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水平線上のアルマティア  作者: 深波恭介
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雫の向こうに

 雨音に耳を澄ませながら冷めきったコーヒーに口をつける。あれから適当な喫茶店に入ったユーリは一日中ここに座って考えこんでいた。さっきまで店内は静かだったものの、昼を過ぎた辺りから徐々に客の数が増え話し声が耳につくようになっていた。


 小さくため息をつく。


 これからどうしよう。すぐにでも出発したかったのにまさかこんな形で足止めを食らうとは。


 買ってきた地図にいくつかのルートをペンで書きこんでいく。あまり金を無駄遣いするわけにもいかないし、魔導士を雇えないとなると道中で選べる道のりはかなり限られてくる。隣町までであれば徒歩でも一日歩けばたどり着けるくらいの距離ではあったが、この町がどんなところだったかあまり覚えておらず行く価値があるかどうかもわからなかった。やはり陸地を通るのは現状ではかなり厳しい選択肢になるのだろう。


 各地で魔物の動きが活発化しはじめている、か……。


 地図を折りたたんで上着のポケットにしまい、天井を見上げながらため息をついた。


 まだユーリが士官学校に通っていた頃、大陸の各地には魔物を率いて勢力をつくった魔王たちがいた。城にいたのはそういった際立って力を持った魔王たちだったが、いなくなった連中はいまどこでなにをしているのだろうか。


 彼らは同じ魔物という大雑把な枠の中にいるものの目的はかならずしも同じというわけではない。世界征服を目論む魔王軍なんて話はこの世界でも物語の中にしか見つからず、あまりにも力をつけすぎた魔王は他の魔王にとっても敵対し得る脅威だった。だが大前提として彼らは人間に対する敵意を抱いているのは間違いなく、もしも手を組むだなんてことになればユアリィの言っていた大戦が起きる可能性も現実になるかもしれなかった。


 いったいどうすりゃいいんだろ。一度そこら中を歩く一般人と同じ立場になってみると救世主と謳われる転生者たちがどれほどばかげた力を持っていたのか身に染みてわかった。生前をたった六年という短い時間しか過ごしてなかったユーリにとってはこの世界で過ごした時間の方が多く、これから世界をどうのこうのしようとするにはあまりにも無力だった。


 まあ、嘆いていても仕方ないか。ひとまず考えをまとめたユーリは腰を上げると会計を済ませて店を出た。


 店先で傘を開き空を見上げる。もうそろそろ夕暮れが近くなってきており、立ちこめた雲は分厚く空を覆い尽くしていた。かなり痛い出費だが今日のところはこの町で一泊することにして今朝出たばかりの宿を改めて目指す。


 明日、もう一度港に行って詳しい状況を聞くことにしよう。もしも船がだめならあまり気は乗らないがあいつに会いに行くしかない。せめて明日からは晴れてくれることを祈った。町の外で過ごす雨の夜ほど危険な場所はない。


 いくつもの色の傘が通りを行き交い、雨粒が降り注ぐ街並みを妖精灯の光が柔らかく照らしていた。立ち並ぶ家々の窓からも明かりが零れ、どこかから夕食のにおいが雨に混じって漂っていた。肩を寄せあって歩く男女や疲れた顔で家路を急ぐ大人たち。世界の混乱から隔たれた遠い場所で人々は変わらずにそれなりの平穏とぬくもりの中で過ごしていた。


 冷たい風に肌寒さを感じながら石畳の道を歩いていき、慣れない街並みでも特に迷うこともなくそろそろ宿がある場所まで戻ってくる。通りの途中に看板を見つけたところで思わずユーリは立ち止まっていた。小さな驚きと戸惑いが同時に浮かぶ。


 宿の入り口のそばに傘を差して地面に座りこむナーガの姿があった。

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