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水平線上のアルマティア  作者: 深波恭介
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新たな魔王

「ああ、そうかい。いいさ、やってみなよ。すぐにどちらが上であるかわからせてあげるからさ」


 魔力を奪われているという感覚はなかった。それができるだけの時間はあり、相手の性格から見ても話しているあいだにこっそり魔力を奪ってくるくらいのことはあると思っていた。


 あの能力は完全無欠じゃない。


 単なる油断ではない理由がそこにある気がした。


「ここはわたしにお任せください。ルシファー様はそのあいだにご準備を」


 そのとき後ろに控えていた見知らぬ魔王種が前に出ながら言った。


「あぁ、好きにしろ。もしもあいつをやれたらお前の力を認めてやるよ」


 満足げにルシファーがうなずくと男がこちらへ足を運び対峙したユーリへと高揚した笑みを向ける。


 肌を覆う紫の奥で二つの瞳が嬉々として光っていた。


「ユーリ・ホワイトガーデン。会えるのを楽しみにしていたよ」


「……さっきから気になってたけど誰だよお前。城にいなかっただろ」


「俺の名はオーティ。ルシファー様のお力に魅入られて忠誠を誓った魔王の一人だ」


「恐れをなしたの間違いじゃないのか」


「そう吠えるなよ。お前の噂は何度も聞いたことがある。ずっと戦いたいと思っていたんだ」


「すっこんでろよ。いまはお前とじゃれているほど余裕がないんだ」


「あまり俺を見くびらない方がいいぜ? 俺は魔王となってビュイスやティユルに並ぶ力を得たんだ。あいつらに苦戦した英雄がどれほどの実力だったのか確かめてやるよ」


 残りの二人はルシファーの後ろにいたまま手を出してくるつもりはなさそうだった。


 魔力を奪われたせいで戦える状態ではないのだろう。だが彼らとは違い目の前の男から感じる魔力の波動は大きかった。


「やめておけよ。お前じゃこの俺に及ばない」


「すぐにはっきりするさ」


「……聞き入れてはもらえないみたいだな」


 小さくため息をついて杖を向けたユーリに反応して即座にオーティが手のひらをかざした。


 魔力が放出されフェアリーが励起されていき、ユーリはその気配を感じた瞬間に紋章陣を描いていた。


 名前は忘れてしまった。けれどいつかは使ったことのある魔導術だろう。


 オーティがその異変に気がついて目を見開く。


 魔導術を解放させるために自らが励起したはずであるフェアリーの消失。


 ユーリの杖の先へ現れた淡い光を放つ紋章陣がオーティの驚愕に染まった表情を照らした。


「げふぁっ……!!」


 空気が弾けるような音がして相手の腹部が球状に窪んだかと思うとオーティの身体が吹き飛ばされていた。


 石ころのように地面をバウンドしながらルシファーたちの後方まで転がっていき、よろめきながら身体を起こそうとしたところでぷつりと意識の糸が切れて倒れてしまう。


 気絶……たぶんまだ生きている。けれど起き上がってくることはないだろう。


 激痛が脳裏を走り回っていた。


「……どういうことだ? 聞いていた話とは違うけどまさかお前、僕にうそをついていたわけじゃないだろうな?」


 気絶したオーティを一瞥して振り返ったルシファーがそばにいたビュイスを睨んだ。


「い、いえ……魔王様、いや……あの男にこれほどの力など……」


 唖然とした表情でユーリを見つめていたのはビュイスだけでなく、隣に立つティユルも絶句して目を見開きあきらかに動揺していた。


 そういえば、あいつには見せたことなかったかもな。


 特別おかしな技を使ったわけではない。常識を逸脱した威力の魔導術を放ったわけでもなかった。


 ただ、通常行われるべき手順を省略して魔導術が解放させられていた。


 腕を動かす動作すらなく殴られたような閃光の一撃。


 かつて自らを破った少年が秘めた真の実力。二人はこのときようやくユーリとのあいだに茫漠とした差が、決して到達できない深淵に立っている相手だったことを理解した。


「ふぅん……」


 訝しむようにユーリの様子を窺っていたルシファーがティユルの手を引いて後ろへ下がった。


「行けビュイス」


「しかし、わたしの魔力は……」


「行けよ。僕はそう言ったんだ。命令だ。僕を怒らせるとどうなるかわかってるよな?」


「……わかりました」


 少し考えるような間を置いてうなずいたビュイスがユーリへ振り返る。


 そこに立ち向かおうとする者、目の前の脅威を退けようとする者の意思を感じなかった。


 もともと一度敗北した相手であることに加え、たったいま見せられた光景。


 まったく勝ち目がないと知りながら戦いへ駆り立てていることをこの場にいる全員が理解していた。


 オーティがやられたことに対しても顔色一つ変えていない。ルシファーは彼らを完全に捨て駒としか扱っていないようだった。


 ユーリの杖を握る手に力が入った。


「驚きましたよ。まさかあなたにここまでの力があるとは。やはり化け物じみている」


「そうだろうな。いまと違って殺さないように手加減してやってたから。で、茶番の準備はできたのか?」


「……行きますよ」


 覚悟を決めたようにビュイスが鋭くユーリを見据えた。

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