第11話 脱出だ!
血路を開く。
ハウンドウルフさんが再び口にしたその言葉。
「逃げるなら、一緒に!」
始めに私から言ったのだ。
三人を檻から出したのは手助けして欲しかったのはあったけと、身代わりになって欲しいからではない。
「せっかく檻から出して頂けたのです。そしてご命令です。無駄死には止めましょう」
一角猩々さんが、声を震わせながらだけどハウンドウルフさんにそう語りかけた。
うんうん、死んで花実が咲くものか。
一角猩々さんの言葉にハウンドウルフさんもハッとして、すぐにうなずいた。
「……そう、でしたな」
ハウンドウルフさんはそのまま、私をじっと見た。
「ですが……やはりそれしかないと思うのです」
一角猩々さんも考えた結論だと、ハウンドウルフさんの言葉にうなずいた。
「我らが狩人たちの間をすり抜けるか……」
ハウンドウルフさんの脚力ならば、人間には追いつけられない、と。
「改めて、ハーピー殿はこの御方をつれて飛べるか?」
いぜん時間はないけど先ほどよりは落ち着いた問いかけ。
「無理ならば我が背に乗せ、駈け行く。だが……」
それは人間たちのいる方を通る策。そして私たちは気がついていた。
――ペンギン、しがみつけない。
その時の三人と私の間に流れた空気を、間を、なんと言ったら良いのかわからなかったとも。
私は先の尖った自分の短い手(羽?)をじっと見る。楽にならざり。
「わ、わたくしが……」
だけどハーピーさんができると言えないのは、同じようにその手足に理由があった。
「わたくしの足では御身を傷つけてしまうかも……」
ハーピーさんの足。それは、初めに見た時にも気がついていた。
恐ろしく鋭い爪――そう、ハーピーさんの足は、まさに猛禽類の爪。木につかまるだけではなく、獲物を捉え引き裂きもする爪だ。
私の身体に、その爪はさぞかし食い込むことだろう。
かといって腕は翼の形状だから、抱きしめると飛ぶことすらできない。
「うん、でも……」
ハウンドウルフさんにしがみ付いて行くとしたら。それはハウンドウルフさんが背中の私を気にして上手く走れないことになるだろう。そうしてそれが原因でまた狩人につかまってしまったら。
そして何かのはずみで振り落ちるのは――解りきってる。
絶賛確実足手まとい。
だから――。
「ハーピーさん、お願いします」
ちょっとくらい痛いのは我慢だ。
でないと――何も始まらない。
私はまだ産まれ変わって何もできてない。
こんなところで人間につかまってあって間に終わるのは嫌だ。
私がハーピーさんを見上げると、ハーピーさんはしっかりとうなずいた。
思えば彼女だって一人で逃げた方が絶対に楽なのに。なのに、私を考えてくれたんだ。
「ちょっとくらい刺さったって平気です! よろしくお願いします!」
「……はい!」
ハーピーさんが羽ばたく。
ふわりと浮いてから、私の頭上に彼女の影が落ちて、そして――私のふわふわボディーに彼女の足――爪が刺さる。
「――うっ」
ちくっときた。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ、時間と材料さえあれば、私がお乗りになる籠を編みましたものを……っ」
悔しそうなのは一角猩々さん。
あ、やっぱり一角猩々さんは器用なんだ。檻の鍵開けのときの、魔法がかかってなければ楽勝だったんだろうなぁ。
ハーピーさんがものすごく気をつけてくれてるのが解りますとも。
「大丈夫です! 行きましょう!」
そして私は空を飛んだ。
ハーピーさんの翼で。
ハーピーさんの羽ばたきを確認して、ハウンドウルフさんがぶるりと身体を奮わせた。
「一角猩々よ、そなたは我の後をついて来るがよい」
「はい、お供つかまつります」
「……ついてくるのが無理そうならば我が背につかまれ」
お前の手足ならばつかまることができるだろう、と。
ハウンドウルフさんの方が先に行き、一角猩々さんがその後ろをついて行く。
「――は、はい!」
後に知ることになるのだけれど、本来、オオカミ種の魔物はとてもプライドが高く、多種族の魔物を背中になんてとてもではないけど乗せたりしないそう。
それを知っていたから一角猩々さんはものすごくびっくりしたと同時に、ハウンドウルフさんにますます敬意を抱いて、信頼することにしたらしい。
「我らが先に行きます。その隙に、空へ!」
騒ぎを起こしているうちに別ルート――空から逃げろと。
これが私たちが選んだ、一番確実な私たちの脱出方法だ。
「ハウンドウルフさん、一角猩々さん! 気をつけて!」
私は感謝を込めて手を振る。
「はい!」
「ご無事で!」
「さようなら! 二人のことは忘れません! また会えたら良いですね!」
そう、ハーピーさんが羽ばたいて岩壁を抜けるのを応援しながら二人にたいして無事を祈る。
だから、駆けだした二人が「え?」て感じで一瞬たたらをふんだのを気がつかなかった。
だって、今生の別れだと思ってたんだもん。
――まさか、今生……ずっと……。
みんなでにげるよ。




