置き手紙
翌朝の目覚めは快適な羽毛布団の中だった。森の方から届く小鳥の鳴き声が朝日を縫って部屋の中まで届き、廊下の向こうからは包丁が小気味よくまな板を叩く音がしている。
向かいで眠っていたはずの少女の姿はもう既にそこにはなくベッドは丁寧に整頓されていた。隣のベッドも抜け殻になっており、少し身を屈めて足元を見てみるとナーガは床の上で丸くなって眠りこけていた。なんだお前、ベッド嫌いなのか。
「起きろ」
「んぅっ……」
足でぐりぐりと脇腹を蹴っていると微かに身を捩りながらナーガが目を覚ましていく。頭に寝癖をつけたままこちらをぼんやりと見上げ、きょろきょろと周りを見回してから改めてユーリに目を向けた。
「おはようございます、魔王様……」
「おはよう」
「なんだか部屋の様子が昨日と違うような……」
「アフェットの家だよ。お前のことも運んでくれたんだ」
「……誰ですかその方」
なに寝ぼけたこと言ってるんだろうと思ったけど、よく考えたらアフェットの名前はちゃんと教えてなかったんだっけ。
「昨日からずっとお世話になってるオークだよ」
「ああ、そうでしたか」
そう話しながらユーリはサイドテーブルに一枚のメモが置いてあるのを見つけた。
「ところであの女は」
起き上がって鞄から着替えを取りだしていたナーガがうろんげに訊ねてくる。あの少女が置いていったものらしく、ユーリはその手紙をじっくりと読みながら眉を寄せていた。
『町に行きます。本当にありがとうございました。あたしの代わりにみなさんにもお礼を言っておいてくださると嬉しいです。ユーリくんもお元気で』
日本語だ。けれど習っていない漢字だらけでいまいち内容が伝わらなかった。
「アンスリムに帰ったみたいだな」
読み取れる部分の雰囲気やいなくなった理由を思えばだいたいそのようなことが書かれているのだろう。
「はあ……アンスリムへ」
「軍に行けって教えたんだよ。あいつにはその方がいいだろうから」
「なるほどわかりました。ではナーガたちも張りきってイフの森へ向かいましょう」
「ああ」
なんかいつになく気合い入ってるな。嫌っていたかどうかはともかくあの少女がいなくなってせいせいしてるのかもしれない。
「なにか」
「……まあいいか。先に行ってるから着替え終わったら来いよ」
「はい」
うなずいてぼろ布の裾に手をかけようとしたナーガから目を逸らしユーリは部屋を出た。




