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水平線上のアルマティア  作者: 深波恭介
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沈む暗黒

 陰気臭い雰囲気に包まれた薄暗い店内の奥でカウンターに座っていた店主は前と同じように本を読んでいた。他に客は一人もおらずユーリが来たことにも気づいてないかのような無関心さでぺらりとページを捲る音だけが挨拶をしていた。


「フェアリー結晶を買い取ってほしいんだけど。そういうのやってるか?」


 まっすぐ奥まで行ってそう訊ねると店主は顔も上げず返事もしなかった。


「あの、すいません」


「……」


「客っすよ」


 ぺらり。同じ動作を繰り返すロボットのように細長く真っ白な指でページを繰るだけで反応がない。前に来たときも反応がなく金を出すと無言でお釣りを渡してきただけだった。


 少し気になってさりげなくその顔を覗きこんでみると真っ黒なローブに包まれた表情は不自然な影に沈んで暗黒に包まれており……いや、店内が薄暗いせいだろうたぶん。何者だよこいつ。


「……結晶を売りたいんですけど」


「……」


 もしかして本当に聞こえていないのかと思ってその肩に手を伸ばしてみると店主はちょうど本を読み終わったらしく席を離れた。というか思いっきりかわされた。ような気がする。これもなにかの演出の一つなのだろうか。


 そうして店主は新たな本を後ろの戸棚から抜き取ってくると何事もなかったかのように読書を再開させていた。その意志は固いようだ。ユーリはため息をつくと結晶を取りだしてカウンターに置いた。


 途端にぱたりと本を閉じると店主は結晶を手に取りルーペでじっくりと観察しはじめた。やがてそれを置くと今度は魔力を放出させ細かな性質の見定めに入っていく。金属質の音と共に薄暗い店内をフェアリーの光が淡く照らし、けれど店主のローブの中だけは真っ暗なままだった。怖い。


 やがて鑑定が終わったらしく店主はレジを開けるとトレーに二千三百ディールを乗せて差しだしてきた。加工済みの結晶になると万単位が当たり前の売値になっていくが原石のままではこれくらいが妥当だった。


「もう一声」


「……」


 試しにそう言ってみるとしばらくお互いに無言の沈黙が漂い、店主はレジの中から新たに二百ディール上乗せしてきた。声が聞こえないわけではなかったらしい。これ以上引き延ばすと買い取り自体を断られかねなかったのでユーリはそこで手を打つことにした。


 店を出て銭湯に向かう。ビュイスから教えられた話をいつあの二人に打ち明けよう。あまり呑気に保留しているわけにはいかないが気軽に口にできるほど小さな問題でもなかった。


 アイリスの力が必要だ。規模も数もわからないが彼女の力があれば魔物の町への侵入を防ぐことができるかもしれない。この町の魔導士たちに頼れないことを考えると唯一の対抗策はあの聖剣以外には思いつかなかった。


 けれどアイリスはまだ未熟で果たしてこの話を聞いて逃げださずにいてくれるだろうか。町の住人の命がかかっている以上無理やりにでも連れていきたいがその気にさせなければ聖剣の力を解放させることもできない。


 少し日が傾きはじめたアンスリムの町並みに目を向けながらため息混じりに心労を追い払っていると通りの向こうから知った顔が歩いてくるのが見えた。向こうもこちらに気づいたようで頭を下げてこっちまでやってくる。


「あの、こんにちはっ、お久しぶりです……」


 ショートボブにした黒髪の魔導士。ユアリィの連れだった。

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