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6話 「新しいお仲間が増えたのですが!」

 それからの生活というもの、自分でもびっくりするくらい普段と変わらない日々を送っている。いや、一点だけ大きく違うとこあるけど、それを除けばって話だ。


 ここ数日、確かにモモカはテキパキと家事をやってくれた。自分が大学やバイトに行ってる間は掃除や洗濯、買い物さえも済まし、なんなら毎食ご飯を作ってくれる。しかもこれまたおいしいときた。


 最初はかなり警戒してたけど、段々とこの女のことを受け入れられるようになった気がしないでもない。まだ油断はしてないけど、なんとなく、この共同生活に対して悪い気もしていなかった。


 変わったことは私の健康が良好になったこと、だけではない。ニュースに目を通すようになった。まだ一週間も経ってないけど、その理由は捜索に関する記事が書かれてないかが気になっていた。もしかしたら家出娘かもしれない。あるいは元々この娘が一人暮らしだったとしても、誰かが探しているかもしれない。そんな可能性も考えてはいた。


 けど、未だそういう情報は得られていないのが現状だ。まぁそれならそれでいいけど。

 なにはともあれ、この娘の嫁スペックが非常に高い以上、出て行けと言いづらくなっていたことに私は困っていた。

 そしてもうひとつ、困ったことが。


「はぁ~ん……良野さんの脱ぎたて靴下……すぅーはぁーすぅーはぁー」

「洗濯機に入れろォ!」


 休日のお昼頃、そんな独り言が洗面所から聞こえてしまい、思わず居間の外へ続くドアをズバシャンと勢いよく開けた。廊下と洗面所、キッチンが直結している空間で、モモカが洗濯籠から先ほど脱いだ服を被り、靴下に鼻を埋めている。整った小顔だけ見れば、花の香りを嗜む絵になるだろう。


 すぐさま靴下を取り上げ、洗濯機の中へ叩き付ける。「あぁん、そんなぁ」みたいな切ない顔をするんじゃない!


「世の蚊は人の体臭や汗が大好きなのに」

「今は人間でしょうが!」


 ダメだ、こうなるとあまり言うことを聞かなくなる。顔がぽーっとしてるし、いかにも本能に従っている感じだ。確か二酸化炭素でも反応するんだっけ……って今じゅるりって音しなかった?


「あの、すいません、やっぱり良野さんの生足を嗅がせてください」

「そのまま血を吸う勢いなんだけど!」

「そのツッコミの吐息も私にとっては誘惑に等しい行い。罪ですよ、良野さん」

「知らんがな!」


 ふらっと片足に飛びついてきて舐めまわさん勢いでスンスン嗅いでくる。若干興奮はしてるしこのまま血を吸われるんじゃないか。嫌だぞ足に虫刺されできるの。なぜか腕よりかゆくなるんだよ。いやそうじゃなくて、キスマーク型のかゆみ腫れなんてまっぴらごめんだぞ。


 そのとき、ピンポーン、とインターホンが鳴る音。モモカの動きは止まり、音の方に意識がいった。

 よかった、インターホン様ありがとうございます。


「はいはーい! どちらさまですかー?」


 でも誰だろう。宅配頼んだやつも前に届いたし、友達が来るなんてことはこれまで一度もなかったし。まさか親とか? いやそれだけはない。


 居間と台所兼玄関を繋ぐ仕切り代わりのスライド式の戸を半開きにさせて、玄関を覗いてみる。


 ただ、なんだかいつもとは違う……ただならぬ予感がする。なんというか、感じたことのない修羅場の空気が漂う。これが直感ってやつか。


「ここが良野という御方のお宅ですわね」


 うっわ、マジで知らない人だぞ。しかも偉そう、というかお嬢様口調って今時いないよ。


 こっそりと曇りガラスのスライドドアの隙間から覗き込む。おいおい、本当にお嬢様風、に加えてどっかの学園生徒みたいな恰好じゃん。


 そのゴスロリチックなジャンパースカート着て似合うの美人の巨乳ぐらいだというのに見事に着こなしてるし、いやサンドカラーの配色でもなんかきらびやかに見えるのなんで。ブラウス白いし、黒いタイツ履いてるし。あのアームロング、サテンっぽいなぁ。手提げカバンが心なしかバーキンに見えなくもない。あれ、もしかしてフレアヒール履いてる?


 そして。うーん。見事なまでの長い金髪(ブロンドヘア)。ありゃ地毛だと見た。三つ編みのハーフアップとか、自分をお嬢様と主張しているようなものだ。


「……ああいうのリアルにいるんだな」


 今度は高飛車の金髪美少女と来たか。


 初対面であるはずなのに、一切動じず対応するモモカのコミュ力よ。少しはたじろいどけ。あんたも怖いわ。


「ええ、そうですよ。良野さんのお知り合いですか?」

「わたくし、先日助けていただいたハンカチですわ」


 今度は無機物ー!


「あの、ハンカチさんがどうしてウチまで」


 なんでごく普通に対応してるの!? 順応早くない!?


「ハンカチは一般名ですのよ。お言葉に気を付けてくださいまし」

「あ、申し訳ありません」

「わたくしは樫宮ローランと申しますわ」


 名前あったのか。樫宮は持ち主の苗字だろうか。


「よろしくお願いします、樫宮さん。あ、よろしければお茶でも」

「そうさせていただくわ」

「いやなに勝手に上げようとしてるの!?」


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