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水平線上のアルマティア  作者: 深波恭介
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仲良しの一歩

「ユーリくんって有名人なの?」


 食事のできる場所を探して通りを歩きだしてみると待ちかねていたようにアイリスが隣から顔を覗きこんできた。


「さあ……そんなに目立つことしてなかったはずだけど。あの感じだと知ってる奴がけっこういるみたいだな」


「……もしかしてユーリくんってすごい人?」


「なにを寝ぼけたことを言っているのですか。魔王様は歴代の転生者の中でも最強と謳われた方ですよ。魔導士ならばその名を知らない者はいません」


「そうなのっ!?」


「言いすぎだって」


「凄まじい魔法が使えるとか……?」


「別に。それなりに熟練した奴ならまあまあ使えるようなものくらいしかできなかったな」


「またまたー。禁忌とか古代とかそういう種類の魔法が一つくらいはあったんじゃないの?」


「なんだそれ」


「うーんと……ほら、なんか原っぱを全部焼け野原にしたり町一個吹き飛ばしたりとか」


「あー……まあ、それくらいだったら集中すればなんとか……。でも謙遜とかじゃなく魔導士の中では非力な方だったんじゃねえの」


「……どうしてそれで最強って呼ばれてたの?」


「周りが杖使って魔導術撃ってる中でそうしなかったからだよ」


「杖ってナーガちゃんが持ってるやつ? そういえばナーガちゃんも魔法つか……魔導士なの?」


「ナーガは魔導士ではありません。これを持っていないと厄介事に巻きこまれることもあるので」


「ふーん……じゃあ杖って絶対いるものじゃないんだ。あ、威力が落ちる代わりに利点があるとか?」


「逆だ。威力は上がるけど杖がないと身体によくない」


「よくないって?」


「質問だらけだな……」


「知らないんだからしょうがないじゃん。訊かぬは一生の恥って言うでしょ」


「そんなこと気にする余裕があったらこれからのこと考えようぜ。晩ご飯とか寝る場所はどうするんだよ、二千ディールしかないぞ」


 そう言うとアイリスは思いだしたように声を漏らし浮かない顔をした。こんなはした金じゃどんなひどい宿にだって泊まれない。堅実に行くならかろうじて余裕のある今日は節約して食事抜きとしたいところだがアイリスはこの世界に来てからとてもひもじい思いをしている。彼女の望みはできる限り叶えてやらないと干からびてしまう。


「お前らはどうしたい? どうせ吹けば飛ぶような金しか残ってないし明日に備えておいしいもの食べるってのもありだけど」


「ナーガは特になにも。魔王様に従います」


「カエル食べたいならそれでもいいぞ」


「え、ナーガちゃんカエル食べるの……?」


「おいしいじゃないですか」


「あ、うーん……そうだね……」


「アイリスは?」


「二千円しかないんだよね……」


「遠慮しないで言えよ。三人の金だ」


 真剣な顔で悩んでいたアイリスがそれを聞いて窺うようにこちらを見る。


「ほんとになんでもいいの……?」


「まあ」


「じゃ、じゃあ……お風呂行きたい」


「え、風呂?」


 思いがけない言葉にきょとんとしているとアイリスはほんのり顔を赤くしながら目を閉じて頬に手を添えた。


「じ、実は何日もお風呂入ってないの……今日も嫌な汗かいちゃったし、できたらお風呂行きたいんだけど……だめ……?」


「そこに海がありますが」


「あったかいお風呂に入りたいの。海だとべたべたになっちゃうよ」


 そうしてこっそりと襟元に鼻を近づけてにおいを嗅いでは嫌そうに眉を寄せていた。


「食べなくていいのか?」


「食べたいけど、でもそれよりお風呂入りたいの。お願いユーリくん、あたしなにも食べなくていいからお風呂入らせてっ!」


「まあ……お前がいいなら止めないけど……」


「やった、ありがとうユーリくんっ」


 それどころじゃないだろ。そう言いたいのは山々だったがあんまりにも嬉しそうに拳を握っている姿を見ていると口には出せなかった。


「じゃあ俺たちはそのあいだになんか食べとくから行ってこいよ」


「一緒に行かないの? 二人も昨日はお風呂入ってないんでしょ?」


「んなことより腹減ってんだよ。それに一昨日はちゃんと入ったし」


「……え、やだ汚い」


「仕方ないだろ、金がないんだから」


「みんなで行こうよ。一人でお風呂とか心細いんですけど」


「高校生ってもっと大人びてるのかと思ってた」


「ほんとに行かないの? におい気にならない?」


 気にならないわけじゃない。でもそんなことよりお前も多少は自分の腹具合を心配した方がいいのでは。


 そのようなことを考えたがふと思い直しユーリはちらりとナーガに横目を向けた。


「そうだな……んじゃこの際だからみんなで行ってみるか。ナーガ、アイリスに洗ってもらえよ」


「一人で洗えますよ」


「今朝触ったとき妙に髪がべたべたしてたんだよ。ちゃんとシャンプーとか使ってるのか?」


「……なんですかそれ」


「え、知らないのっ!? どうやってお風呂入ってるの!?」


「シャワーで流しながらごしごししてますけど」


「俺についてくるまでろくに風呂入ったことなかっただろ」


「話に聞き及ぶだけでした」


「え、なにそれ……ナーガちゃんってどこかの部族かなにか?」


「なにやら蔑みの気配が窺えますがお風呂がない村だってあるのですよ。もとの世界でぬるま湯に浸かっていたあなたにはわからないでしょうが」


「そうなの……?」


「一部ではな。そういうわけだから、頼んだぞアイリス。こいつたまに世間知らずなところあるから教えてやってくれ」


「うん、任せて。じゃあナーガちゃん、背中流しっこしよっか?」


「なんですかそれは」


「行ってからのお楽しみ」


 ぶっちゃけ呑気に風呂に入っている余裕はこれっぽっちもないが、これから一緒に過ごすことを思えばそれも悪くないような気がしてきた。裸のつきあいをすればこの二人も多少は仲良くなってくれるかもしれない。

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