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第3話 『生き餌』?

 『生き餌』?


「――……ぺ!?」


 その日、目が覚めたら檻の中だった。錆びも浮いて嫌な感じの鉄の檻。上下は木製の蓋と底だけど、ささくれてるし、変な染みもついてる。

「まさか、誘拐……!?」

 まだ生まれてさほどだけど、慣れ親しんだ巣じゃない。

 でも、巣と言っても私は一度も出たことはないのだけど。

 だって――ペンギンは飛べんし。

 ちなみに近くに川も海もなかったようなので、自分が泳げるのかも不明。

 だって――まだ雛だし。


 母上さまの気配をまったく感じない。

 眠る前にあった、兄姉の残り香がある彼らの残してくれた卵の殻もない。

 飛べない自分を心配して、巣の、自分のまわりに残してくれていた殻。ドラゴンの殻はとてつもない魔力の塊でもあった。ちょっとやそっとの虫や獣が近寄れないくらいの。だから彼らの殻があるだけで、母上さまが留守になさっても安心して、寝ていたのに。ぽんぽん、腹だして。


 前世で、狩りのゲームでさんざん卵運んでごめんなさい。


 そんなことを考えて短い手を合わせた日々。

 そして今は殻がない心細さに泣きそうだ。

 ふかふかとしたそんな両手(両羽?)をじっとみる。そして身体も……おぅ、変わらぬ魅惑のまんまるふかふかボディ。

 やはり成長している様子はない。いや、産まれてすぐの頃と思えば全体的に大きくはなったけど。テニスボールからボウリングのタマくらいにはなったかしら。

 いや、どちらにしても――ドラゴンとは言えない。


 それが自分がここに、拐われている理由だと理解するのはすぐのことだった。


 ペンギンイヤーは地獄耳。



『あの生き餌どうする?』


 どうしようと頭を抱えてうずくまっていると、そんな声が微かに聞こえてきた。

「生き餌?」

 何だろう、それ。

 話し声は数人、男性の三人組だろうか。

 パチパチと木が燃える音と、芳ばしい匂いもする。お肉か何か焼いてるみたい。くるりと回りを見渡せば、ここは岩壁に囲われた野営地みたいだ。天井の板で見えないけど、周りの暗さからまだ夜のようだ。

 やや向こうには布張りのテントらしきものもあり――うん、生前まさに卵運んだり狩りしていたゲームで良くお世話になった野営地のよう。やはりあれはベストなキャンプ風景だったんだなぁ。


『ああ、何のモンスターだったのか、卵はもう孵化したあとだったとはな』


 ……まさに。

 まさに、自分たち兄姉の卵が。

 兄上たちが孵化して一人立ちなさったことを狩人たちはしらなかったのだろう。いや、良かった。


『なあ、ロッソ。残ってたの、ありゃなんだろうな?』

『だから生き餌だろ? まわりに殻が落ちていたから、雛の。餌にしようと親が狩ってきたんだろう』

『確かに生きてはいたが……』

『マグナも生き餌って思うのか?』

『まぁ、珍しい生き物……もしや新種なモンスターだったら儲けものだ。ギルドで高く買い取ってもらえるだろう』


 ふふふ、まさか卵の中からこんなペンギンが孵っていたとは狩人も思いもしまい。私だってドラゴンになりたかったさ(泣)

 しかし、狩られる側になると――いや、この世界がゲームの世界とは違うのかもしれないけど。あの卵の殻だってものすごい素材だったのになぁと……。

 素材。

 そういえば兄上さまの鱗はどうなったんだろ。いつも胸元に抱えてて――あった。良かった。どういう仕組みかしら。鱗はぽわぽわふかふかの羽毛のなかに埋もれるようにひっついていた。

 ちょっとほっとした。


 ほっとしたから、状況をよく考えてみることにした。

 まず、狩人たちに母上さまが留守しているうちに自分は狩られた、というか兄上たちの卵の代わりに持ち帰られた。

 餌として巣に置いてある小型モンスターと勘違いされて。

 狩人たちにしてみたら、まだ生きてたから連れてきてあげた感があるかもしれないが、自分にとっては大きなお世話。狩人たちは誘拐犯である。

 そして彼らの様子から、このままギルドとやらに連れていかれるところらしい。

 そこまで考えて、ますます怖くなってきた。


 ギルドで起きるのは素材剥ぎでは……つまり、解体……。


 ありありと想像できてしまうペンギンの開き。

 会話から彼らはペンギンを知らないらしい。私自身もこの世界にペンギン、もしくは近い種族がいるのかどうか知らない。

 私自身が『ドラゴン亜種ペンギン』ということを知っているだけで。

 おそらく、珍しい生き物だからと保護されたら良いほうだ。

 保護されず――調査として解体して調べられる可能性のほうが高い気がする。

 とにかくやばい。


 あと、会話を聞いていて何となくなんだけど――あの人たち、ドラゴンの巣だったって気がついてなくない? 狩人として大丈夫? いや知らんけど。


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