第一章 第四話 プロローグのエピローグ
後半戦です
同刻・古代超魔道帝国・謁見の間・特異点対策本部
二人が無事に事を終えて帰還した。
謁見の間に歓声が上がる。
帝国の命運を左右するミッションの完遂に皆が互いを讃えた。
「よっしゃー!」
宰相とハイタッチする皇帝。
「うえーい」
続いて予知部の責任者とハイタッチする。
「よーし、お前ら並べ並べ!」
わーいと歓声を上げながらスタッフが一列に並ぶと、その間を皇帝がハイタッチしながら駆け抜ける。
魔力で音声が増幅されたアナウンスが流れる。
『皇帝陛下と、ハイタッチ中の、皆様に、お知らせします。まもなく、非常事態宣言が、解除されます。大臣級に満たない方々が、皇帝の素顔を見た場合は、斬首刑。お体に触れた場合は、三親等までが、絞首刑となります。ご注意ください』
皇帝のハイタッチが空振りする。
スタッフが蜘蛛の子を散らすように逃げ出したからだ。
「逃がすか!」
全力疾走する皇帝とスタッフの命がけの鬼ごっこが始まった。
「パパってばアホ可愛いわ」
宰相がパンパンと手を鳴らして皇帝と皇女に声をかける。
「そこまで!お二人がここに居ては、後の処理に差し障りますですぞ。ここは爺に任せて下がってくだされ」
その夜、帝国では晩餐会が催された。
もちろん、タピオカドリンクは飲み放題だった。
*
後日・古代超魔道帝国・謁見の間
大義を果たした皆の功績に対して、栄誉を称え叙勲するための式典が執り行われた。
あの雑然としていた謁見の間は綺麗に片づけられており、家臣が整然と並んでいる。
皇帝が座るべき玉座と参列者との間は広く離されており、壁際には完全武装の帝国騎士団が整列していた。
玉座の脇に立つ、帝国宰相が式典のはじまりを告げる。
「皇女殿下のご入場」
参列者のなかで要職に無いもの達が膝を折り頭を垂れた。
この者たちは本来、皇女と拝謁することは許されない。
皇女は純白のドレスを身にまとい、顔はベールで隠されている。
皇女は玉座と並ぶ一回り小さな椅子に納まった。
「皇帝陛下、ご入場」
更に列席者が膝を折る。
立っているのは宰相を含めた元老院と各騎士団の団長だけとなった。
皇帝が玉座に着くと宰相が傍により、皇帝の言葉を聞く。
宰相がその言葉を儀礼官に伝えると、儀礼官が文章に起こし聖職者による帝国法との照らし合わせを行う。
皇族が公式に発する言葉は全て事前に用意されている。
だから、この一連の流れは儀式でしかない。
儀礼官が文章を朗々と読み上げる。
内容は当たり障りのない労いの言葉だ。
「続けて勲章の授与を行う」
名を呼ばれ進み出たのは、あの奴隷商人に扮していた老騎士だ。
その胸には現役時代に得た数々の勲章。
そして、新品の台座が添えられていた。
皇帝代理として儀礼官が勲章を授与する。
「そして、今回は特別にもうひとつ勲章が用意されておる」
勲章を乗せた朱色の盆を持つ儀礼官、立ち上がり歩み寄ったのは皇女だった。
元老院から僅かなどよめきが起きた。
皇族からの直接授与は大変な栄誉である。
歴戦の勇士と名高く騎士団長を歴任してきた老騎士とて、今回が二度目の授与だ。
予想外の授与に老騎士が心の中で狼狽する。
出がけに妻に着けてもらった台座は一つだけだ。
だが、よく見ればその勲章は針を通して裏からピン止めする珍しいタイプだ。
儀礼官から勲章を受け取った皇女が老騎士に正対する。
もちろん、あの一件以降顔を会わせることなどありはしない。
ゆっくりと、厳かに、流れるように。
皇女が老騎士の胸に勲章を添える。
ベールの向こう側で皇女が囁く。
「これは出がらしの分」
チクリとピンの針を老騎士に立てた。
老騎士は驚いたが表情に出すことは許されない。
「そしてこれは、鶏がらの分だー」
出がらしの恨みと鶏がらの恨みで二回肌に針を押し当てた。
なお、鶏がらと言ったのは老騎士ではなく農夫だ。
さらに小声で皇女が話しかける。
「お孫さん、どうだった?」
老騎士はただ静かに頷く。
「それは良かった」
それを確認したいが為に無理に申し出た授与だった。
あのとき、去り際の一言でネル少年は、年老い引退した者たちに居るであろう孫に興味が湧いていた。
この城に居る者は全て、皇帝から下働きに至るまで一人残らずネル少年が名付け親である。
名前を得た老騎士の孫は無事に再誕したようだ。
どんな勲章よりも老騎士にはそれが嬉しかった。
「差し引きすると褒美が多すぎるから、あと二回くらい刺しておくわ。えいえい!」
その針が例え心の臓を貫いても、老騎士には褒美の方がずっと多かった。
「皇帝陛下ならびに皇女殿下のご退場」
その間も家臣たちはじっと待っている。
帝国法によって威厳に伝統と格式が守られている古代超魔法帝国の日常がもどった。
そう思われた矢先、慌ただしく駆け込んできたものが居た。
皇帝と皇女が立ち止まる。
帝国騎士に僅かな緊張がはしる。
彼はその帝国騎士に書類を渡すと、頭を下げたまま退出してしまった。
一体何事かと宰相がその書簡に目を通す。
「皇帝陛下。緊急の義でございます」
式典の段取りはもはや滅茶苦茶だ。
書簡の内容を宰相より聞いた皇帝が皆に向き直る。
「皆の者、面を上げよ。予知部が特異点の活動を予見した。これより帝国特措法に基づき、非常事態を宣言する」
第二章へつづく
これにて第一章おしまいです。
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