第45話 過去に発病済みでした。
「……んふ」
ゆらゆらと揺れてしまうけど、私は満足で口が――いやさ、くちばしがにやけてしまう。
「主よ。どうぞ落ちませぬよう、お気をつけて」
「はい~」
今は周りに人間の気配がないということで、私はガロンの背中にひとりで乗せてもらっている。
そう! ひとりで! ロザリーさんの補助なしで!
んふ……。と、笑いがこみ上げるのも仕方がないというやつで。
だってずっと憧れだったんだもの。
犬――いや、それはガロンに失礼――オオカミの背中に乗れるだなんて!
隣を歩いているロザリーさんは私が楽し気なことに不思議そうだけど、どうぞお気になさらず!
小さい頃からの夢だったので!
今まさに小さいけども!
ガロンとゼノンだけれども、ふたりとも私の「お供」になってくれた。
「僕」という形が正しいらしい――が、何だかこんな子ペンギンには申し訳ないので。
せめてお供としてお願いしますとしたら、二人には逆に恐れ多いと嫌がられた……この辺りが人間と魔物の感覚の違いのようだ。
でも、なんとか二人はお供ということで納得してもらった。おいおい、私が成長したら「僕」と呼ばせてもらうようにする、ということで。
想像してみて欲しい。
この子ペンギンが――
「我が僕よ! 疾く我が影より出でよ!」
――と、格好つけている姿を!
……かわいいでしょ?
斜めに構えて片目をこれまた短い手(羽?)で隠してなんてご覧なさい。
ほら、身悶えしたくなる闇歴史の復活ですよ!
……はい、きちんと十四歳くらいに発病しました。
中二病とひとは言う。
犬の背に乗りたかったのは、もっと小さな頃からの憧れだからセーフセーフ!
私の場合はねぇ、実は……義兄たちがまさにオタクでねぇ。
ええ、まさに人生の先達だった。
後に義兄たちは妹に余計なことを教えやがったと姉たちにしばかれていたが……はい、漫画ゲームや、ニチアサ、某機動戦士はじめロボットアニメの数々。そういったものに興味をもったきっかけがそこら辺にね。
ふふふ、だから中二病も彼らが通った道と、時にずいぶんと微笑ましく見守られ、時にさらなる燃料を投下され……今思えばこんちくしょう案件かもしれないが、お陰さまで今現在、ファンタジーのまっ最中にそれほど混乱しないですんでいる。
ありがとうと感謝……するかどうか悩むわ……。
……義兄たちなら、私の部屋に遺る数々のお宝、上手く片づけてくれたかな。いやさ、いくつかは大事に使って欲しいなぁ。
甥っ子たちもそろそろ発症時期だろうから、譲ってあげたいのいくつかあったんだよなぁ……。
……そんなことをちょっぴり思いつつ。
そう、影より出でよ、なんです。
あの地下神殿でロザリーさんが気付いたとおり、二人は私の影から登場していた。
影。
私のこの小さな影が、あの時ロザリーさんのと重なっていたはずの影が、ぶわっと広がり、そこからまた二つの影として分離したように――そこから彼ら、ハウンドウルフと一角猩々が飛び出した。
そういう風に召喚していた、らしい。
そう、私の影と彼らの影は繋がっている。
今は何となくわかる。
影に触れる。出会った直後のあの謎行動。
それが――主従契約だったんだ。
普通、魔物から他の魔物に従属させて欲しいと願うことはよっぽどない。
同じ種族の上下関係とはまた違うらしく。
強い魔物が倒した魔物を手下などにするために、無理矢理結んだりするのがあるそうで。
だが、何かの折に下剋上があったりして、なかなか難しいものなんだとか。
だが、あの状況。
ハーピーさんが言い出したが、ガロンも私に恩返しと、主従契約を申し出てくれたそう。ゼノンもふたりにつられたけど、同じく。
よっぽどのことがまさに私に起きたわけで。
や、今となってもありがたや。
おかげで助かったし。
それで貸し借り無しにしてもいいんじゃないかと思って、二人には確認したんだけど、むしろ捨てないでと「きゅーん」てされた……そういうのダメ!
私に断るの無理!
特に犬好きな私に!
……やり取りにロザリーさんが苦笑していたのはお察しして。
そして従属させ、維持するにも呼び出すにも、魔力が必要。
魔力がないとせっかく契約しても呼び出せないとか。思うに、この小さな影を魔物が通れるようにする力だろうか。
確かファンタジーゲームにある召喚魔法はそんな感じだっけ?
私の魔力はどれくらいあるのだろう。
心配したら、二人には「ご謙遜を」と言われている……ううむ?
……ドラゴンの魔力、かぁ。
その辺りは気になりつつ、二人には付かず離れずお供をしてもらうことになったわけで。
何かあったら「ガロさんゼノさん、懲らしめておやりなさい」な感じでね。
ドラゴン印の印籠欲しいなぁ。
まぁ、悪党に出会わないのが一番なんだけどねぇ……。
呼び方も「雛の方」から「主」になった。ちょっぴり成長?
二人を私が認識したことで繋がりもより強固になったからだとか。
だけど、二人は魔物。
どうしても人間の近くを通らなくてはならないときは、ロザリーさんが一芝居打ってくれることになった。
「ご安心ください。私がテイムしております」
と。
人間で冒険者のロザリーさんの従属と演技することにしたんだ。
彼女はお人好しだけど、ただのお人好しじゃなく、酸いも甘いもかみ分けた故にそうあろうとしている、強くて素敵なひとだと私はそろそろわかってきた。
必要なら嘘もつく。それが良きことになるならば。
森のことを説明したときのように。
「わざわざ火種を作って振りまく必要もなかろうよ」
そう、私がドラゴンていうことを隠してくれることも。
今はもう言葉通じるから、指示出し演技はお手の物。
ガロンみたいなプライド高いオオカミ種はどうだろうと、ひとり小猿なゼノンがはらはらしていたけど、ガロンは「ふ……っ。己がプライドなど我が主の恩為には些末な」と、余裕の笑みで受け入れてくれた。渋い。きゅーんしたくせに。
寧ろ「ロザリー殿」と、ガロンはロザリーさんにも敬意を払ってくれている。同じくロザリーさんも彼らに。
これはあれかしら。強者同士にある、そういう世界?
力いっぱい握手して力量を探り合ったような……河原で殴り合ったあとのような空気感……。
そして私はそういう時は……はい、ぬいぐるみのふりですよ?
……はい、安定安定。
ガロンの大きさは某ゲームの騎乗わんこよりちょっとだけ大きいイメージです。(移動楽になりましたよねぇ…犬好きとしても喜びでした)
そしてペンギンの生前の職業は実はまだ秘密ですが…気がついた方は内緒内緒していてくださいやし。




