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8話 読書は大事!

 大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんっ! そしてまだ孵化はしません! 10話までには必ずっ!


 薬屋でのポーション作りのクエストを終えた俺は、報告も兼ねて道具屋に顔を出した。

 道具屋の店主に、ギックリ腰を発症した薬屋の店主の代わりに、ポーションを1000個作ったことを報告すると、想像以上の熱量で感謝された。どうやら、ポーションの在庫がかなり心許なくなっていたようだ。

 道具屋の店主から深く感謝されました、という内容のメッセージが表示されて、報酬までもらえた。報酬は何と、3SP! まさか報酬としてSPがもらえるとは思わなかった。これは嬉しい誤算だ。

 その後、一度ログアウトして、夕飯やお風呂などの諸々を済ませた後、俺は再びAWOにログインした。


 ―――突然だが、AWOにも他のVRゲームと同じように、時間加速システムが搭載されている。

 しかし、今は現実世界とゲーム世界の時間にズレはない。と言うのも、この時間加速システムは、長期間使用することで肉体と精神のバランスが崩れて、体か精神、或いはその両方に変調をきたす恐れがあると危険視され、使用に対して規制が設けられてしまったからだ。

 特にVRゲームは規制が厳しく、加速度は運営側に一任されているものの、使用できるのは最大で4時間まで。数字だけ見れば短いと思うかもしれないが、運営側が最大速度でシステムを使用すれば、現実世界の1時間がゲーム内では60時間(2日と12時間)になるのだから、最長で10日間も過ごせることになる。それを考えれば、決して短いとは思えないだろう。ただし、システムの使用は2ヶ月に1回と決められている。そのため、大抵イベント時に使用されるのが常だ。

 プレイヤー側が注意する点を上げるなら、時間加速システムはVRギアに使用履歴が記録されるようになっていることだろう。システムの規制は、当然プレイヤー自身も対象となっており、2ヶ月以内にシステムを使用したイベントなどに参加していた場合、システムが使用される別のゲームのイベントなどには参加できなくなってしまうからだ。

 一応、ハロウィンやクリスマスなどの季節限定イベントは、運営側も参加者を確保するためなのか、システムを使用せずに行われるが、それ以外のイベントはシステムが使われる可能性がある。

 そういう事情もあり、ハマってるゲームが複数ある人たちにとっては、どのゲームのイベントに参加するか、実に悩ましい問題だったりする。…まぁ、中にはゲーム毎にVRギアを変えてプレイしているゲーマーもいるらしいが。


 ………え、俺?

 俺はどのゲームでも、楽しく遊べればいいエンジョイ勢だったから、イベント参加に悩んだことはないよ。



 ―――閑話休題。



 ログインした場所は、中央区にある図書館の前。

 時刻は既に20時を回っているが、煌々と輝く街灯のおかげで、全体的に明るい。図書館も、館内の灯りが窓から漏れている。

 時間が時間だから、もう閉館してるかもしれない、と少しばかり不安だったけど、どうやらまだやっているようだ。取り敢えず、閉館するまでここで時間を潰そう。

 ………本当は、日付が変わるくらいまで、ポーション作りのクエストを続けるつもりだったんだ。だけど、あのクエストには上限があったようで、特別報酬を受け取ってからは、何度店主に話し掛けてもクエストが発生することはなかった。


 孵化するまで、あと約16時間。


 どうするか考えた時、真っ先に頭に浮かんだのが、この図書館だった。

 ギルドに行っても、フィールドに出ないでこなせるようなクエストは、多分ないだろう。…安全圏でこなせるクエストが、この短時間で更新されてるとは思えないからだ。

 ポーション作りのクエストに関しては、たまたま俺が《調合》のスキルを持っていたから、道具屋の店主に頼まれたんだろうし。

 きっとあれは、《調合》スキルのレベル上げのために用意されていたクエストだったんだろう。もしくは、薬師のためのクエスト。

 そう考えると、他の非戦闘職のスキル―――…例えば、《農耕》や《調理》、《裁縫》、《鍛冶》、その他諸々にも、それ用のクエストがあるのかもしれない。…ま、俺には《調合》しかないから、ただの推測でしかないんだけどな。



 △▼△▼△▼△



 館内は、ブラジルの有名な図書館をオマージュしたような作りになっていた。

 建築に詳しくないから、様式とかは分からないけど、天井近くの3階まで、壁面を覆うように設けられた書架や、そこに整然と並んでいる本。天窓のステンドグラス、煌びやかなクリスタルシャンデリア、深緑の壁、装飾が施された柱、シックな机と椅子、そして館内に満ちる図書館特有の静けさ。それらすべてが合わさって、感嘆するほど美しい。


「当館をご利用でしょうか?」

「ぇ、…あ、はい」


 突然声を掛けられ、俺はハッとして声がした方を振り向いた。


「ようこそ。アカシャ図書館へ」


 そこにいたのは、眼鏡を掛けた嫋やかな女性。多分、この図書館の司書だ。


「まず初めに、当館のご利用には、入館時に3000Gをお支払いいただいております」

「えっ、有料!?」


 しかも3000G?!

 ………どうりで利用者が1人もいないわけだ。

 有料って言われただけで躊躇しそうになるのに、その金額が初期の所持金の3倍じゃ、利用する気も失せるだろう。

 プレイヤーはおろか、NPCすらいないことに、ただただ納得した。


「はい。当館に納められている書物は、とても貴重なものが多く、選士様にとって有益になるものばかりですので」

「……有益…ですか」


 どんな風に有益なんだ?

 β版では解放されていなかった施設のようだし、普通に考えれば、攻略に役立つ情報があるってことだよな?

 ……まぁ、ここでうだうだ考えてるより、実際に利用してみれば分かるか。

 ポーション作りでかなり稼いだから、金額的には何の問題ないし、時間潰しのために来たんだから、支払いを躊躇う理由もないしな。


「また、この場で【入館証】を発行されますと、それ以降は、受付で【入館証】をご提示いただければ、すべての図書館が無料でご利用いただけます」

「すべて…?」

「はい。他の都市にも図書館はございますし、一般図書館もございますので。…とは言え、一般図書館は誰もがご利用いただける施設となっておりますので、ご提示いただかなくても無料なのですが」


 ――――なるほど。

 アカシャ図書館みたいに、個別の名前が付いてる図書館だけが有料なのか。で、架蔵する本に違いはあるようだけど、誰もが無料で利用できるのが一般図書館…、……あれ? でも【地図の調査】の時に各区を歩き回ったけど、マップに一般図書館なんて表示された建物…あったか? そもそも図書館があったのは中央区だけだし、数も一館だけだった。表示されてた建物名も、【アカシャ図書館】とかじゃなく、ただの【図書館】だったような………?


 う〜ん…、図書館があるってことと、その場所しか気にしてなかったからなぁ…。正直、建物名が何だったのかよく覚えてない。それに北区と中央区は、マップをセピア色に塗り潰すことを優先して、建物名とか完全にながら見だったし。

 ……他の区? 南区はブローチ探しに集中してて、男女別の兵舎があったことぐらいしか覚えてないし、東区と西区は、色々なお店があったからある程度覚えてるけど、売ってる物でお店の場所を覚えたから、店名とか覚えてない。


「…じゃあ、毎回料金を支払うより、【入館証】を発行してもらった方がお得なんですね。なら、【入館証】を発行してもらえますか?」


 どうせ明日も利用するんだ。毎回3000Gを支払うより、【入館証】の提示だけで済む方が手間もなくていいだろう。


「【入館証】の発行ですね。では、発行には15000G掛かりますが、よろしいですか?」

「いちまんごせ……っ?!」


 たっっっっっか!!!

 え、えぇっ?! 【入館証】って15000Gもするのか!?

 …………あ、いや、1回利用する毎に3000Gも掛かるんだから、【入館証】の発行だってそれくらいするよな。それに5回以上利用すれば、元は取れるわけだし………そう考えると、それほど高くないのか…? むしろ安い?


「―――…ぉ、お願いします」

「はい。…では、こちらの書類をご確認の上、お名前をご記入ください」


 渡された書類に軽く目を通して、名前を書く。


 …え? 書類に書かれてた内容?

 色々書いてあったけど、要約すると【入館証】を他のプレイヤーに渡したり、貸したりすることはできないし、当たり前だけど、売ることもできない。あと、【入館証】があれば、パートナーも図書館を利用できるらしい。

 どんなパートナーが生まれてくるかは分からないけど、獣系にしろ、鳥類系にしろ、爬虫類系にしろ……本読めたりするのか? …まぁ、パートナーなんだし、本くらい読めるのかもしれないな。


「…では、こちらが【入館証】になります」


 名前を記入した書類を司書に渡すと、1分もしないうちに【入館証】が出来上がった。



==================


【お知らせ】

貴重品【図書館の入館証】を入手しました。

《解除》

各有料図書館への入館が無料になりました。

一般図書館への入館が可能になりました。


==================



 一般図書館への入館が可能になりました……?

 それってつまり、【入館証】を入手しないと、一般図書館には行けないってことじゃないか。なら、マップ上に一般図書館って建物がなかったのも頷ける。


「あ、そうだ。この図書館の閉館時刻は何時ですか?」

「当館は24時間年中無休です」


 ――――コンビニかよっ!


 …と言うツッコミは、心の中で叫んでおいた。



 △▼△▼△▼△



 椅子に座って本を読む。今読んでいるのは、薬草に関する本だ。

 折角《調合》で作れる薬が増えたんだから、素材となる薬草の情報を知っておきたいと思うのは当然だろ?

 本には、色んな薬草の特徴や効能といった情報が、薬草の画像付きで説明されており、どういうところに生えているかも書いてあった。まだ一歩もフィールドに出てないし、パートナーが孵化するまで出る気もない俺にとって、こういった情報は大いに助かる。闇雲に探し回らなくて済むし、《鑑定》を使わなくても、ある程度なら見分けられるようになりそうだ。



==================


【お知らせ】

【薬草辞典・上巻】を読了しました。


==================



 読み始めて1時間が経過したのか、読了のメッセージが表示された。


「……まだ読み終わってないんだけど…」


 あと数ページ残ってる。

 取り敢えずメッセージは無視して、残りを読んでしまおう。


 何故、読み終わってもないのに読了のメッセージが表示されたのかというと、実はこの図書館にある本には、1冊1冊読了時間が設定されている。

 どうやら本の表紙を開いてから、設定された時間まで経過すると、実際に本を読んでいようとなかろうと、読み終わったことになるらしい。逆に、読了時間より早く読み終わっても、読了のメッセージは表示されず、読み終わったことにはならないようだ。


 ……え、読み終わるのが遅いって?


 薬草の画像や生えてる場所を確認しながら読んでるんだから、仕方ないだろ!


「………よし。アルビスタ周辺で採れそうな薬草は粗方覚えた。卵が孵ったら、さっそく採取に行こう」


 まぁ、その頃には完全に日が暮れてるから、森に行くような無茶はできないけどな。

 読み終わった本を机の端に置いて、新たな本―――『薬草辞典・中巻』を手に取った。


 アカシャ図書館が所蔵している本は、1冊で完結してるものもあれば、上巻や上中巻で分かれてるものもある。…が、下巻は1冊もない。始まりの都市にある図書館だからか、色んな知識を広く浅く得られるようになっているようだ。

 だから『薬草辞典』も中巻までで、下巻はアカシャ図書館にはなかった。

 司書に訊いてみると、下巻は他の都市の図書館が所蔵しているらしい。どこの都市の図書館が所蔵しているのかも訊いてみたけど、所蔵先は教えられないと言われてしまった。


 まぁ、とにかく。今は『薬草辞典・中巻』を読み進めよう。

 他の本も机の上に持ってきてるし、今日中に全部―――……はどう考えても時間的に無理だから、ログアウトする前に、あと2冊ぐらいは読みたいと思う。



 △▼△▼△▼△



 『薬草辞典・中巻』には、茸類の情報も載っていた。状態異常を引き起こす薬の素材としては、草本類よりも茸類の方が持続時間が長くなるようだ。

 色々な薬草や茸が載っていたけど、中巻にも魔力草の情報はなかった。貴重な薬草だからなのか、魔力草の情報は下巻に載ってるのかもしれない。


「…あ」


 時間になったのか、中巻を読了したとメッセージが表示された。


 残念! まだ読み終わってません。あと十数ページ残ってますー!


 …と読了のメッセージを茶化していると、続いて、新たなメッセージが表示された。



==================


【お知らせ】

スキル:《薬草知識》を習得しました。


==================



 は? スキルを習得?

 …あー、そう言えば……スキルの中には、特定の条件をクリアすると習得できるものがあるって、まとめサイトに書いてあったっけ。

 つまり《薬草知識》を習得する条件は、『薬草辞典』の上巻と中巻の読了のメッセージが表示されることなのか。


 《薬草知識》…か。

 どんなスキルなのか、ちょっと鑑定してみよう。


==================


薬草知識

視認するだけで薬草の名前が表示されるようになる。


==================


 へぇー、視認するだけで薬草の名前が表示されるようになるのかー。

 これは便利だなぁ〜!




 …………薬草を見分けられるように…懸命に画像を覚えた俺の努力……っ、全部無駄だった……ッ!!



 気分は完全に失意体前屈(orz)だ……。


「ハァ…、さっさと残りのページ読んで、新しい本読もう……」


 この状態異常は当分治りそうもない…。

 俺は気落ちしたまま、残り十数ページを読み進めた。



 △▼△▼△▼△



 『薬草辞典・中巻』を読み終わり、更に『モンスター図鑑・上巻』も読み終わった。今は『モンスター図鑑・中巻』を読んでいる。

 中巻にはアンデッド系や爬虫類系のモンスター、スライム、妖精、精霊の情報が載っていた。

 『モンスター図鑑』には、各モンスターの主な生息地や獲得金額、ドロップアイテム、攻撃方法――魔法を使用する場合は、使用魔法まで――が書かれている。さすがに弱点は載ってなかったけど、使用魔法の情報はかなり有益だ。

 面白いのは、混乱や魅了、恐怖の状態異常を付加した場合、モンスターが行う異常行動まで載っていたことだ。特に有益だと思ったのは、ミミックの情報だ。

 ミミックは宝箱型と袋型の2種類がおり、そのどちらも、体内の亜空間にお金やアイテムを貯め込んでいる。

 そんなミミックが混乱すると、お金をばら撒いたり、溜め込んでるアイテムなんかを吐き出したりするらしい。袋型と比べて、宝箱型のミミックはかなりいいものを貯め込んでいるそうで、宝箱型のミミックを倒す際は、混乱状態にして、貯め込んだものを粗方吐き出させた後、倒すのがオススメだと書かれていた。ただし、ミミックの生息地は不明となっていたから、見付けるのも大変そうだけど。

 因みに上巻には、獣系の小型・中型のモンスターや、昆虫系、鳥類のモンスターの情報が載っていた。



==================


【お知らせ】

【モンスター図鑑・中巻】を読了しました。


==================



 読了のメッセージが表示された。これで中巻も読み終わった。



==================


【お知らせ】

スキル:《モンスター知識》を習得しました。


==================



 おっ! やっぱり《モンスター知識》のスキルを習得できた!

 『モンスター図鑑』の上中巻を読んだ甲斐があったな!

 スキル効果は《薬草知識》と似たような内容だろうけど、一応《鑑定》…っと。


==================


モンスター知識

視認するだけでモンスターの名前が表示されるようになる。


==================


 うん。やっぱそうだよな。

 このスキルも《薬草知識》と同じように、かなり使える。


 VRゲームはリアリティーを重視する傾向にあるから、区別するためのマーカーは出るけど、キャラ名が頭上に表示されることはない。

 それはAWOも同じだ。現に、頭上に名前が表示されてるプレイヤーはいなかったし、NPCにもなかった。

 その仕様は、モンスターにだって適用されてるはずだ。一度鑑定したから、倒したからといって、名前が表示されるようにはならないだろう。

 でもこのスキルがあれば、初見のモンスターであっても、名前を知ることができる。習得方法の難易度も低いし、かなり優秀なスキルなのかもしれない。

 …と言っても、アルビスタ周辺に出現するモンスターは、定番のゴブリンや、ウサギやリスなどの小型系モンスター、ボア系、ウルフ系、イモムシなどの昆虫系あたりだろうから、《モンスター知識》が必要だとは思えないけど。あ、特定のモンスターを討伐するクエストでは役に立つかもしれないな。いちいち《鑑定》しながら探し回らなくて済むし。

 …え、定番中の定番のスライムはどうしたって? AWOのスライムは、玉ねぎ型やおまんじゅう型の可愛いマスコット的なヤツじゃなくて、型崩れしたゼリーのような見た目の粘液体で、窪みが目や口に見える、なかなかグロテスクなヤツだ。しかも最弱設定じゃないらしい。スライムのページには、侮ってると死に戻りしちゃうゾ☆というコミカルな注意書きまであったし。


「……あ、ヤバ! もう12時半回ってる!」


 ふと見上げた先にあった時計が指す時刻に、俺は慌てて席を立った。図書館の中ではログアウトできないから、一度退館しなければならないからだ。

 俺は卵と本を抱えて、急いでカウンターに向かって、司書に本を返却した。


「お帰りですか?」

「はい。また明日来ます」

「ご利用ありがとうございました。明日もお待ちしております」


 にこやかに微笑む司書に軽く頭を下げて、俺はアカシャ図書館をあとにした。



 孵化まであと――――11:47:38。


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― 新着の感想 ―
[一言] 作者の性癖的なのが感じます 欲張りな設定ですが面白いです、応援してます
[一言] お帰りなさい。待ってました。
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