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第52話 それは違うよ。


 奇病は国の中央に近いほど流行っていた。

 それは地方よりもマティの実が振る舞われ、回っていたからなのだが。

 だからこそ、より人々は恐怖を感じた。人が多ければそれだけ病にかかるものも多くなる。


 あまり豊かではない国だ。

 それでも何かの助けになれればと、禁域とされていた森に食べ物や金になるものはないかと探しに出掛けたものは、帰り来ず。残された家族はただ哀しみを増やすだけ。

 さらに病で苦しむものたちを寝かせないつもりか、この数ヶ月前より、どこからか風に乗り甲高い鳴き声が聞こえるものもいるという。

 それは女の嘆き悲しむような、恨みをすすり泣くような――酷く焦燥感に囚われるような。


 ――獣王国は呪われたのか?


 やがて獣王も体調を崩す。もとより老いていた王には、心労も祟ったのだろう。

 彼は民たちを救う前に己も癒やさねば、治さねばならなくなった。

 指導者が倒れたのだ。使い物にならなくなったのだ。

 そうして人々は、追い詰められた。


 ひとならざらぬ何かに縋りたくなるほどに。




 双子の話を聞くに、私の目的地だった獣王国は、何とも何とも……なかなか大変な状況にあるようで。


「私は生まれた時からこのように呪われて……」

 ベニユキさんの嘆きに、私はひっそりと首をかしげていた。


 どこらへんが?


 と。


「ご苦労なさってきたようですな」

「いえ、私には兄がいてくれました……兄はいつも私のことを気にかけてくれました。でも、迷惑をかけるしかない我が身が情けなく……」

「……うむ。辛うござるな」

「呪われし我が身が兄の役に立つならば、私は本当は贄にも……」

「ベニユキ、それ以上は言うな」

「ですが兄さん……」

「俺を、弟を差し出したから王になったと、情けない男にするつもりか?」

「いいえ……いいえ、私は……」

 ああ、なるほど。

 獣王に選ばれる何かが有利になったのかな。贄になる者を差し出せば、その分、国の為になることをした、と……。

「事情はあいわかった」

 獣人の世界のことはよく分からないからと、ロザリーさんも話に相槌を打つしかないようだ。

 でも、役に立てないのがどれだけつらいか、私もわかる。私も今まさにリアルお荷物だし。


 それに、この世界。

 魔物がいる。

 獣人という、人間と違う種族もいる。


 魔法がある。


 そして――呪いもある。


 この半年で、私も理解した。

 そういう世界だと。


 何よりも――自分がドラゴンだ。


 ……まぁ、物言うペンギンだ。


 だから、いろいろ私もそろそろ世界を受け入れてきたんだけど……。


 物言うペンギン。そろりと手を上げました。

「あの……それは違うようです……」

 ちょうど話の継ぎ目で、私の小さな声はそれでも三人の中に入り込んだ。

「……え?」

「今何か……」

 ランエイさんもベニユキさんも、びっくりしてるし。

 ロザリーさんが「よいのか?」と私を見ていることに、ぬいぐるみが動いたことに、再びびっくり。

「しゃべった……?」

 おう、懐かしい反応。

 ロザリーさんも苦笑している。

「よいのか? ジュネ?」

「はい、悪いひとたちではないようですし」

 珍しいしゃべる魔物と攫われることはなさそうで。

 それに、私もロザリーさんのお人好しがうつったんだと思う。


「それに、私の目には彼は呪われているようには見えません」


 そう――このドラゴンの目には、ね。


「うむ、そうか!」

 ロザリーさんは私を知ってるから理解がはやい。

 ドラゴンが、神に等しい存在が、それくらい見抜けなくてどうする、ってやつです。

「あ、あの、それは……」

 双子の猫目がまん丸になってる。

 だろうね。

「私はジュヌヴィエーヴ」

 さて、自信を持って。胸はって。


「ドラゴンです。よろしく」


 猫目がこれ以上ないほどまん丸になった。



かわいいもふもふとみせかけて、何気に血生臭い世界です。実は。

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