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水平線上のアルマティア  作者: 深波恭介
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暴虐の狭間で

 強く握りしめていた手を緩め、短く深呼吸をしながら肩の力を抜いていくあいだに覚悟を決める。


 自分自身の力だけで戦うしかない。ユーリは背負っていた杖を投げ捨てた。


 聖剣が通用しなかった事実はユーリの胸中に多少の動揺を与えていたが、魔物と対峙して切っ先を向けたときにはもう仕方ないと割りきることにした。


 もともとビュイスも便宜的に魔物と呼んでいただけであくまであれは奴の創造物だ。この世界の魔物と異なる存在だとしてもなんらおかしくはない。


「ねえ、大丈夫なのっ……!?」


「んなわけあるかよ、大ピンチってやつだ」


 おまけにさっき兵士が斬撃を受け止めた衝撃でかなり痛んでいる。耐えられるかどうかはともかく、剣で受け止めれば間違いなく叩き割られてしまうだろう。


「なに呑気なこと言ってんの逃げてよっ! 死んだらどうするのよっ!!」


「アイリスはそこで死にかけてる奴を連れて離れてろ」


 奴がそうさせているのか、魔物は倒れている兵士には目もくれずユーリだけを狙っていた。


 ずしんと地面を揺るがしながら走ってきた魔物が耳をつんざくほどの咆哮を挙げて大剣を振り上げた。その巨大な身長も相まって切っ先は見上げなければ視界に収まらなかった。


「ユーリくんっ……!!」


 アイリスの悲鳴を背中で受ける。一撃は重く完璧に避けなければ致命傷は免れない。


 ユーリは魔物が大剣を振り下ろしてくる瞬間に一気に距離を詰め腹部を狙って斬りつけた。


 しかしうまく鎧のすきまを通すことができず刃は呆気なく跳ね返され、寸前で相手の股下を転がって背後に回りこんでいく。


 すぐに立ち上がって振り返った。魔物が振り返り様に大剣を薙ぎ払ってきていた。


「ちぃっ……!」


 その場を飛びのいて距離を取りリーチの外に出る。この薄暗さに加え相手の体格も合わさって距離を見誤らないように細心の注意を払わなければならなかった。


 だが安堵を抱く猶予はなかった。


 魔物の攻勢は衰えることなく流動する中で加速していき振り払った勢いのまま上段に持ち上げ直していた。


 こいつ、動きがっ……。


 強く踏みしめた地面のタイルが割れ、まっすぐユーリの脳天へ大剣を叩きつけてくる。


 ほとんど転ぶように横へ飛ぶのが精一杯だった。そのあとに取るべき行動のことを考える余裕が少しもない。ユーリはただがむしゃらに回避した。


 だが無理に避けたのが祟って体勢を崩してしまう。魔物が大剣で真横に薙ぎ払ってきていた。


「っ……!?」


 慌てて手を突きながら身を低くすることでかろうじて攻撃をかわした。風を切って刃が頭上を掠めていき心臓を撫でられたような寒気が背筋を走る。


 顔を上げたときにはもう再び頭上に大剣を掲げた魔物が闇の中からユーリを見つめていた。


 このままでは確実にやられる。


 咆哮。刃が空から落ちてくる。距離を取らないと。


 いや。


 ユーリは剣を握りしめながら相手を睨みつけた。


 ここで退けばつけこまれる。押し返す。


 振り下ろされた刃が目前に迫った瞬間に地面を蹴った。


 相手の懐に飛びこみながら身体を捻って紙一重で斬撃を避ける。風圧が頬を撫でた。巻きこまれた剣が砕かれ破片と共に折れた切っ先が跳ねる。


 だが代わりに詰め寄った。


 渾身の力で振り下ろしていた魔物の頭が手の届く範囲まで下がってきていた。


 ユーリは途中から折れた剣の先端でまっすぐに魔物の首元を貫いた。


 光の粒子が血飛沫のように吹きだし魔物がくぐもった声を漏らした。


 それだけだった。


「ぎゅうおおおおうっ!!」


 魔物が激昂したように雄叫びを挙げる。


「うぐっ……!!」


 力任せに振り払われた腕に弾き飛ばされ身体が一瞬だけ宙に浮き次の瞬間には背中から地面に叩きつけられた。


 ようやく一撃を与えたというのにまるで歯が立たない。


 やっぱり、この程度の攻撃じゃ倒すことができなかったか……。


 痛みを堪えながら見上げたユーリの瞳に鎧のすきまに剣を突き刺されたまま悠然と見下ろしてくる魔物の姿が映った。

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