第25話 森の中…出会った。
お話を伺いつつ、神殿に近いところまで来た。この少し先からは、大まかな地図を持っていたロザリーさんからエリナさんの案内になっていた。
あ、ロザリーさんの地図は冒険者ギルドの正規発行品という余談あり。
エリナさんの記憶頼りで。途中から半分くらい獣道だけど、かつては道だったぽい――そんな道を歩いていた。
ところどころに道標みたいな、そんな置物――いや、燈籠のなれの果てかな?
それがまさに目標で、見方があるのだとか。
「一番の大事な見方は、燈籠を右手にしていくの」
まずそうすると間違いは無く、かつてあった守人の集落などに寄らないなら、神殿へはこれでたどり着くことができる。
森が荒れてしまっていることにエリナさんの瞳は曇りがち。
ご両親が亡くなってから、儀式を引き継いだエリナさんが訪れることがなければ、もう放置されていた森と神殿だ。
エリナさんも一年近く、森に来ていなかった。かつては蔑ろにされてはいても、一応は国の神事であるからと、エリナさんが訪れることで道の整備をそれなりにはされていたようだが――やはり追放されてからは誰も来ていないようだった。
うん、雑草の繁殖力を甘く見てはなりませんよ。死ぬ前の里帰りでいつも送ってもらう野菜のお礼に、畑回りを草刈り機ぶん回して、姉たちに大変感謝された記憶でござる。知ってる? 草刈り機もかーなーり、足腰、腕力、そして体力使うんですぜ? 終わったあと、腕が数時間は震えて無意識にコントローラーボタン連打できちゃうくらい。
「かつては集落跡で、お泊まりとかもしたの……」
それはお祖母さまたちとの思い出。
お祖母さまが嫁いで朽ちていく集落も、年に数回は人をやって手入れされていた時代もあるとか。
それは王都からここまでは片道で半日以上はかかるから、儀式の時間を含めると一泊していくのがいつもだったとか。お祖母さまの生前は何泊もしたという話だから、別荘扱いだったのかな?
今では先頭を行くロザリーさんが、鉈で道を切り開かないと進めないところもあり。
鉈はソロキャンの、いやさ冒険者の必需品だとか。まさに薪割りに使い、時には得物を捌いたりしつつ、時には武器にもなり。
「剣よりもこだわるやつもいるらしいぞ」
そういうロザリーさんの得物もなかなかの一品にみえますな。爺様が腰に下げて山に行くのについていった、かつての幼い私の記憶です。山菜採ったり、七夕には笹採りに行ったり。
そんな鉈でばっさばっさと道を切り開いていたロザリーさんが、不意に――鉈を仕舞い、身構えた。
「……何か来る」
え?
私が驚いている間に、ロザリーさんはエリナさんを抱えるようにして、草むらの中に入っていく。私は荷物にしがみつき。
「しまった……道を作ってしまった」
それは切り開いていた、今通ってきた道のこと。ロザリーは舌打ちしそうだけど、でも仕方ないと思う。
「……何でしょう?」
首をかしげる私に、エリナさんもわからないと首を横に。
「こんなところに来るひとなんて……」
でも、ロザリーさんだけでなく私にもそろそろわかりはじめた。
人間の気配だ。しかも大勢の。
やがてそれは自分たちの作った道を追いながら近づいてきた。
人数にして十人程だろうか。
揃いの甲冑を着た集団だ。
「……あ!」
小さく声を挙げたのはエリナさんだった。
「エリナ殿?」
ロザリーさんがどうしたと同じく小さい声で。
「……我が国の兵士です」
エリナさんのかつての、か。
甲冑の意匠でわかったのだと。
「でも、どうして……?」
甲冑の集団、得物は揃いの人もいればその剣じゃなくて違う意匠のや、槍を持ってる人もいたりした。
そんな事をこちらが観察できるということは、あちら側も――こちらに気が付くということ。
道が途切れていれば、付近に隠れていると思うよね……うん、仕方ない。
「エリナ王女よ!」
道が途切れたから、兵士の一団も止まった。
ややあって一団の半ばから、ひとりの男性が出てきた。位置あいからして、偉いひとか護衛対象――その両方。
そのひとが声を挙げて、エリナさんを呼んだ。
「エリナ王女! いるのは解っておりますぞ!」
「……エリナ殿?」
「お知り合いですか?」
私たちのひそひそ声の質問に、エリナさんも声を落として……何とも言えなさそうな、微妙なお声で答えてくれた。
「……元、婚約者です」
花咲く森の道~元婚約者に出会った~




