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水平線上のアルマティア  作者: 深波恭介
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魔導士殺し

 ほんの一瞬の出来事だった。


 戦いがはじまった途端にビュイスはユーリの魔導術によって返り討ちにされていた。


 善戦どころか抵抗することさえできず電撃に打たれて崩れ落ちたビュイスを尻目にルシファーが拍手を送る。


「いやぁ、お見事だったと思うよ。やはりきみは素晴らしいセンスを持っているようだね。いまのは誰でも真似できることじゃない」


 ビュイスは死んでいない。完全に意識を失っているが死ぬような威力の魔導術ではなかった。


「お前に魔導術を理解できる頭があるのかよ」


「わかったわかった。きみのそういう根拠のない煽りは聞き飽きたよ。月並みの言葉しか並べ立てられないなら──」


 その瞬間、ユーリはルシファーの周囲から励起されていくフェアリーの気配を感じ取った。


「もう喋らなくていいだろ!」


 だが即座に脳裏へ紋章陣を描いて魔力を放出したユーリの杖の先へ紋章陣が現れ、ルシファーへ向かって収束した風が撃ち放たれていく。


 それと同時に再びフェアリーが揺らぎ、直撃する寸前でルシファーの目の前に半透明の膜が形成されていた。


「ひぎっ……!?」


 光と共にばちばちと静電気のような音を立ててユーリの放ったブラストが防がれ、反射的に後ろへ飛びのいていたルシファーは足をつまづかせて尻もちをついていた。


「そんな、どうして僕の……くっ……ちくしょう、いい気になりやがって!」


 激昂したルシファーが指輪をはめた拳を突きだし呼びだした魔力で周囲のフェアリーを励起させる。いままでよりも大量のフェアリーが呼応して舞い上がり、けれどルシファーの指輪から魔導術が解放されることはなく紋章陣が現れたのはまたしてもユーリの杖からだった。


 そこから放たれた光波が巨大なビームとなって闇を駆け抜けティユルもろともルシファーの身体を飲みこんでいく。射線上の地面が捲れ上がり辺りが真っ白になるほどの強烈な光が小さな粒子をまき散らしていく。


 レイディアンスフレア。最高位にある魔導術の一つだ。


 けれど、それでも届かない。


 強力さ故の膨大な魔力消費で張り裂けそうな頭の痛みに見舞われるユーリの目前で顔の前を両腕で覆ったまま座りこんでいるルシファーの姿があった。


「お前っ……なんなんださっきから……なにをしたっ……!? いったいなにをしているんだ!?」


「誰でも真似できないことだよ」


「っ……ティユル、教えろ! なぜ僕の魔導術をあいつが使ってきたんだ!?」


 わかったようなことを言っていたが出まかせだったらしく、唖然とした表情で動揺するルシファーにさっきまで見せていた余裕はなかった。そばにいたティユルがユーリの動向に注意を払いながらさりげなく後ろへ下がって答える。


「……おそらく、あの子に魔導術は通用しません」


「はあ!? どういうことだよそれ!?」


「……信じられないことですが、こちらが励起したフェアリーをすべて使いきられています。下手に魔導術を使えば反撃されるだけかと……」


 それがどれだけ常軌を逸した技術であるかをわからないティユルではない。


 だが現実として目の前で起きている出来事を捉えるならその不条理でさえも認めざるを得なかった。


 紋章陣を覚え、必要なフェアリーを励起させ解放するための魔力を放つ。そんな魔導術における常識はユーリにない。


 相手が励起させたフェアリーを瞬時に読み取りそれらを使いきれるだけの紋章陣をその場で組み上げているだけだ。


 未知の魔導術であろうと関係なく、ユーリの前ではあらゆる魔導術が封殺されすべて自分に跳ね返ってくる刃となる。


 だから魔王たちには使えなかった。彼らの使ってきた魔導術をそのまま返せば命を奪ってしまいかねなかったからだ。


 理屈としてはとても単純で真似をするだけなら誰でもできることだ。


 ただ普通は考えついたところで実践しようなどとは思わない。少しでもフェアリーを見誤れば、そして相手より早く紋章陣を描けなければ魔導術は解放されず無防備な状態で攻撃を受けてしまう。


 卓越したフェアリーへの感応性と、その感覚に身を任せられる絶対的な自信がなければ成し得ない離れ業。


 魔導士殺しのユーリ。


 士官学校時代の模擬戦では誰一人として魔導術を解放させることができず、いつしかそう呼ばれるようになった逸話の一つだった。

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