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蔵品大樹のショートショートもあるオムニバス

犯人の要求

作者: 蔵品大樹

奇妙な世界へ…

 私は猪狩哲郎。この道30年のベテラン刑事だ。

 今、私は、人生の壁とも言われるであろう所に立たされている。それは、銀行強盗犯の立て籠もりだ。

 事件の詳細は、5月10日、16時02分。二人の覆面を被った男が東京都牛見区東雲町の東雲銀行に入った。そして、奴らは銀行員と客を人質とした。

 実は、私は立て籠り事件は数えるくらいしかやったことが無い。私ですら、奴らを逮捕できるのかすらも怪しいのだ。

 現場につくと、そこにはもう、マスコミ、野次馬、機動隊と部下の椎名透がいた。

 「どうだ、椎名、中の人は?」

 「はい。立て籠もり犯の方は2人。2人の名前は、氷川清一、塚田幸人。武装はどちらとも覆面、ヘルメット、厚い服。武器は氷川がショットガン、塚田がアーミーナイフとリボルバー。人質は銀行員と一般人を含めて20人です」

 「わかった。じゃあ、拡声器を」

 私は椎名の持っていた拡声器を貰うと、それを使い、強盗犯に向けて話した。

 「君たち!君たちはもう包囲されている。いい加減出てきなさい!早く出たほうが、罪は軽くなる!」

 「うるせぇ!」

 銀行の中からは、何発もの銃声が聞こえた。

 「分かった!なら、君たちの逃げる以外の要求なら聞こう!その代わり、人質は開放してくれ!」

 声を大にして叫ぶと、それに頷くかのように強盗犯は答えた。

 「あぁ、分かったよ!人質は女と子供だけを解放してやるよ!」

 そして、銀行の中からは十人の女性と一人の子供が出てきた。しかし、ホッとしてはいけない。次は奴らの要求を聞かなくちゃならないからだ。

 「じゃあ、飯を寄越せ!こっちは腹が減ったんだ!そうだなぁ…ここの近くにある、昇鮨の特上2人前を寄越せ!1時間以内に渡さないと、人質を1人殺す!」

 「………わっ、わかった!昇鮨の特上2人前だな!」

 仕方なく、私は財布を持ち、昇鮨へと向かった。

 数分後。

 「はぁ…財布が軽くなったなぁ…」

 私は落ち込みながらも、寿司を強盗犯に持っていった。受取人は人質だった。

 「ホラ、これでいいだろ」

 「いえいえ、ありがとうございます」

 私は椎名の元に帰った。

 「これでいいんですか?猪狩刑事?」

 「いや、いや、これでいいんだ。敢えて、犯人の要求に従うことによって、奴らに隙ができる。そして、その隙ができた瞬間に突入するんだ。従わなければ、人質が殺されてしまうからな」

 「へぇ…猪狩刑事にはそういう作戦があるんですね」

 数分後、恐らく寿司を食べ終えたのだろう。また強盗犯がこちらに要求を出した。

 「よし!次は、野次馬を全て片付けろ!5分後に誰か一人でも残っていたら、今度は人質2人とその残っているやつを殺す!」

 これは簡単だ。

 「ここにいる人達!ここにいると危険です!早くお帰りください!」

 私は、椎名と共に、野次馬を帰らせた。そして、残ったのは、私と椎名と機動隊、そして、マスコミだけだった。

 5分後、また銀行から人質らしき男が出てきた。男は犯人に向かってジェスチャーで『バツ』と示した。

 「じゃあ、次だ!今度は俺達の親父を呼べ!」

 「なっ、何だって!それは出来ない!」

 「くそっ!呼べねぇんだったら、人質全員殺すぞ!」

 私達は犯人の威圧に押された。

 「わかった。じゃあ、その親父さんの出身を教えてくれ!場合によっては、呼び出せないかもしれないからな!」

 「わかった!俺の親父の出身は東京都の牛見区東雲町、氷川はその隣町の引野町だ!」

 「わかった!東雲町と引野町だな!」

 数分後、私達は犯人の父親を連れてきた。

 「清一!いい加減、そんなばかなことはやめろ!いずれ、後悔するぞ!」

 「幸人!早く出て来い!そして、刑務所で反省してくれ!」

 すると、中からは二人が出てきた。しかも、ヘルメットと覆面を外して。

 「せ、清一ぃ…」

 「幸人ぉ……」

 「すまん…父さん…」

 「何で俺達金欲しさにこんなことしたんだろぉ…」

 四人は泣いて抱き合っている。

 「じゃあ…私も行くか」

 逮捕しに行こうと、私は、歩み始めた。すると、後ろから、ドカドカと走る音が。それは、マスコミの連中だ。

 「すいません!エブリデイ新聞の記者です!お父様!息子が逮捕されることになった時はどう思ったでしょうか?」

 「どうでしょうか!」

 「どういったお気持ちですか?」

 「犯人の方にもインタビューを…」

 ある記者が、強盗犯に話しかけた瞬間、その記者は頭に鉛玉をくらい、倒れた。

 「なんだよぉぉぉぉぉぉぉ!もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 二人は泣き叫び、記者を殺し続ける。

 「おい!最後の要求だ!逮捕される前に、こいつらを殺させろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 もうそこは地獄絵図だった。殺し続ける強盗犯。それらに殺されるマスコミ。その強盗犯を止める父親と機動隊。

 私と椎名はそのまま立ち尽くしか、他はなかった。





 その後、私は警察職を辞めた。あの惨劇を見て心を病んだからだ。そして、今ではノンフィクション作家になっている。椎名の方も、警察職を辞め、今ではただのサラリーマンだ。

 強盗犯の二人は、たくさんの記者を殺した為、死刑になった。父親は心を病み自殺。東雲銀行は、例の事件のせいで、評判が悪くなり、廃業。そして、そこにはビルが建った。

 私は今、作品を書くための取材を終え、そのビルの前に立っている。

 私はあの時のことを思い出し、ほろりほろりと出た涙を拭き、そこを後にした。

読んでいただきありがとうございました…

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