第55話 好敵手と書いて、のヤツ。
予定変わったけど、獣王国に着いたぞぅ。
それから野営地での三日間。
ランエイさんの回復にお付き合いしていた。この状態で見放すなんて、お人好しロザリーさんにできるはずがありませんとも。私も、ね。
リアルここをキャンプ地にしたわけだが、いやいやなかなか、どうにかなって。
私は別に寒くなかったから、皆さんはどうかしらと心配したけど……旅慣れたロザリーさんは経験も装備もしっかりしていたし、残されていたテントのお陰で双子さんたちも夜露が防げて。
体調悪いランエイさんがまず第一で連携した私たち。
ガロンとゼノンも夜が明けたら合流してくれたので。
しばらく待機な理由を理解したガロンが獲物をとりつつ周りの警戒を、ゼノンが追加の薪拾いをしてくれて助かりました。
みんなで協力。私も……うん、うん……やれることは。うん、短い手足で! お荷物ポジから今は冷蔵庫兼用ポジにレベルアップしてるし! ……泣いてないよ!
うん、ハウンドウルフと一角猩々のふたりが仲間としって、獣人の双子さんたちがびっくりしたのは、またお約束。
さて。
まだまだ本調子ではないものの、熱は下がり歩けるようになったランエイさん。今まで以上にしっかりとフードを被るようになったベニユキさん。
そして合流したガロンとゼノン。
やぁ、パーティが増えていく。
気分は……ちょっと違うだろうけどわらしべ長者? いや、だいぶ違うな。交換してないし仲間が増えていくから大きなかぶかな?
だけど、さっそく私たちは別行動となった。
「さあ、獣王国に参ろうか」
「はい!」
私とロザリーさんは当初の予定とおり、獣王国に入ったのだけど、当初よりも目的が増えちゃった。
竜人を探すことよりもまず、双子さんたちの懸念、マティの実の危険を伝えなければ。
私もロザリーさんも、人道捨ててないからさ。それが大事だとわかる。
……いや、実はランエイさんから、竜人さんはどうやら変人……んん、ちょっとクセのある人らしいから、自分が紹介できるまで待った方が良いかもと……。
……うん、後回しにします。
ドラゴン亜種ペンギン。私自身が変なドラゴンだしね。うん。泣いてないよ。泣いてない……。
問題はどうやって獣王国の人たちに伝えるか、だ。
こんな状況に無策に全員で国に突っ込む脳筋は一人もいませんでした。善哉。
ランエイさんたちは、彼らが今、この国でどういう立場になっているか解らないから国に入るわけにはいかない。堂々と帰れたらいいけど、のこのこ出てきて御用になったら大変だから。
なので私たち――私を連れたロザリーさんが先んじて入ることにしたんだ。
「獣王国が冒険者ギルドに加盟していれば、そちらから話を通してもらえたのだが……」
ロザリーさんが残念そうに。
もしも冒険者ギルドがあれば、かつてクワドの森の危機を話してきたように、マティの実の注意を冒険者ギルド経由で獣人たちに勧告してもらえたかもしれない。
ギルドとは国を越えて繋がっているものだから、そういうこともできる、と。
ランエイさんからも話を聞いたけど、獣人さんが冒険者になるには獣王国から出た近隣の国で登録するのだとか。若い獣人には冒険者ギルドに加入したいと考えるものもいるらしいが……やはり、人間側に差別意識があるなら、獣人側にも何かしら感じるところもあるのだろう。鏡合わせだよね、そういうところは。
「私の肩書きも使えたかもしれないのだが……」
そう、白銀のロザリーさんのお言葉は御本人は謙遜なさるけど、けっこう大きいらしいし。
「ままならないものだなぁ」
ですねぇ。
そんなことを小声で話しながら、私たちは獣王国の関に入った。
やはりどこの国でも同じようなかんじ。この半年で私も慣れたもの。
はい、関所ではロザリーさんのリュックの中が私の定位置。
ぬいぐるみですよぅ。密入国じゃありませんよぅ。
ロザリーさんの白銀等級は冒険者ギルドに加入してない国でも、それなりに目を見張られるものであり。
門番の役人さんが「おお……」て、小さく驚いた。
門番さんは犬の獣人さんかしら。
尻尾がくるんと起ち上がっている。
「ようこそ獣王国へ。何の御用向きでしょうか?」
これは当たり障りなくて、他の国でも尋ねられること。でも今回はちょっとどきどきする。
ロザリーさんは門番さんに柔らかく微笑む。
だけど、門番さんはきちんと仕事なさった。
「せっかく訪れてくださいましたが、獣王国では今、謎の病が広まっております。人間の貴方さまに嫌な思いをさせてしまうかと……」
人間と獣人の間には壁があるというから。
ふとした弾みに病が人間のせいだと言われかねない。その逆もしかり。
門番さんは申し訳なさそうに尻尾を下げてしまっている。彼は門番である故に様々な種族を見ているからか、偏見の視線がないのか。ロザリーさんを心配している気配しかないし、良いひとなんだろな。
私たちも門で止められるのは予想していた。
うん、病が広まっているなら通しちゃだめだよね。私たちはそれが伝染するものではないと解っているからちょっとばかし気が楽だけど、ランエイさんたちに出会ってなければ悩んだだろう。
思えば彼らに出会えて、心の準備できたのは良かったのだろう。
門で止められるのは予想内。
だからロザリーさんは持ってきた手紙を門番さんに差し出した。
「こちらを獣王候補であられる、タキ殿にお渡し願いたい」
それは今やこの国から出てしまったランエイさんからのお手紙。ランエイさんが今、どのような立場にあるのか、ただの旅人の私たちが尋ね歩けるわけもなく。
「旅の途中でランエイという御仁から預かった」
「ランエイ様から――!」
門番さんはやはり知っていた。
っていうか、ランエイさんが獣王国の中でなかなかの知名度だと思うべきなのだろう。
さすが次期獣王候補で。
そう……ランエイさんが指名した相手も――お友達も、同じく次期獣王候補。
ランエイさんからは良き――好敵手とかいて、ライバルとも、親友とも読むやつだとか。
私たちは門番さんが用意してくれた部屋で待っていた。
御茶のおかわりが二回ほど。
ロザリーさんがただの旅人ではなく、白銀等級の冒険者だというのもやはりあったと思う。もしもそれがなかったら、ランエイさんたちはそうでなかったとしても逃亡者からのお手紙だなんて、きっとあれこれ詮索されたよね。
お茶も出されなかったに違いない。うん。
そうして待って、数時間。
私とロザリーさんの小声のしりとりもそろそろネタ切れになった頃。
大きな羽ばたきの音が私たちのいる部屋まで。
「……来たようだ」
逞しい翼が彼の背を覆う。
その強さと美しさに、かつて戦国武将に愛され多くの家紋にもなったという生き物。
それは鷹の獣人――。
「人間の、冒険者の方が、何用かと思いましたが……」
翼。
……ねぇ、飛べる? 飛べる?
うらやまくなんてないんだからね!
……泣いてないよ?




