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4話 卵なパートナーとギルド

 前話を大幅に修正しました。

 7/3以前のものをご覧いただいた方は、読み返していただけると幸いです。

 7/15の改稿にも加筆修正が行われているので、よろしければご覧ください。


 気持ちを完全に切り替えた俺は、これからの予定を一から立て直すことにした。…何せ、パートナーとフィールドを散策しつつ、レベル上げをする気満々だったからな。

 そのレベル上げができなくなった以上、別のことをする必要がある。

 ここに留まってたって、ただ無駄に時間が過ぎていくだけだ。せっかく高倍率の抽選に当たったのに、そんなマネはできない。


 周りの視線も気になるし、アルビスタを見て回ろうか?

 それとも、ギルドに行って、フィールドに出ずにこなせるクエストを探す?


 ……どっちを選んでも、人目につくのは変わらないだろうけど、選ぶなら後者だな。

 都市を散策するよりも、ギルドの方がプレイヤーの数は少ないだろうから、チラチラとこちらに向けられる視線も減るはずだ。


 ――――よし、決めた。


 まずはギルドでクエストを探して、死に戻りの心配がないクエストを受ける。…第一エリアにあるギルドだし、フィールドに出なくてもこなせるクエストがあるはずだ。そしてクエストがなくなったら、観光も兼ねて各区を散策しよう。

 それじゃあギルドに行く――――…前に、卵を鑑定してみるか。


==================


???の卵

種族:???

レアリティ:???

クラス:???

《特記》

未知の卵。

あなたの行動によってすべてが決まる。


==================


 …うん。ほとんど分からん。

 とりあえず、鑑定結果にまで、俺の行動によってすべてが決まるって書いてあるのを知れたのは収穫だった。やっぱり相当重要なポイントなんだろう。

 もう1つの卵も同じ鑑定結果だったから、間違いない。

 それにしても、鑑定結果にHPやMPの表示はないし、卵にはパートナーを表すマーカーもない。もしかして、卵自体はオブジェクト判定なのか?

 因みに、パートナーを表すマーカーは緑。プレイヤーは青。召喚獣や従魔は紫。NPCは黄色で、モンスターや敵、破壊可能なオブジェクトは、赤に色分けされている。

 今度こそギルドに向かおうとして、はたと気が付いた。


 この卵は、俺が運ばないとここに取り残されるのか?


 卵がオブジェクト判定なら、普通取り残されるよな? でも、仮にオブジェクトだったとしても、この卵は俺のパートナーなわけだし……。


「……………」


 立ち上がって、一歩卵から離れてみる。すると、卵が開いた距離を詰めてきた。

 どうやら運ばなくても、俺の後を付いてきてくれるようだ。……2つの卵を後ろに引き連れて歩く絵面って、傍から見るとなかなかシュールだよな。かと言って運ぶとなると、両腕で抱える――――…のは、落としそうで怖いから止めて、両脇に抱えるしかない。卵の胴回りは、大体バレーボールほどの大きさだから、両脇に抱えて運ぶことはできる。……それもなかなかに間抜けな格好だけど。

 でもまぁ、卵を大切にするって意味では、引き連れて歩くより、抱えて運んだ方がいいだろう。


 少し悩んだ末、俺は卵を両脇に抱え、ギルドに向かって走り出した。



 ――――え? クエストの文言に囚われすぎてるって?


 仕方ないだろ。

 まるでヒントのように、クエストだけじゃなくて卵の鑑定結果にまで、『俺の行動次第』って書かれてたんだ。

 特殊な個体が生まれてくるのを期待してる俺としては、『大切に育てましょう』っていう文言だって見過ごせないんだよ。



 △▼△▼△▼△



 結果として、ギルドにプレイヤーの姿はなかった。一人もいない。もしかしたら、サーバーの負担を減らすために、別のギルドサーバーに切り替わったのかもしれない。

 プレイヤーの代わりにいたのは、NPC冒険者たちだ。パーティーなのか、数人で固まって何やら話しているようだ。他にも、紙が貼られたボードを真剣な表情で見詰める筋骨隆々な戦士や、獣系の従魔と戯れるイケメンテイマー、装備の点検をしている綺麗な女剣士、誰かを待っているような素振りの可愛らしい魔女っ子なんかもいる。

 そんなNPC冒険者たちから向けられるのは、プレイヤーから向けられてたものとは違って、憧憬や羨望といった眼差しだ。


 そもそもプレイヤーは、異界からやって来た冒険者とかじゃなくて、元からAWO世界にいた現地人だ。選定神というAWO世界に存在する神様によって選ばれ、パートナーを与えられた特別な存在っていう設定なんだ。だからプレイヤーである俺が卵を両脇に抱えてても、奇異の目で見られることはない。……どう見ても不審者でしかない俺を、プレイヤーだと見抜くNPCたちの慧眼には驚きだが。


 …え? プレイヤーを見分けるようにプログラムされてるんだから当然だって?

 分かってるよ、そんなことは。


 基本的に、憧憬と羨望の眼差しを向けてくるNPCだけど、中には妬みから害意を向けてくる者がいるらしい。βテスターたちのまとめサイトに、NPC冒険者に絡まれた、という報告があったし。…ま、ここにいるNPCたちからは、そんな視線は一切感じられないけど。


 俺は空いている受付カウンターに向かい、両脇に抱えていた卵をカウンターテーブルの上に置いた。


「ようこそ、アルビスタ支局へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 カウンターの向こう側から、綺麗な受付嬢がにこやかに話し掛けてくる。さすがAWOの開発チーム。受付嬢も物凄く美人だ。


「えーっと、フィールドに出ないで済むクエストを探してるんですが、ありますか?」

「そうですね、……3つほどあります」


 3つか…。まぁ、フィールドに出ずにこなせるクエストなんて、そんなにないよな。


「……あの、もしかしてお客様は、選士様では?」


 俺の傍らに置かれた卵を見て、受付嬢の目がキラリと輝いた。

 彼女の言う『選士』ってのは、プレイヤーのことだ。普通に冒険者じゃ、NPCの冒険者と区別が付かないから、NPCたちからはそう呼ばれるらしい。


「え、…あ、はい。そうです」

「やっぱり! この卵がパートナーですか? パートナーが卵状態だなんて初めて見ました!」


 受付嬢は目をキラキラと輝かせながら、やや興奮気味に卵を見詰める。

 やっぱり、パートナーが卵状態なのは珍しいのか。


「あのっ、もしご迷惑でなければ……孵化したパートナーを、見せていただけませんか?」


 ――――パッ!


==================


【特殊クエスト】

孵化したパートナーを受付嬢に見せる。

《期限》

無期限

《報酬》

パートナーの種族とレアリティによって変化。


【Yes】/【No】


==================


 また特殊クエストが発生した。

 孵化したパートナーを見せるだけのクエストか……。しかも期限はないし、報酬も結果に合わせて変化するタイプだ。

 まぁ、パートナーを見せるだけの簡単なクエストだから、引き受けても何の問題もない。

 【Yes】を選択すると、受付嬢の表情が目に見えて花やいだ。


「本当ですか!? ありがとうございます! いったい、どんな子が生まれるんでしょうね?」


 楽しみでしょうがないといった様子で、受付嬢は喜色満面だ。


「さぁ? 何一つ分からない状態なんで、今から楽しみなんですよ。…あ、そうだ。少し訊きたいんですけど……この2つの卵を安全に運ぶ方法って、何かないですかね?」


 ふと思い付いて、俺は受付嬢に、卵を安全に運ぶ方法がないか尋ねてみた。

 ここへは両脇に抱えて走って来たけど、クエスト中でも同じことができるとは思えない。クエストの内容によっては可能かもしれないけど、卵を両脇に抱えて街中を走るのは……どう考えても悪目立ちするよな。

 ゲームで有名になるのは、プレイヤーとしてちょっと憧れるけど、不名誉な方面で有名にるのは遠慮したい。

 それに、もし誤って地面に落としでもしたら……、と考えると怖くなる。…まぁ、卵にはHPの表示がないし、破壊不可能なオブジェクトのようだから、落としても問題はないんだろうけど、心情的にはアウトだ。多分、クエストの『大切に〜』の文言的にもアウトだろう。


「卵を安全に運ぶ…ですか? 失礼ですが、ここへはどうやって?」

「とりあえず、両脇に抱えて来ましたね」


 『走って』部分はあえて言わないでおく。何となく言わない方がいい気がする。


「そうなんですね。さすが、選士様です。卵の状態であっても、平等に2体のパートナーを大切にしていらっしゃるんですね」


 お、褒められた。…ってことは、卵を両脇に抱えて運んできたのは正解だったってことか?


「このサイズの卵を安全に運ぶ方法…。う〜ん……。そうですねぇ…」


 受付嬢は小首を傾げながら、真剣に方法を考えてくれる。ちょっとした思い付きで訊いただけだったから、こんなに真剣に考えてもらえると、少し恐縮してしまう。


「あの、選士様は卵を抱えて運びたいんですよね? …ですが、孵化するまでずっと両脇に抱えて運ぶのは、安全面において、かなり不安だと思います。なのでこの際、2つ一遍に運ぶのではなく、1つだけ抱えて運び、数時間毎に交代するのはどうでしょう?」

「交代制…。なるほど」


 それも1つの手か。

 交代制なら、どちらか片方だけを贔屓するわけじゃないし、両手でしっかりと卵を抱えられるから、滑って落とす可能性もグッと低くなる。そして何より、両脇に卵を抱えてる姿よりも、悪目立ちしないで済む!


「いい案ですね。そうします」

「お役に立てたのなら幸いです。――――それでは、ギルドから提示させていただくクエストの説明に入りますね」

「はい。お願いします」

「まずは―――…」


 そうして受付嬢から提示されたクエストは、【失せ物探し】と【配達】と【地図の調査】の3つだった。

 【失せ物探し】は、子供が落とした三日月型のブローチの捜索だ。住宅街である南区で落としたので、捜索範囲は南区だけでいいらしい。期限は1日。依頼者が子供ということで、報酬は100Gと安い。

 【配達】は、指定された店に品物を配達するクエストだ。配達場所は、武具屋や道具屋などの商店が立ち並ぶ西区と、農地や牧場がある北区の2ヶ所。期限は1日で、報酬は300G。

 【地図の調査】は、各区を歩いて地図との違いを確認していくクエストで、あちこち歩き回ることになる。散策しながらこなせそうなクエストだ。期限は2日。報酬は500Gと1SPだ。


 SPとはスキルポイントの略で、そのポイントと引き換えに、新たなスキルを習得することができる。ただし、クラスに直結したスキル――例えば、格闘家の《格闘技》や侍の《抜刀術》、錬金術師の《錬金術》、付与魔法師の《付与魔法》、召喚師の《召喚術》、料理人の《調理》、裁縫師の《裁縫》、薬師の《調合》など――は、大量のスキルポイントが必要になるため、簡単には習得できない。だからそういったスキルは、クラスチェンジして手っ取り早く習得した方がいいらしい。…が、クラスチェンジしてしまうと、前のクラスで習得した各スキルのレベルが1に戻ってしまうから、一概にいいとは言えないようだ。

 因みに、SPはクエストなどの報酬か、一定のレベルアップ毎に3ポイントずつ入手できるようになっている。

 それを考えると、確かにクラスチェンジした方が手っ取り早くて楽だ。だけど、クラスチェンジに必要なアイテムを入手するのも、そう簡単じゃないだろうから、やっぱりどっちもどっちなんだろう。


「クエストは、最大で3件まで同時に受けることができますが、どうなさいますか?」

「3件とも受けられるなら、受けます」


 同時進行が可能なら、一遍に受けてしまった方が手間が省ける。それに【失せ物探し】と【地図の調査】は、依頼の内容的にも相性はよさそうだし。


「分かりました。では、こちらが配達して欲しい荷物と場所になります」


 そう言って受付嬢がカウンターテーブルに置いたのは、【納品リスト】と【切れ味が落ちた剣】と【素材・スネークウッド】と【肥料が入った袋】の4つ。

 場所は、【納品リスト】が道具屋で、【切れ味が落ちた剣】が武具屋、【素材・スネークウッド】が雑貨屋、【肥料が入った袋】が北区にいる農家だ。


「各所に届けましたら、受け取り主から、この紙にハンコをもらってきてください」

「分かりました」


 差し出された紙には、ハンコを押す場所として、4ヶ所の四角いマスが印字されていた。このマスすべてにハンコをもらい、ギルドに提出すればクエスト完了のようだ。

 紙を受け取り、カウンターテーブルに置かれた配達物と一緒にインベントリーに入れる。

 インベントリーを呼び出してみると、画面に【消耗品】と【道具一式】と【貴重品】というタブができていた。切り替えて確認すると、【消耗品】には所持金とポーションと携帯食だけで、簡易調合道具一式は【道具一式】に移動している。配達物や受領印を押してもらう紙は、【貴重品】に入っていた。どうやらクエストに関する物は、貴重品扱いらしい。


「そしてこちらが、現在のアルビスタの地図になります。この地図は魔道具ですのて、各区を歩いていただければ、自動的に地図との相違点を見付け、修正するようになっております」

「へぇー」


 随分便利な魔道具があるんだなぁ。

 そういえば、スチームパンク風のエリアでは、魔道具の開発と製造が盛んだって、公式サイトに載ってたっけ?


「地図は手に持っていなくても大丈夫なので、仕舞っていただいて構いませんよ」


 彼女の言葉は実にありがたかった。卵を抱えて運ぶつもりの俺としては、卵以外は極力持たないようにしようと思っていたからだ。

 早速インベントリーに地図を仕舞えば、視界の右上に灰色のミニマップが表示された。多分これが、魔道具の効果なんだろう。


「では、クエスト頑張ってくださいね」

「はい。行ってきます」


 笑顔で応援してくれる受付嬢に、同じく笑顔で頷き返しながら、俺はカウンターテーブルから黄色い卵を床に下ろし、灰色の卵を両手でしっかりと抱えたのだった。



 孵化まであと――――23:29:59。


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