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水平線上のアルマティア  作者: 深波恭介
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できない聖剣士

 アイリスはずいぶんと先まで行ったところの木陰に隠れていた。こちらの様子を窺うように不安げに覗きこみながら二人に気がつくと注意深く周りを確かめてやってくる。


「よ、よかった……無事だったんだねっ……あたし、すごく心配でっ……!」


「ならナーガと一緒に来ればよかったのでは」


「それは……その……ごめん……」


「待たせたな。ナーガも勘弁してやれよ、充分あやかっただろ」


「あの、もう平気なの……? やっつけた……?」


「もう追っかけてこないから大丈夫だよ。あいつらは霧の外に出てこないんだ」


「ほんと……?」


「ああ。とりあえずアンスリムに戻ろうぜ」


 デゼスポリアは地中を移動する魔物だ。追いかけてくるなら足元からということになるが、いくらレゼッタでもここまで地面を掘ってくるには時間がかかる。あの種の中でもとりわけ出不精のレゼッタならその心配もないだろう。


 アイリスはそれでも不安そうにユーリたちの後ろを何度も振り返って落ち着かない様子だったが、二人が気にせず歩きだすと大人しくついてきた。


「ね、ねえ……ユーリくん……」


「なんだ?」


「この世界にいる魔物って、あんなのばっかりなの……?」


「怖くなったか?」


「だ、だって……まさかあんな化け物がいるなんて思わないじゃない……」


 これから先、転生者として戦っていく自分の未来に不安を覚えているらしくアイリスは暗い顔でうつむいていた。


「慣れるしかないな。レゼッタみたいにわかりやすく怖いのは少ないけど魔物の大部分は目を背けたくなるような連中ばかりだから。狂暴な奴に限ってそんなのばっかだよ」


「ユーリくんはもう慣れた……?」


「いまでも大嫌いだよ。できることなら一生魔物とは出会いたくない」


「そこまでお嫌いなんですか」


「城で引きこもってたのもそういう理由だ」


「……そうでしたか」


 それを聞いてアイリスは微かな絶望を滲ませてため息をついていた。


「あたし……自信なくなってきちゃった……」


「またかよ……」


「そもそもあなたがちゃんとその剣を抜いていればあんな目に遭わずに済んだのですよ」


「あんまり責めてやるなよ。はじめてだったんだからしょうがないだろ。もっと目に優しい魔物を相手にしてれば自然と耐性がついてくるって」


「っ……」


 けれど、アイリスは気まずげに目を伏せて押し黙っていた。最悪の相手と遭遇してそんな希望さえも抱けないのかと怪訝に思っているとアイリスは小さく首を振った。


「だめなの……」


「なにが」


「剣、抜けないの……」


「はあ?」


「あ、あたし……刃物恐怖症で……その、いまこうやって持ってるだけでもそわそわしてきちゃってるくらいなの……」


 思わず立ち止まる。アイリスは浮かない顔で少し先へ行ってから気がついてこちらへ振り返った。


「……冗談だろ?」


「ほんとだよぅっ! 前はどうだったか覚えてないけどこの世界で気がついたときからこういうの苦手な感じがするの! はさみも怖いの! 薄い紙とかっ!」


「でも村では……」


「だってそれは死のうって思ってたからだもんっ! 死のうと死ぬかもしれないは別なのっ……!」


 などとわかるようでわからない論理を展開させながらアイリスは戸惑った顔で涙を浮かべていた。ついナーガと顔を合わせてみたものの、相手もたぶん同じことを考えているのだろうと察してアイリスに向き直った。


「ど、どうしようユーリくんっ……! あたしこんな剣なんか触りたくないんだけどっ……! これじゃ善行なんか積めないよぅっ!」


「いや……それはほら、土壇場で覚醒するっていう物語の定番があるじゃん?」


「土壇場る前に死んじゃうから!!」


「はは、もう死んでるって。ナーガ、今晩なに食べたい?」


「カエルがいいです」


 と、そんなふうに転生者ジョークでお茶を濁してナーガと和やかに話しながら歩きだす。


「ちょ、ちょっと待ってよなんでそんな取り繕ってる感じなのっ!? いつもみたいに大丈夫だって言ってよー!!」


 剣を扱えない聖剣士。アイリスの未来は暗やみの奥深くに横たわっているようだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 文章の感じが好みです。 まだ途中までしか読んでいませんが続きを楽しみにしています。
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