にすべてを放り出した。

 門番さんたちはランエイさんの出国をどう思っているのだろう……。


 そんなランエイさんのお友達のタキさん。

 何より、ランエイさんたち双子の事情を知っていて、出国の手助けすらしてくれた恩人だとか。


 人生ってやつはどれだけ良い師匠に出逢えたかと、どれだけ良い好敵手ができるかで成長の度合いが違うと、以前の私なら言っていると思う。

 友人なら良書こそ人生の最高の師て叫ぶかな。私もそこに異論はない。


 そんな好敵手がいるランエイさんは、その点では幸福だろうか。ご家族のご苦労とはまた別なところで。

 私がリュックの隙間からそう考えながら覗いていると、ロザリーさんと好敵手さんの自己紹介は始まっていた。


「私はロザリーと申す。冒険者だが、今は旅の途中、とでも」

「わざわざ獣王国へのお立ち寄りありがとうございます。私は嘩曜の……鷹の、タキと申します」

 獣人さんは苗字の代わりに一族の名を使うのはランエイさんに聞いていた。でも人間のロザリーさんには通じないかと、言い直してくれた。

 私にはうらやましい背中の翼。

 ハーピーさんと違って人間の形態に翼が付属している感じ。天使みたいな……?

 思えばランエイさんたちも人間の形態に近かった。でもさっきの門番さんはもっと犬に近いもふっとした姿なりをなさってて、尾っぽの他にもちょっと変わった兜してたな……耳の部分が、こう……。

 獣人さんも種族とか、いろいろ違うみたい。私はこっそり観察、納得。


「では。旅の途中でランエイと会われたのですね?」

「はい。それで手紙を託されました。ご確認いただけただろうか?」

「はい……マティの実ことを注意するようにと……」

 タキさんも複雑だろうし混乱しているだろうな。

「まさか、マティの実が原因でしたとは……皆のために良かれと思い、買い付けたものが……」

 本当にそれ、てヤツですね。

「ランエイ殿にも中毒症状がでておられた」

「な、なんですって!?」

 聞くと旅立ちの餞別として、マティの実をたくさん用意したのはタキさんだったそう。良かれと思って贈ったものが、害になってしまったのだ。それは悪意なかったとしても、気持ちは辛いよね。

「安心なされよ。彼は無事だ」

 飛んで行きそうな勢いですね。ロザリーさんもびっくり。

 旅の途中で出会って、自分が対処方を知っていたからとロザリーさんが説明すれば、タキさんは大きくため息をついて安心したよう。

「無事……そう、でしたか……」

 顔を覆って、大きく息を吸い込んで、タキさんは気持ちを切り替たようだ。

 顔を上げた彼は友人の心配より、獣王国の次期王としての顔になっていた。

「ありがとうございます。貴方に出会えた幸運に感謝を」



「手紙にありました通り、マティの実の食用を控えるよう、王と相談致しましょう」

「それが良かろう。そうすれば病もいずれおさまり、生贄を捧げる必要もない」

「ああ、彼の弟御とも……?」

 タキさんはベニユキさんのことも把握しているという。

 話を聞いているのかというタキさんに、ロザリーさんはうなずいた。

「うむ、彼は自分のせいで兄上を次期獣王の道を諦めさせたことを悩んでいるようだった」

「……そう、でしたか……」

「えーと、そもそも彼は呪われてなぞいなくて、だな?」

「は?」

「ああ、確かアルビノ……とかいう、体質らしいぞ?」

 タキさんの目がまん丸になってる。

 だよね。知らなかったランエイさんたちも同じような反応だったね。

「だから本当なら、ランエイ殿は国を離れる必要もなかった」

 ベニユキさんにはさらに私のドラゴン保証もあるけど、それを始めたらややこしくなっちゃうから黙っておくことにしてある。

 リュックの中にドラゴン在中なんて、重ねてややこしくなっちゃうからね。

「人間の国では、そんなことまで……」

 マティの実や、体質のこと。タキさんは獣王国と人間の国のことを悩んでいるようだった。まぁでも、アルビノのことについては知らなかったのは仕方ないんだけども……。

「しかし、それはさらに良き知らせをありがとうございます……ですが」

 ――が?

「……実は、ある種族が、代わりの贄を、と……」



 ああ、ベニユキさんが心配していたことが。



「……止めさせることは?」

 うん、マティの実のことを早く公表すれば――。

「いえ、それを公表するには王に決めていただかねばなりません……ですが、王はご高齢で、いまは臥せってもおられて……」

 その上……。

「事態に、王が、贄を望んでおられます。病からか気弱になられ……」


 ……なんてこったい。


 ロザリーさんも私と同じような顔をしていた。

 いやもう、本当に……また生贄かぁ……。

 いや、神頼みしてそれが叶っちゃう世界なのがなぁ。


「それ故、その種族が次期獣王候補へ新たに名乗りをあげてきまして……」

「ランエイ殿より、次期獣王は、彼が辞退なことになっているから、貴殿に決まっていると……?」

「ええ、ほとんど私に決まっておりました……ですが、いまはまた状況が変わりつつあります」

 もしも彼が次期獣王に決まっていたら、諸々話しは早かった。ランエイさんもそれを期待していた。

 彼が獣王になればマティの実の危険の知らせを信じてくれたろうし、ランエイさんたちの帰国も。


 獣王には一族でバックアップもしてその座を競うものであるのだとか。

 贄という存在を功績として、新たな候補がのし上がってきたと、タキさんは複雑そうな顔をしていた。

「……贄となるのは白子と決まっていなければ……いや、あ」

 でもよそ者であり、人間であるロザリーさんに話過ぎたと、タキさんははっとした。

「失礼しました……」

「いや、私のような部外者が何か言えることではなかった……が、実の方は早めに対処されなされよ」

「そうですね。本当にありがとうございます」


 私たちは、これにてお暇。やはり竜人さんを探すどころではないし、今の獣王国を人間のロザリーさんが、魔物の私たちが、うろうろするのはよろしくないだろう。

 まだ門の中から入ってもいないけど、一度出直すのは予定とおり。

「……ランエイとまた会いますか?」

 出直すつもりだと、門まで見送ってくれたタキさんに問いかけられた。やはり心配だとか。

「ランエイが貴方に手紙を託されたのはまだ具合が悪いからと……」

「ああ、本当に今はもう落ちつかれたから安心なされよ。彼らとは、獣王国の外れの山の、確か昔、貴殿らが修業場にしていたという……」

 そう、古い道場が。獣王国への境というか、辺鄙な場所だったけど。

 でも、タキさんの翼みて納得したんだよね。彼なら一っ飛びで、むしろ広いそんな修業場所がいるわな。

「あそこですか……いや、確かに隠れるなら……」

 何でもこの数ヶ月前からその辺りで変な鳴き声が聞こえるようになって、人は近寄らないのだとか。

 それは聞いたひとによると、女の声で、嘆き悲しむような、すすり泣くような……怖!

 そこでランエイさんたちは待ってくれている。

 ホラー苦手だし、ちょっと私は嫌だったんだけど……まぁ、我慢。我慢。何かあったらそれこそドラゴンの神秘パワーですよ! どうやったら出せるのか訊かないで! むしろ教えて!


「どうか、無事であれと。いずれ帰れるようにするからとお伝えください」

 タキさんからの伝言を、今度はランエイさんにお届けだ。


 だけど待ち合わせ場所が変更になっていた。

 門を出たら、糸電話こんにちわ――ゼノンから。




一応、地図上的には獣王国に入っているのですが、肝心な都への門でうろうろしている現状なのですな。

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