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第16話:新・お姉ちゃん(流れ弾でざまぁされる姉達)


「……こほん。ワタクシとした事が、取り乱してしまいましたわね」


「いいえ、お気になさらず」


 興奮状態だったミスティさんだが、注文した料理が届いた事でようやく落ち着きを取り戻し、俺を放してくれた。

 危うく死んだ母さんとあの世で会う寸前だったが……なんとか助かった。


「それにしても、随分と苦労してきましたのね」


「はい。でも今は、俺を支えてくれる親友もいますし、そこまで辛くないですよ」


「その若さで一人暮らしを始めるのも、お金を稼ぐのも大変でしょうに。ワタクシはアナタに……不思議な親近感を覚えずにはいられませんわ」


「親近感?」


 ミスティさんが発した予想外のワードに、俺は思わず聞き返す。


「実はワタクシも、家を出て一人暮らしをしていますのよ」


「ミスティさんも、ですか?」


「ええ。実はワタクシ……こう見えて、家がお金持ちなんですの」


 こう見えて、というか。

 どこからどう見ても、お金持ちの令嬢にしか見えないけど。


「じゃあ、どうしてアルバイトを? それも掛け持ちまでして」


「話せば少し長くなるのですけれど……そうですわね。アナタもワタクシに辛い過去を放してくださったわけですし、ワタクシも全てお話ししますわ」


 ミスティさんは紅茶のカップに口をつけると、そこからポツポツと語り始めた。


「全てはワタクシの家系……クラウディウス家の家督を継ぐ為ですのよ」


「家督を継ぐ為に?」


「……今から数年前。クラウディウス家の全権を握っていた当主様が、愛する夫と4人の嫁仲間と共にご隠居されたんですの」


 愛する夫と4人の嫁仲間? 隠居?

 あれ、どこかでそんな話を聞いたような……?


「その後、色々ありまして。当主様の遠縁……当主様のお祖父様の孫の孫。つまりはこのワタクシに、後継者の話が回ってきましたのよ」


「でも、後継者とアルバイトに何の関係が?」


「当主様のお言葉ですわ。組織の上に立つ者は下の者の苦労を知る必要がある。だから、後継者となる者には試練を与える……と」


「ワタクシに与えられた試練は……【高校三年間の間にアルバイトで1000万円を稼ぐ事】ですの」


「それはまた……凄く大変そうですね」


 高校生のアルバイトともなれば、日給が7000~10000円あればいいほどだろう

 それで1000万となると、途方も無い話だ。


「ちなみに、アルバイトの詳細は記録されていますから、水商売や風俗業は当然NGですわ。ギャンブルで増やす事も許されていませんわね」


「そこはまぁ、そうでしょうね。そういった職業の人々にも、色んな苦労はあると思いますけど」


「まぁ、仮に許されていたとしてもワタクシはまだ17歳ですし。そういった稼ぎ方は出来ませんけれどね」


「17歳!?」


「……あら? 何か問題がありまして?」


 俺が驚きの声を上げたのに対し、ミスティさんは額に青筋を浮かべる。

 それもニコニコと、満面の笑みのままで。


「あ、いやっ! 違うんです! ミスティさん、とても大人っぽくて綺麗だから! 俺と2つしか年齢が違わない事にびっくりして!」 


「もう、口が上手いですわね。いいですわ、許して差し上げましてよ」


 くるくるとパスタをフォークで巻き取りながら、くすくすと笑うミスティさん。

 ゆ、許された……!


「でも、ミスティさんにそんな事情があったなんて。ますます、あのラーメン屋が営業できなくなった事が申し訳ないです」


「あれはアナタの責任ではありませんし、気にしなくても大丈夫ですわ。私はすでに高校生活2年間で800万円以上を稼いでいますの」

「は、はっぴゃくぅっ!?」


「その為にアルバイトを6つは掛け持ちしていましたけれどね。でも、そのお陰で今年は余裕を持って過ごせそうですわ」


 な、なんて人だ。

 365日、休まず働き通しだとしても……2年で730日。

 それで800万円となると、一日辺りおおよそ1万1000円。

 時給が1100円前後だとしても、一日10時間近く働いている計算になる。

 いや、深夜帯や残業での時給上乗せがあればもう少し短縮出来る……のか?


「……ミスティさんって、本当に凄いんですね」


「あら? 急にどうしましたの?」


「だって、高校に通いながらそれだけ沢山働いて。しかも一人暮らしまでしているなんて……俺、めっちゃ尊敬します」


「い、嫌ですわ。別に、そんな風に思ってもらいたくて話したわけじゃありませんのに」


 意外にも褒められ慣れていないのか、ミスティさんは照れたようにワタワタし始める。

 そんな姿も綺麗で、とても可愛らしく思える。


「話を戻しますけれど。ワタクシはそう言った事情で、高校生活一年目から一人暮らしとアルバイト漬けでしたの。ですから、アナタに共感しましたのよ」


「俺なんかとは、随分とスケールが違う話でしたけど」


「スケールはさほど重要ではありませんわ。アナタがワタクシに共通点が見つかった。それだけで、とっても嬉しいんですのよ?」


 ミスティさんは、そう言って俺の手をぎゅっと握ってくる。

 すごく暖かい。なんだか、こうして貰えると心が……落ち着く。


「だから、ワタクシはアナタの味方になりますの。このお姉さんに、どーんと甘えてくださいな」


「お姉さん……」


「あっ、ごめんなさい。アナタに、姉の話は……」


 俺と姉妹との確執を思い出し、しまったという顔をするミスティさん。


「いいえ、気にしないでください。むしろ、こんなにも綺麗で優しくて、頼りになるお姉ちゃんがずっと欲しかったんです」


 ガシャーン! ライカネエガタオレタ!? ネェネェダイジョウブ!?

 オボェロロロロロッ! ギャー!ユキナネェガゲロハイター! オニキモイヨー!?


「だから、その……ミスティさんさえ、良かったら」


「晴波君……」


「俺の……お姉ちゃんに、なってくれますか?」


「はあぅっ!?」ズキューン


 おそるおそる、ミスティさんの顔を下から覗き込むようにお願いする。

 するとミスティさんはガクンッとのけぞり、ブルブルと体を震わせ始めた。


「た、たまんねぇんですの……!」


「うわっ!?」


 よく見るとミスティさんの右の鼻の穴からぼたぼたと鼻血が流れている。

 俺は急いでハンカチで彼女の鼻を押さえた。


「ありがとうございますわ」


「ミスティさん、大丈夫ですか?」


「駄目ですわよ【晴人君】。お姉ちゃんをそんな呼び方したら」


 俺からハンカチを受け取ったミスティさんは、ジト目で俺を見つめてくる。


「ミスティお姉ちゃん。これで決まりですわ」


「わ、分かりました……」


「敬語も禁止ですの。さぁ、もっと砕けた感じで」


「うん。ミスティお姉ちゃん」


「ホグワァーツ!」


 俺に名前を呼ばれたミスティさんの、今度は左の鼻の穴から血が吹き出す。

 本当に具合が悪いんじゃないだろうか?


「あ、ああ……狂う! 狂ってしまいますわ……! この破壊力!」


「……え?」


「なるほど。これほどの相手が傍にいて、兄弟だから手を出せない。狂気に落ちるのも頷けますわね……」


 ブツブツと何か納得した様子でミスティさんが呟く。

 

「晴人君。これからはお姉ちゃんに任せなさいな。きっと、アナタの力になってみせますわ」


「うん。ありがとう」


「じゃあ、早速ですけれど。例の姉妹達に邪魔されそうにないアルバイト候補を挙げていきますわよ」


 こうして、俺はミスティお姉ちゃんから色々と有益な情報を教えて貰えた。

 しかも今までに経験したアルバイト先に、口添えもしてくれるという。

 こんなのにも心強い味方が出来て、本当に良かった。


「とまぁ、こんな感じですわね」


「助かったよ、ミスティお姉ちゃん」


「ふふっ、いいんですのよ。可愛い弟の為に力を貸すのは、姉の役目ですもの」


「その当然の役目が出来ないのを、二匹ほど知ってるけど」


 ワァァァァァン! ユルシテヨハァルトォォォォォォ!  

 オチツイテライカネエ!? ウルサインダニャー!

 ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!

 ユキナネエガコワレタレコードミタイニ!? キョウキノサタダヨー!


「あらあら、酷い言い草ですわね」


「というか、さっきから騒がしい客がいるなぁ。食べ終えたら、出ようか」


「そうしましょう。今夜は何か予定がありまして?」


「いえ、特には」


「なら、公園にでも行ってお話ししませんこと? ワタクシ、今夜は久しぶりのオフですのよ」


「分かった。俺もまだ、お姉ちゃんと話し足りないし」


「嬉しい事を言ってくれますわね。それじゃあ、とことん喜ばせてあげますわ」


 そして俺達は食事を終えて店を出る。

 それからは公園のベンチで並び、綺麗な夜空を見上げながらしばらくお互いの過去についてなど……色々な話を交わしたのだった。

お読み頂いてありがとうございます。

新・妹ポジも欲しいというお方がいましたら、

ブクマ登録や↓の【☆☆☆☆☆】での評価を何卒、お願い致します!

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[気になる点] 姉妹のオンドゥル語がヤバイな… 何言ってるかわからん…
[一言] 血の繋がりは無い?けど絆はあるミスティお姉ちゃん、血の繋がりが無くて絆も無い姉を名乗る不審者&妹を名乗る不審者。 どちらが真の家族か一目瞭然だな。
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