第22話 護衛ロザリーさんは良きひと。
「追放されるまで、年に一度はお祖母さまを偲ぶ為にと、神殿には通わせてもらっていたのだけれど……」
さすがにそこまで非道ではなかったらしいね、叔父上さま。
「……儀式を時代遅れで面倒くさいと思っていたのかも」
……おぅ。
そっちですか。
「それでも、やはり気になってしまって。こうして神殿を目指して来たのだけど……」
王族として、その席を奪われた身ではあるが義務があると、エリナさんは儀式を行うために来た。
ご立派だ……。
お祖母さまへの想いもありますものね。
だけど国の端からでは女の一人旅はなかなかに大変。
エリナさんは何とか着いた一番近い大きな街で、冒険者ギルドの門を叩いた。
しかし、女一人が雇う護衛となるとこれもまたなかなか大変。うん、私も女だから解りますとも。今はふわふわまんまるだけど。
女性に対して下心なく、かといって腕のたつ護衛を何人も雇う余裕もなく――追放されたけど、幾ばくかの生活費や、お祖母さまやお母様の形見はさすがにあたえられたらしい。ちょっぴりだけど。
あと、国の端にまでいくと王族の顔も知らない人が多いわけで。
その辺りは住まいとされた村からでたら、人目も気にならなくなったらしい。
水戸黄門さまも印籠出すまで解んないやつだったからね。懐かしく決め台詞思い出しながら納得。
ギルドではさすがにわけありと少しはあやしまれつつ。
そんな風にギルドの受付のお姉さんに頼むと、ギルドのお姉さんも一緒に、親身になって護衛を考えてくれた。エリナさんが払える対価で雇い入れできる冒険者のレベルや人数を。
受付業務の一番大事なところだね。
「そうしたら、ロザリーさまが引き受けてくださったの」
「ちょうど商家の娘さんの里帰りで街に着いたところでね」
その商家の娘さんは結婚を機に、他の街に旦那さんと支店を作って暮らしていた。
けれど今回、故郷の友人が祝言を挙げることになり、旦那さんは数年ぶりに家族水入らず、友人と積もる話もあるだろうと、快く里帰りに送り出してくれた。自分はちょっと仕入れの時期で手が離せないと、護衛としてロザリーさんを雇い入れてくれたほど。
「もっとも、私だけではなかったが」
冒険者はやはり何人かでチームを組むのがほとんどだとのこと。
ただ、ロザリーさんは珍しいソロ。
その辺りは何か理由があるみたいだけど、女性からの護衛依頼に、女性の冒険者はやはり重宝されるらしい。
雇われたチームは男女比二対一の三人組だったので、旦那さんは安全の為にロザリーさんも雇った。そもそも、護衛の数は多いほど良いものだ。心配はし過ぎて良いくらいだと、ロザリーさんは思い出しながらしみじみと頷いている。
……魔物拾った人がなんか言ってるて、当の私が突っ込んではいけない。うん。
「もっとも、彼らは気の良い奴らだったがね。機会があればまた同行したいものだ」
案の定、途中でちょっと柄の悪い盗賊くずれにも行きあったりしたが、護衛のチームはロザリーさんとも相性良く、その任務はつつがなく終わった。
そう、怖いのは魔物だけじゃない。商人ならむしろ金目当ての人間から襲われる。それを旦那さんと、商家生まれの娘さんは良く理解していたからこその護衛依頼だった。
――それをこの世界でよく知ることになる……。
――怖いのは魔物だけじゃない。
その依頼完了報告をギルドにしているときに、隣の受付でエリナさんが難儀をしていた、と。
「ちょうど次の依頼をどうしようかと考えていたからな」
ロザリーさんはそこで引き受けた、と。
女の子がひとりで難儀しているのを放っておけなかった、と。
「ロザリーさまは本当は私では雇えるランクの方ではなかったのに。ありがとうございます」
何と! そのうち冒険者のランクとかも詳しく教えて頂こう!
そしてやはりロザリーさんはソロで活動できる強さの冒険者、とな!
「いやなに、女性が困っているのは同じ女として気の毒だし、聞けばご立派な旅じゃないか」
ご謙遜ではなく、心底から思っている気配の凛々しいお声だ。格好よい……。
……やっぱり。
ロザリーさん、良い人過ぎるでしょう。
徳が高いて……。
思わずお荷物はまた両手合わせて拝んでおりました。
ありがたやー。




