お金を求めて
人通りの少ない港まで来たユーリはまず当面の予定を立てるところからはじめることにした。しっかりと金を稼げる手段が見つかるまでは宿に泊まるどころか迂闊に食事をすることだってできない。
椅子に腰かけたユーリは脚を組みながら目の前に立っていたナーガに顔を向けた。
「いくら残ってる?」
「……二千ディールちょっとだけです」
「二千か……」
ついため息をついてしまいそうになり押し留める。大丈夫だ。魚を釣るとか野草を探すとかお金をかけずに空腹を満たす手段は心得ている。雨風を凌げるのなら路地裏もあたたかなベッドもそれほど大きな違いはない。最悪道端で空き缶でも置いて拝んでれば誰かが小銭を恵んでくれるかもしれない。
あれ、なんでこんな落ちぶれてるんだろ。
「あのぅ……」
切迫した財政事情に頭を悩ませていると不意にユーリの腰の下から椅子が話しかけてきた。
「……なんか言ったか」
「な、なんであたしユーリくんの椅子にさせられてるの……?」
「なんでもやるって言ったから無能なお前に仕事与えてやってんだろ。これで貸し借りチャラな」
「魔王様に感謝するんですよ」
「でも、すぐそこにベンチあったよ……?」
「嫌なのか?」
「っ……い、嫌じゃないです……ごめんなさい……」
見捨てられる予感でもしたのかアイリスはすぐに首を振るとうつむいて小さく呟いた。
「とりあえず金を稼がなくちゃな。ナーガ、お前なにかできそうな仕事ないのか?」
「頭を使わなくていいような仕事でしたら……」
「それだと肉体労働ってことになるけど……そういやナーガ、お前なんであの工務店クビになったんだ?」
いつぞやの知的でクールな設定はどこに彷徨っていったのだろう。ナーガの沽券に関わってそうなので触れずに流しておくことにした。
「木材を運んでおいてくれと言われたのでそうしましたところ、他に置いていた材木や道具などをめちゃめちゃにした挙句壁に穴を空けてしまいまして。親方さんがカンカンになった次第です」
「……アイリスは? いくら知らないって言っても喫茶店とか飲食店とかならすぐに覚えられるだろ」
「う、うん……そういうのだったら何回か下見させてもらえたら……」
「ならしばらくは俺とアイリスで稼ぐしかないか……そのうちナーガもちゃんと働けよ」
「この町で働くのですか」
「当たり前だろ、でないと明日から──」
そう言いながらげんなりしてきてユーリは言葉を飲みこんだ。
違うだろ。なにか根本的に間違っている。俺はこんなことをしている場合じゃないはずなのに。だいたい住所不定でバイト生活というのが既に無理があった。かろうじて生きていても雨の日に野ざらしじゃそのうち身体を壊して破綻していくのがオチだ。
当初はある程度金を稼いだところで首都へ行くつもりだったがいまは船も出てないし一人でもない。なにか堅実な方法で収入を得ないと泥沼にはまっていくばかりだった。
「魔王様、ナーガに名案があります」
「なんだ?」
「魔物を討伐するんです。ものによってはかなりの額を稼げると聞き及んでおります」
「そんなゲームみたいところがあるの……?」
「ああ、あれね……一応あるにはあるけど……」
たぶんこの町にもそれはある。けれどユーリの危惧することについてアイリスはともかくナーガさえも気づいていないようだった。とはいえ現状で一番可能性があるのはそこくらいか。
「……とりあえず行ってみよっか」
気乗りしないまま腰を上げる。アイリスは小さくため息をついて立ち上がると涙目で手のひらに目を落とし膝を払っていた。
中央広場で時間を持て余していた人に道を訊き、教わった通りを水路沿いに歩いていってみるとその看板が出ている建物はあった。『依頼案内所』と書かれた看板から視線を下げていくと明かりはついているものの窓の奥に人の姿は見当たらず閑散としている。
「ここ?」
「ああ」
「なんか寂れてるね……」
「さっそく入りましょう。一番報酬の高い依頼を探しますね」
「……そうだな」
扉をくぐると何組かのテーブルと長椅子が置いてあり広々としているものの外から見た通り誰一人として腰を落ち着けている者はおらず、その奥にあった依頼受注のカウンターにも受付係の姿はなくやけに静まり返っていて寒々しい印象だった。早くも予感は嫌な方向に的中しているらしい。




