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生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~  作者: イチイ アキラ


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第33話 クワドの森。2

今回からR15念のため付けることにしました



 かつてこの地は貧しかった。

 大地は荒れ、枯れ、疲弊していた。


 彼らはその地に流れてきた――いや、その地にしか居場所がなかった。


 彼らは追放者。

 狼の群れが古い頭を追うように、彼らは追い出された。

 それは彼らが罪を犯したからとも――逆に悪逆非道な者たちから逃れてきたとも。そう伝わっている。

 それは彼の産まれ故郷では彼を悪し様に伝えているかわり、彼を慕い従ってきたものたちが多いことや、その功績と、首を傾げる矛盾が多いため。正否は、それは歴史がこれからも紡ぎ解くこと。


 しかし同じ一族から彼らに従って付いてきたものたちも、その過酷な地にだんだんと力尽きていった。


 あるとき、彼らは出会った。

 その存在を呼び出した――目覚めさせたともある。

 一番幼い子の命が尽きようとしている限界の夜に。


 後々、彼らはその存在を神とした。


 神に祈ったはクワド――一族の長は、己を犠牲に――糧に、一族の未来を、大地の実りを願った。


 神なる存在はクワドの願いを聞き入れた。



 クワドの魂を契りに。

 クワドの血肉を大地の糧に。

 クワドの骨を、髄を、森の要たる祭壇の基礎に。



 そうして一夜で森は育ち、一族は糧を得て、生きることができた。

 

 クワドの長子は父の思いと決意を受け継ぎ人々を率い、次子は要となった森にとどまり守人となった。


 ――そうして、維持されてきた。






「そうして、この地は人が生きることができる土地に変わったの」

 エリナさんの語ったこの国の始まり。

 それはキュロスたちの様子から、これは秘されていた部分なのだと解った。

 確かに、生け贄によって国が始まっていただなんて、大っぴらにはできなかろう。

 しかも、森は血生臭い方法での誕生だ。


 ああ、これが長子相続で、長子にだけ語られてきた国の秘密か。


 話の様子からして、森の守人たちも知っていたのだろう。そちらはとうの昔にエリナさんのお祖母さんと数名を残して、衰退したようだが……やはり何かしらあったのかな。こんな贄を欲しがるやつの場合は。

 祭壇の黒い圧――ゆっくりとそれは大きくなってきている。


 この国の現状。その、植物に例えると枝の二つは、すでに片方は枯れて、残った方は今まさに接ぎ木されて生きるはずが、相性合わずで枯れるところ――接ぎ木を養分に新芽を出そうとしている、かな。


「この国が、そんな……」

「始祖クワドは、導き手として森に眠っていると……」

「王家の神事は、墓参りという話は、本当だったのか……」

 兵士たちの愕然としたつぶきに、なるほどとなる。民には薄らと、いや、マイルドな言い伝えにしてあるのか。

 追放されたエリナさんがこの森に来ること、確か墓参り代わりとされて、許されたんだったか。

 エリナさんは全部計算尽くで、ただ予想外に贄が増えた……だけなんだろう。


「すると、ここはクワドの……」

 私の質問に、エリナさんはにこりと微笑んだ。

「クワドの骨や髄を使った聖域といわれていてよ」

 ――ひぃ、と悲鳴をあげたのは私じゃなくて兵士たちの誰か。

「国に危機があるたび、ここで始祖に倣って捧げものをすることで、国は生き延びてきたと聞いたわ……」

「危機……」

「贄は人間でなくても良かったそうだけど、大きな願いにはそれ相応に必要とされた……」

 確かに、人ひとりで森ができるなら、それを基準に交換材料は変わるのか……。

「一番最後の贄は、お祖母さまの弟君だったそうだわ」

 ……。

 森の守人の役目と滅んだ理由、察しましたわ。

「ああ!?」

 キュロスもなにか察したらしい。

「ご、五十年ほど昔に隣国に攻め込まれたとき、謎の地震で地割れが起きたというのは……」

「そうね。今でも不思議がられているわね」

 地割れが起きて国の境に敵兵が飲まれたとな……。

「地割れて……」

「そこはもうすでに橋がかかっているな」

 ロザリーさんが教えてくれた。

「大きな地震が起きて戦争どころではなくなったと、歴史のどこかで聞いたことがある」

 それは豊かになったこの国を、隣国がうらやんで来た故の戦争だったらしい。

 そう、目当てはこの森から連なる恵み。

 今ではその境の割れ目が天然の壕として、互いに触らずにあるらしい。


 その隣国と、今では商売をしようとしている現王サイド……て形になるのか。

 歴史のこういった変遷が難しいところだね。

 きっと、現王やキュロスたちは隣国とたくさんのやりとりをしているのだろう。


「長子にしか伝えられなかったの、私は何となく解った気がするよ……」

 ロザリーさんのお言葉に私も同感。こんな恐ろしいこと――恐ろしい方法、知ってる人間は少ないほうがいい。

 私たちの言葉に何とも言えなさそうな微笑み浮かべて、エリナさんも頷いた。

 あ、ご本人もそう思うのね。


「ロザリーさまを巻きこんでしまって、本当にごめんなさい」

「……。」

 ロザリーさんも何と言うべきが悩んでいるようだ。ちなみに兵士たちの何人かは呻いている。何気に騒がないのは、それだけ訓練されているからなのかしら……。

「代わりに、新たな国を作ったら、何かにロザリーさまのお名前をつけさせていただきますから」

「や、それは嬉しくないな……」

 だろね。

「それに、ロザリーさまより貴方と離れるのが気になっておりましたから」

 居残ってくれて本当に良かったとエリナさんは言う。

「……私ですか?」

 エリナさんの視線は私だ。


「ええ、貴方よ。ジュヌヴィエーヴ」




歴史上、血生臭い始まりって結構あるよね。

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