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水平線上のアルマティア  作者: 深波恭介
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小さな予感

 一応視界内にアイリスを留めたまま辺りの地面に目的の素材を探していく。するとある樹の根元に数本のキノコが生えているのを見つけた。資料と見比べてみると一本数百ディールにもなるキノコだ。


 周りを見てみると他にもいくつか同じキノコがあった。この辺りに集中して生えているらしい。あれだけ苦労していたわりに意外と簡単に見つけることができてさっそくそれらを集めはじめた。あの受付嬢が言っていた通り場所によってはしばらく人が来なくなっているうちに素材の宝庫となっているみたいだった。手当たり次第にカゴに放りこみながら周辺のキノコを集めていく。


 そうしてある程度腰を屈めているうちに周りのキノコを取り尽くす。大きさが違うので一概には言えないがこの短時間で一万ディール近くは稼げたのではないだろうか。さすがにここまで恵まれたポイントはそうお目にかかれないだろうが、あとは橋を渡った先でもう一稼ぎできれば充分に今夜はちゃんとした食事にありつける。


 ユーリは手の汚れをはたき落とすとアイリスのもとへ戻ることにした。


「アイリス、ちょっとはできるようになったか?」


 しかめっ面で集中していたアイリスがその声に目を開ける。うんざりしたように大きなため息をついて首を振った。


「ぜーんぜん。ずっとやってたけどなんにも起きなかったよ。あたし魔力ないんじゃない?」


「ないと死ぬから」


「ユーリくん生きてるじゃない」


「それはそうだけど……俺のは別だよ。理由は転生者にでも訊いてくれ」


「……そういえば、ユーリくんって転生者に魔力取られちゃったんだよね」


 アイリスは神妙な顔をして呟くように言った。そよ風が彼女の金色の髪の毛をさらい、アイリスはこめかみの辺りで髪を押さえながら風上に顔を向けた。


「それがどうかしたか?」


「……悪い人なのかなって思っただけ。ユーリくんが従えてた仲間を連れていったんでしょ?」


「そうだな」


「人間に生まれ変われなくなっちゃうよね?」


「そいつがなにを考えているのかは俺にもわからないよ。善行じゃないのはたしかだけど」


 ぶっちゃけなにをどんな基準で善行だと換算しているのかもわからない。魔王だって周りがそう呼んでいるだけでただの魔物だし、ユーリが善行を積めているのかどうかも曖昧だ。


「そんなことより素材集めの方はけっこういい感じになったぞ」


「ほんとっ?」


「ああ、晩ご飯くらいはいいもの食べよう」


「やった、じゃあ早く帰ろうよ」


「橋の向こうまで行ったらな」


「えぇ……ほんとに行くの……? 受付の人も危ないって言ってたよ……?」


「無闇に強い魔物に手出ししたりしないって。ちゃんと様子は窺うよ。どっちにしてもナーガと合流しようぜ」


「ちょっとでも怖くなったら帰ろうね……?」


「はいはい」


 そうしてアイリスは立てかけていた聖剣を取り、不意に小さく声を漏らすと顔色を変えた。


「……どうした?」


「ちょっと待って」


 怪訝に思いながら様子を見ているとアイリスは聖剣を握りしめたまま橋がある方を向いて不穏な表情を浮かべていた。


「どうしようユーリくん、この先に魔物がいる気がする……」


「……なんだいきなり」


「一瞬だけ変な感じがしたの。レゼッタさんとか村の人たちから感じたのと同じような感覚なんだけど……」


「お前……もしかして魔物の居場所がわかるのか?」


 そういえばはじめて会ったときにも似たようなことを口にしていた。ユーリは首に下げていたフェアリー結晶を取りだした。


「これじゃないのか?」


「……ううん、違うと思う。向こうの方からだもん」


「フェアリーに反応してるわけじゃないのか?」


「フェアリーって? ときどき言ってるけどなんなのそれ」


「魔導術のもとになる空気中の粒子だよ。魔物は身体の中で集めたフェアリーを結晶にさせているんだ。それを感じ取ってると思うんだけど」


「……あたしもよくわかんない。エーデルワイス持ってるとたまーにそんな感じがすることがあったの。でももしかしたら気のせいかもしれないし……あんまり真に受けないでね?」


 彼女にとっては未知の感覚だ。その辺りの精密性に関してあやふやなのは仕方がない。


「……とにかくナーガのところに行こう」


「う、うん……」


 アイリスがベルトに聖剣を固定するとユーリは一旦カゴを地面に置き急いでナーガのもとへ向かった。

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