悠真の場合の入学式②
体育館からクラスごとに退場して行き、参列していた保護者もいつの間にか居なくなっていた。
悠真と真守は連れションをした後お互いのクラスの方に別れて言ったがこの時も真守の話は頭に入ってこず、頭に浮かぶのはさっきの女子だった。
目が会い、お互い照れて離れて、再び目が会い見つめ合う。
そして女子の口が動いて何かを伝えようとしていたが何も聞こえなかった。
こんだけのことがあって考えないわけがない。
「なにか伝えたかったのかな?いや、でも多分初対面だし……。そもそも俺を見てたんじゃなくて近くの友達を見てたのでは?そしたら俺ただのキモイやつじゃん……」
だんだんと大きくなる独り言を教室に向かう廊下でブツブツと言った。
教室に入り、席に着く。
3列目の1番前の教卓のハズレ席に座った。
まだ、さっきの女子を頭の中で考えていると突然肩をトントンされ驚くとさらに驚いた。
「よろしくね。悠真くん!」
「うん。こちらこそよろしく名前聞いても……」
え!?いや待ってなんでさっきの女子が隣の席なの!?これが運命ってやつ?てかナチュラルに話しかけてきたけど普通結構緊張するもんでしょ?俺たちめちゃくちゃ目が合ってたんだよ?やっぱ俺の勘違いだったのかな?俺もう心臓バクバクよ?内蔵全部吐けって言われたら吐けるレベルだよ?吐かないけど!
「名前は胡桃 未来。実はこの前こっちに引っ越してきたばかりでまだ、この辺の事何も知らないんだぁ」
「そうなんだ。だったら今度この辺を案内してあげよっか?」
こっちこそなにナチュラルに誘ってるんだよ。
「ほんとにやったー!それじゃあこれ私のLINEだから予定とかはこっちで帰ってから決めよっか」
良いんだこの俺なんかで良いんだ。もっとこう……ほら色々あるだろ?
「…………うんそうしよっか」
会話の終わりと同時に担任の先生が入って来て2人とも椅子を前に向き直した。
だが、悠真の脳内ではありえないレベルの情報が行き交っていた。
名前は胡桃 未来。黒髪ショートでボブっぽいヘアスタイルをしていて、出るところもそれなりに出てて引っ込むところは引っ込んでいる。
セーラー服がよく似合いとても可愛い……ってなんで俺は真剣に分析してるんだ……?
てかそんなことより、高校で初LINE交換が女子でしかも出会い方が運命的で、更にいきなり出かける予定ができてる……。
……ダメだ童貞コミ力皆無の俺には情報量が多ぎてついていけん。
まあ、胡桃さんはまだこの街をあまり知らないらしいから案内も頑張らなきゃなあ。
はぁ……自然とため息が出てしまったが別に案内が嫌とか胡桃さんが嫌いとかでは無く、
処理が追いつかない脳とこんな美人でスタイル良くて可愛い人を満足できる案内ができるか不安すぎて……はぁ……また出てしまった。
……難しいことを考えるのは一旦やめて家に帰ってからにしよう。
そうは言ったものの、どうしても考えてしまうし、周りが談笑しているのに自分だけ机の前で黒板を眺めているのはかなり不自然になってしまっている。
窓の外を見ようと左を向くと、
「いた」
とっさ的に言ってしまったが実際はほとんど痛くなく、爪でほっぺを刺された様な優しい痛み。
「……やっとこっち、向いた」
笑うような不敵な笑みを浮かべ、だが、それはとても可愛く絵になっていてどこかイタズラ心に満ちているそんな表情で行ってきた。
「ずっと険しい顔で考えごとしてたみたいだけど、何考えてたの?」
「……特に何も考えてないよ。強いて言うならちゃんと《《彼女》》ができるか不安だった。それだけだよ」と考えてもいなかった冗談で返すと、
「なにそれ」と言いながら笑い「でも、悠真君なら《《彼女》》できるんじゃない?」
どこか奥のある表情でそんなことを胡桃は言ってきた。
なんて返すか少し考えてしまっていると、周りがざわつきだし、周りを見てみると荷物をまとめ、新しく出来た友達と帰り始めていた。
「それじゃあ私達も帰ろっか」
「……うん」
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