第37話 一難去って…。
まだ痺れがある皆さんがよちよちとしている。
ロザリーさんもひっそりと大変そう。
だけどいつまでもこの地下に居るわけにもいかない。
誰ともなく地上への階段に向かう。
あの不思議な灯りはまだついていた。ありがたい。
そんな様子の皆さんに、私は話の流れでそう告げた。
告げてしまった。
だって、同情してたから。
「じゃ、これから森がなくなるんだし、頑張ってくださいね」
いや本当、今まであって当たり前のものが無くなるのは大変だと思う。しかも生活に、これからの国の財源に必要としていたものだから。
「……え?」
だからキュロスや兵士たちが、そう不思議そうにしているのに私の方こそ驚いた。
話の流れでそうなってたやん?
「森が、なく、なる……?」
兵士の誰がが繰り返した。
それが伝染したようにざわざわとしていく。
「え? どうして……?」
本当に解らないとキュロスも。
ああ、このひとたち、いろいろありすぎて脳みそショートしてたのか……。
それが解って私はますます同情した。ロザリーさんも憐れみめいた目をしてる。
「だって、もうエリナさんが居ないのだから、これから森の維持を願えるひとがいないんですもの」
エリナさんをいらないと排除したのは彼らで……だからエリナさんも彼らを捨てたんだよね。
そのあたりも記憶ショートしてるみたいだからさっき良い方に濁してやったのに。
可哀想だとは思う。
でも、私はせめてエリナさんの願いが叶えばいいと思うよ。エリナさんに生贄にされかけた怒りはあるけど、それはそれ。
今やエリナさんの自身をかけた願いだ。
――叶えば良いと思う。
たとえどれほどの人間が苦労することになろうとも。
まあ、それでも同情はしてるから今、そう忠告したわけで。
「そんな……私たちは、そんなつもりじゃ……」
でも、それが、自分たちのやったことだし。
因果応報だなぁ……て、しみじみと感じた。エリナさんをきちんと王族として敬ったりして、きちんと彼らが森を大事にというのを守っていたら、過度な豊かさはなくも穏やかな日々は守れたんだろう。
キュロスの華やかな鎧や、同じく兵士たちの鎧や武器、それらが古くさくないことを見て、私はそう思う。
目先にある豊かさを。その先にある破滅を。
彼ら自身が選んだ結果だ。
「まぁ、一年先か三年先か、はたまた明日にも消えるのかわからないけど、早く帰って何かしら対策なさったら?」
「あ、明日にも!?」
あら? そこにも驚く?
「一夜にして森ができたなら、無くなるのもまた一夜にかもって、私なら思いますけど?」
「うあ……」
キュロスをはじめ、兵士たちの顔が白くなる。
人間の顔色がこんな一斉に変わるの、なかなかない光景ですな……。
幽鬼の群れてこんな感じかなて……ちらっと苦手であまり触ったことのないホラー作品を思い浮かべる。
いや、あれだ、ゾンビみたいていったらかわいそうかな。
ゆらゆらと血の気が失せた顔で彼らは歩きはじめた。
私が提案したように、急いで帰って報告なり、いろいろしなくちゃいけないという気持ちが何とか足を動かしているのだろう。
そんな群れのなかから、不意に――誰かが思いついてしまった。
気がついてしまった。
この存在に。
「……そうだ、ドラゴンに加護をもらえばいいじゃないか」
……はい?
脳みそショートしてたのか、私が話していることに気がついていなかったから……。
彼らの視線がこちらを向き、じわりじわりと丸くなっていく。
ロザリーさんが私をそっと抱き上げてくれた。
嫌な予感だ。
それがロザリーさんに伝わったんだ。
「そうだ……あんた、それ、ドラゴンなんだよな?」
「……いや? 私はわからないな?」
ロザリーさんが空気を読んでくれた。
それに彼女にはまだしっかりとドラゴンだと自己紹介言ってないから、知らないふりも嘘じゃないしね。
彼女は抱き上げた私を、それとなく左手側に移動させている。
ロザリーさんの利き腕は右手だから――いつでも行動できるように。
「なぁ、エリナ王女が言ってたんだ。ドラゴンの加護だって」
「ああ、そう言ってらしたよな」
「それにそれも今、しゃべってた……」
「ああ! 自分がドラゴンだと!」
「新しく加護をもらえば良いじゃないか!」
……。




