第54話 この双子さんたち、強いなぁ…。
内心、私がドラゴンだから信じろ、ていうのは、かなり強引だったとは思う。
詐欺に近いと、後々、いつも。
でも、私の存在によって、私の言葉によって、少しでも気が楽になるひとたちがいるなら――。
そも、ドラゴンとは……――。
「私は日光に気をつけなければならないのですね」
思えば、フードを被っていたのはちょうど良かった。逃亡と、獣人であることを隠していたわけだが、日除けにもなっていた。
何という幸い。
ベニユキさんは深く深く、私に頭を下げてくる。
「兄をお助けいただいただけでなく、何とお礼を申し上げれば良いか……」
重たい枷が取れたと、彼は嬉しそうだ。
だけど、その赤い瞳は何かを決意したよう。
そういえば瞳が赤いのはやはり獣人さんだからだろうか。人間ならば、必ずしも赤い色合いになるわけではなく、茶褐色や青色など薄い色目になるとも、調べて、そうあったけれども。
でも彼の赤い瞳は素敵だ。
いや、何か見つけた、力強い瞳はどんな色だとしても。
「この身が白いのは、呪いではないというのは、私だけなのでしょうか?」
「えーと……もしかしたら、本当に呪いがあるかもしれませんが」
だってこの世界、存在するから。魔法とかあれこれ。
「でも。たぶんほとんどが遺伝情報の……えっと、体質の関係で、呪いではないと思いますよ?」
断言はできないけど、彼を見て、お話を聞いている限りは、ただアルビノで生まれただけなような。そういう遺伝子の世界を知らないから、呪いという形になっているのだろう。昔の日本もそんなようなこともあったらしいし。
でも白いのは瑞兆ともされたよと、いつかベニユキさんに教えてあげたいが……違う世界のことだからどう話したらいいかな。因幡の白兎とか、白蛇とか……縁起物? いや、動物に対してだから、失礼になってしまうかな。悩むね……。
「そう、ですか……」
ベニユキさんは私の話を聞いて、深く息を吸い込んだ。
「帰りましょう、兄さん」
そして、決意していた。
「ベニユキ……?」
「獣王国に帰りましょう。いえ、戻らねばなりません」
ランエイさんが、いや私もロザリーさんも驚いていた。
何故、彼がそう言い始めたのか。
それは、ベニユキさんの強さと優しさから。
不遇の身であった彼が選ぶには、きっと葛藤したに違いない選択。
「マティの実の危険性を伝えなければなりません」
「……それは、俺も考えていた」
ランエイさんも自分の病の原因が判明したときから、何とか国に伝えられないか考えていた。
国にはまだこの症状で苦しんでいる仲間たちがいるのだから。
けれど、それだけじゃない。
彼らは弟を犠牲にしようとしたのだ。
悩むところだったろう。
恨みを、そして怒りを抱えて、逃げる――捨てるという選択をしたのに。
でも、そんな弟は言うのだ。
「それに、私の他の白い子が、贄にされるやもしれません」
自分だけが助かるのは、やはり嫌だ。
呪いでもないなら。
贄を捧げる必要もないのなら。
いや、そもそもそんな哀しいことをしてはならない。
「止めなければなりません」
「……ああ」
ランエイさんが溜め息交じりにうなずく。それは、自分の中の何かを吐き出すように。
弟を犠牲にしようとしたものたちへの怒りと、それを許せなかった自分を。
今度はその感情を捨てなければならない。
「俺よりお前の方が、よほど王に向いていたろう」
ランエイさんが苦笑交じりに。ベニユキさんはまさかと、逆に泣くように笑う。
「兄さんがいてくれたからの私です。兄さんが、本当はどれほど国を思っていたか……」
それなのに自分のせいで国を捨てさせてしまった。
だからこそ、ベニユキさんは獣王国を守りに戻りたいのだ。
哀れみと慈悲をともにして。
「良きご兄弟だ」
ロザリーさんが微笑ましく見守る膝の上、私もうなずいていた。
この双子さんたち、強いや。
心の向きがさ。
嫌いじゃないと、私とロザリーさんはすっかり好感をもった。
「でも移動するなら、ランエイ殿の体調が治ってからになされよ」
たびたび水を差すようで、とロザリーさんは遠慮がちに。いやでも、私もそう思う。
双子たちは顔を見合わせて、早く国に戻ろうという気持ちに焦りながらも、確かにそうした方がよいと理解しているのだろう。
ランエイさんを大事に思うベニユキさんは、力強くしっかりとうなずいていた。




