第2話 今生何回目のWHY?
いや、本当になんでだろう。
母は、そして何日も前に一人立ちしていった兄姉たちは立派なドラゴンなんです。
大きな翼があり、長い立派な尾があり、爪が、牙が、鱗がある――まさにドラゴン。
由緒正しい一族でもあるらしいです。
母上さまの身体は真珠のような虹色に輝いて、本当に美しい。兄姉たちもみな、美しい鱗をしていた。
旅立つ前に一番仲の良く、可愛がってくださった兄上さまがくれた彼の鱗は宝物だ。
なのに私は――ペンギン。
ぺたぺたと自分の身体をなでる。いや、むしろまだふかふかぽわぽわとした身体は、羽毛だ。
「……ペンギンて、大人になったら羽が抜けるんだよね?」
かつて見たことある南極ドキュメンタリーではペンギンの生態をそう流していた。
だがしかし、ふわふわの灰色の毛は首から下をおおっている。一欠片の抜けもなく。
一つだけ思い浮かぶことがある。
それは私が――生まれ変わりであること。
永倉葵。人間として生まれて生きて死んだ28年の記憶がささやく。
「これ、バグなんじゃないかしら?」
そう、バグ。
長くオタクとして生存もしておりましたジュヌヴィエーヴこと、永倉葵でございます。
28歳、もう少しで三十路に入りかけ、花の御一人様を謳歌しておりました。
生前も末っ子と言う位置だったけど、年の離れた姉たちには可愛い甥姪もいて、親も孫に囲まれ老後の心配もなく。田舎に引き込み――いや、もともと田舎住まいだが、農園を姉夫婦に譲っての第二の人生が楽しかろう日々。
そう、前世は農家の三姉妹。家業は姉たちが。私も一通りはノウハウを仕込まれたけど、年の離れた私は好きに生きろとありがたく。
たまに送られる野菜には助かりますありがとう。
そんな独り身、趣味に生きていたけれど。将来は魔女の館でもたてて共に暮らすかなんて話していた友人もいた。庭には私のおはこの家庭菜園をやろうかね、なんて。
普通に浅く広く満遍なくなゲームオタク。漫画アニメ好き。
ジャンルとして好きだったのは歴史関連。ゲームは、格闘ゲームにロールプレイングもシミュレーションもシューティングも、幅広く嗜んでおりました。あ、ホラーゲームは無しで。
好きな番組はアニメ各種の他は土曜日のミステリーなハンターさんたちが世界を巡るものと、日曜日の大河なる時代劇。
こう振り返ると本当に浅く広いただの歴史、ファンタジー好きだったとも言えるかしら。ガッツリとはまったものはなかったから。
そのかわり友人であり、オタ友でもある存在は某由緒正しい歌劇団の推しさまを崇めることを日々にしていて。そちらのきらびやかな世界も少々。私も歴史萌があったから、ときに劇の世界観を共に語り合ったり。
かくいう私は格闘ゲーム好きからもわかりますよう、筋肉萌え。目映ゆき美麗も良いけれど、もっとこう、がっしり腹筋もえ。
好きが被らずお互いの領地を侵さないからこそ友となれたのだと思う。
だからこそ薄々、気がついた。
このゲームや小説によくあるという異世界転移。もしくは――転生。
生前最後の記憶は夏休みを友人と関西大阪で過ごしたもの。
友人のご贔屓さまの生舞台を、演目の内容に私も歴ヲタとして堪能したあと。あの某アトラクションで互いに協力しあっていたモンスターを狩るのを追体験し。ついでに魔法学園にもほくほくして。
そして最終日は大きな水族館で癒されて。
そんな夏休みを堪能したところで、私の記憶はふつりときれた。
ただ、すごく暑かった日であると。40度を超えていた日で、友もなにやら体調が悪くてはやめに宿に切り上げるかと……。
死因、もしかしたら熱中症じゃないかしら?
誰かに迷惑かけなかったなら良いけれど……だって、異世界転生とか、トラックに轢かれてとか。痛いのはやです。
……水族館のペンギン、可愛かったですとも。自分土産にまさにペンギンの赤ちゃんのぬいぐるみを……まさか自分が最後に抱えていたものに生まれ変わりするとは思いもしなかった。
そして至った私という存在は、バグなのでは。
いわゆる異世界転生における、バグ。
神様とか、そういうのがミスってドラゴンの卵のなかにペンギンを入れてしまった!
そうとしか理由なくない?
母上さまには本当に申し訳ない。
兄姉たちも飛べない私をいじめることなく可愛がってくれたのに。
醜い家鴨どころか、郭公ではないだろうか……。
そんなことを考えていたせいだろうか。
母上さまが出かけたあとの巣でいつものように寝ていたはずなのに。
「……ペン?」
今生何回目のWHYだろうか。
目が覚めたら檻の中でした。
「……。」
誘拐されたー!?