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生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~  作者: イチイ アキラ


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第49話 マティの実の注意。



「いや、事故にでも遭われたか、病いかと見ていたが……」

 うん、そんな感じのふらふら具合だよね。

「や、病い……」

 付き添っていた方がびくりと震えた。そしてがばりと伏せて、頭を下げてしまう。

「どうか、どうかお願いします。こちらにて休ませてください……!」

「ベニ、落ち着け」

「でも……」

 別に病気だから他所へ行けというつもりではないのに。でもきっと、そう言われるのが怖くてびくびくしてたのだな。

 野宿に変わりないけど、火があって少しなりとも整備されている野営地と、何も無いところではかなり安全度が違う。体調が悪いなら尚更に。


 ロザリーさんもそう受け取られてしまったことに慌てて、そうではないからと言葉を続ける。

「いや、余計なお節介で申し訳ない。気を悪くされたなら許されよ」

 好きで食べているならば仕方ないし、と彼女は一人納得しているのだけど……。

「あの、どういうことでしょう……?」

 付き添っていた方をなだめながら、果物を食べていた、まさに病かと思われた方がロザリーさんに問いかけていた。

 さっきから質問のキャッチボールだな?

 するとロザリーさんが、悩むように眉をひそめた。きっとフードの向こうで彼らも同じようにしているだろう。

「いや、貴殿が食べていたのがマティの実だから……」

「はい、マティの実でしたが?」

「うむ、お節介して申し訳ない。お好きで食べられているならば、良いのだ。そこまでして食べるならば、何か理由があるのだろう?」

「は……?」

 ……。

 うむ?

 数秒間の空白の後、ロザリーさんが思い至った。


「もしや、マティの実の食べ過ぎで中毒症状が出ているのにお気づきではない……!?」


 ぺぴょ……!?

「中毒……ですと?」

「ああ、マティの実は、とても栄養価が高く、干しても美味いが、その実、食べ過ぎると身体に悪い症状を引き起こすと判明しているはずだが……」

「な、なんですと……?」

「それは青果も変わらない。食べ過ぎないよう、注意されているはずだが……?」


 マティの実は、ここより遥か西方。

 私たちが始めにいた辺りより、もう少し砂漠の方にある国々で生っている果物。

 砂漠でも実をつけ、その過酷な世界に生きる人々に救いとなっている果実。それはその世界でもわずかな雨でも実を成らせるだけでなく、その小さな実が持つ高い栄養価に。

 だから、旅をするものにも重宝されて、近年では砂漠の国の大事な輸出、加工品になっている。


 ――と、いうことをロザリーさんが説明してくれた。

「ただし、マティの実はその高い栄養効果の代わりに、食べ過ぎると逆に毒になることもまた近年、判明している」

 ロザリーさんも常備食として持ち歩いているから、詳しかったのだ。

 っていうか昨今、冒険者の持ち歩くことがあって、世界に広まっている加工品らしい。干すことで日持ちも伸びて、軽量化もできているから。

 そしてわずかな量で高い栄養価。

 容量を守るならば、なんとも良品であるわけで……。



 容量を超えると、頭痛と吐き気がはじまり、微熱から起きるのが辛い倦怠感に襲われる。微熱は下がらずやがて歩くのも辛くなる頃、身体には謎の内出血が。

 そうして徐々に身体は斑に染まっていく。


 最後には――起き上がれなくなる。

 すなわち、死。


「だから昔、西方砂漠では青斑病と呼ばれる奇病があったのだが。近年はマティの実の中毒症状だと判明して、ずいぶんと少なくなった病いだ」


 私は何となく銀杏や青梅を思い出していた。食べ過ぎ注意や、毒にも薬にもなるものはたくさんあった。どんな世界にもあるんだなぁ……。

 いやはや、何事も容量、使用法はご確認を、ですな。


 ロザリーさんの話しを聞いている二人は、知らなかったとびっくりしている。

 まさに今、自分は青斑病であると。その症状で歩くのも辛くなっていたのだと。

「購入したときに商人から説明されませんでしたかな?」

「いえ、そのような話しは……」

「ふむ。まぁ、割と広まっている話しだから、今更感があったのだろうか?」

 商人の怠慢ではなかろうかとロザリーさんが眉をひそめる前で、二人は複雑そうだ。

「では今まで、知らずに食べておられたか?」

 マティの実は一日三個までにしたまえ、とロザリーさんに言われて、二人は大きく息をついた。

 今まで知らずに、どれだけ食べてらしたのかしらん?

 あら、でもヨロヨロしてたのは一人だけ?

 不思議に思ったら、すぐに謎は解けた。

「わ、私が酸っぱいものが苦手なあまりに、兄さんにばかり……」

「……気にするな」

 あ、苦手だから食べずにいたのね。

 旅の荷物は限られるから、大事な食料も片寄りは大変だったろう。

 でもそれが幸いしたとは、なんともはや。


 マティの実はちょっと酸味があるのも特徴なのだとか。干すことで少し和らぐけど。砂漠ではその酸味のおかげで、食べることで唾液も増すからちょうど良いのだろうな。


「あの、治し方などはあるのでしょうか?」

 当然気になるよね。

 尋ねられて、ロザリーさんはしっかりとうなずいた。

「まずはマティの実を控えること。それから毒消しの薬草のいくつかを少しずつとりながら、水分を多めにして安静になされよ」

 いきなり急に強い薬草で毒抜きするのではなく、ゆっくりと抜いていった方が良いと。

 薬草も種類があるから、そのうちのいくつかをロザリーさんは思い出しながら……ご自分の鞄をごそごそしている。

「まずは軽めな毒出しと疲労緩和の効果があるクローサリーから飲み始めるとよろしかろう。利尿作用があるが、そのぶん水分を多めに。ああ、今後は出す分、栄養失調みたいになるかもしれないから、気をつけなされよ」

「は、はい」

「マティの実からではなく、違うものから栄養価の高いものをバランス良くな」

 そうしてロザリーさんは鞄から粉末状のお薬を取りだした。ロザリーさんはいくつかお薬持ち歩いている。冒険者の心得として。

 冒険者ギルドにはちょっとした薬と保存食の初心者パックとかあるとかも。これはそういうものを得て、ロザリーさんの長年の経験で作られた救急セットだ。

 その中に毒抜きの薬もちゃんとあった。

「どうぞ。クローサリーの薬だ。まずは様子を見ながら三回分」

「え、あ、ありがとうございます!」

 お人好しのロザリーさんだから、こうなる気配してた。でもよかよか。助け合いはまた大事なことだ。

 二人はロザリーさんの雰囲気に、彼女は信用しても良いと感じたのだろう。

 普通ならば疑わしいと、他人からお薬もらったりしないだろうから。

 でも、あとから二人に聞いたら、このときは藁にもすがりたいほどであったし、やはりロザリーさんからはこちらに悪意無く、親切心ばかりなのが話していて解ったという。

 うんうん、逆にロザリーさんはお節介だったかといつもどおりに苦笑していた。ご自分のお人好し、解っているのですねー。


 ロザリーさんが何故にこんなにもマティの実に、その治し方に詳しいのか。

「八年くらい前だったか。マティの実が理由で青斑病が起きると調べた御方を、護衛したことがある」

 何とまさに当事に居合わせていた。

 まだまだ冒険者として駆け出しの頃だったそうだけど、そうやって彼女は経験を積んで来たんだ……。

「消化に良いよう、スープでも作ってしんぜよう」

 ロザリーさんはさらにお人好し発揮。まぁ、ここまで会話したらほっとけないよね。

 私はこそこそと、収納空間からロザリーさんの鞄に野菜とかをちょっと移動させる。気づいたロザリーさんとアイコンタクト。互いにグッジョブ。

「まずは薬を先に飲まれた方が良かろう。その間にスープを作っておく。水を汲んで来るから……」

 彼女の様子に、さすがにフードを被っていたままでは失礼だと思ったのだろう。

 二人はそっと外すと、頭を下げた――。


 ――そこには三角の、耳。

 



この世界の創作な食べ物で中毒症状ですので。治し方も同じく。

だけど銀杏や青梅は現実。お気をつけて。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんというかこう仙人のような人ですなロザリーさん
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