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水平線上のアルマティア  作者: 深波恭介
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無力な魔王

 反乱を起こした。動機だけならいくらでも思い当たる節があった。


 そもそも人間が魔王として魔物たちを配下にしていること自体がおかしいのだから。かなり反感を抱いている奴がいることは日頃から感じていたし、それについて腹を立てたりもしなかった。


「けど魔物たちがどれだけ束になったところでこの俺に敵うわけないだろ。目を閉じてたって返り討ちにできるぞ」


「ナーガ知ってます。魔王様の数ある伝説のうちの一つですよね。寝てるあいだに西の魔王を討ち果たしたというあのお話」


 途端に寝ぼけたような瞳が微かに輝く。かなり話に尾ひれがついていたが、ともかくそれくらいのことは平気で信じさせられるくらいの実力があるのは事実だ。


「だから誰かが他にいたはずだ。転生してきた奴がいたんじゃないのか?」


 この俺と同じように。


 ここはいわゆる異世界だ。この世界には空想の産物に過ぎなかった魔法が存在しており、ここに生きるすべての生命は少なからずその恩恵を受けて生活をしていた。一部の人間たちは魔導術と呼ばれる力として行使しているし、多くの動植物たちはその力によって異形の姿と化した魔物へと変貌している。


 その中に混じって時折現れるのが前世でなんらかの罪を背負って死んだ魂たちだった。


『あなたは前世で大罪を犯しました。また人間として生まれ変わりたいのならこの世界で善行を積むのです』


 あれが神様とかいうものなのか、それとも神が遣わせた天使なのか。転生をした者たちはなにも知らされずにこの世界で生きていくことになる。唯一の救いがあるとすれば、そのように転生をしてきた者たちには強大な力が備わっていることだった。


 いままでにも何人かの転生を果たした人間と出会ってきたが、彼らも漏れなくこの世界の水準を超える力をその手に宿していた。この世界に伝わる数々の英雄に関する逸話もおそらくは転生をしてきた者たちのことなのだろう。


 前世の罪の記憶も、自分の名前すらもわからないまま。彼がこの世界に放りだされたのはまだ六歳になったばかりの頃だった。そうして彼はユーリと名乗り、やがて世界中の魔物たちを従える魔王と呼ばれる存在へとなっていった。それを成し得ることができたのもまた、彼が転生をした人間だったからだ。


「……とても言いにくいことなんですが」


 ナーガは言葉を飲みこむように目を伏せた。


「言え」


「がっかりしませんか」


「聞いてから判断する」


「魔王様の魔力は何者かによって奪われてしまいました」


「……なんつった?」


「ですから、魔王様の魔力は失われてしまったのです」


「……え?」


「好きです、魔王様」


 俺の魔力がなくなった……?


 さっきからずっと感じていた予感はあった。俺の中からなにか巨大なものが抜け落ちたという喪失感が。


「っ……」


 ユーリは宙に向けて手をかざした。そうして目を閉じる。


 この世界に存在する魔法。魔導術と呼ばれる奇跡の力を呼びだすための紋章陣を暗闇の中に思い描いていく。


 けれど、反応させるための魔力の感覚だけが感じ取れなくなっていた。


「うそだろ……」


「ナーガも必死で抵抗したのですが、健闘も虚しく首を吊るされてしまった次第です」


「……他の連中は逃げたってわけか」


 もともと力で支配していただけの関係だった。魔力が奪われてしまったというのならもうどうすることもできなかった。この世界で生きていく上での生命線。それをたったいま失ってしまったのだから。

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