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魔術同盟  作者: 巫 夏希
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死神(師に神)/2

 新宿で飛び降り事件が多発している。それも半径一キロメートル圏内という非常に狭い距離で起きている。それについて専門家の見解は、中心地にある廃墟が何らかの原因を発しているのではないか、とか、幽霊の仕業ではないか、とかオカルティックな話題で埋めようとしている。寧ろ、そうじゃあないと決めつけることが出来ないのだろう。自分が理解できない領域の出来事は、いっそ誰もが理解できない領域の出来事に押し留めてしまおう、というのが正しいのかもしれない。

 結論から言えば、その出来事には『魔術師』が絡んでいると推測出来る。

 しかしそれをどうして言わないかと言えば、それを言うことが非常に難しいからである。

 あくまで、魔術というのは表舞台には出てきてはいけない。そういう暗黙の了解がある。それは全世界的にそうなのかもしれないし、日本だけの特例なのかもしれない。

 いずれにせよ、こんな魔術師かぶれの僕ですら、魔術師が絡んでいる案件だと特定出来るのだから、はっきり言って今回の事件は何処かでぼろを出して終わると思っている。そうして、特別な『処置』を施した後、魔術師としての資格を剥奪される。そうやって、政府は魔術師を『管理』している。

 魔術師とは、かくも面倒な存在だ。だからといって資格を必要とするかと言われると微妙なところだし、実際問題、僕が魔術を行使したからといって何らかの制約を受けるわけではない。

 魔術師というのは、所詮曖昧な立ち位置にある、特別な存在なのだ。

 かつてから魔術師という存在は歴史の闇に隠れながら存在はしていたものの、魔術そのものを認めるわけにはいかなかった政府が行った施策といえば、魔術師に対する日常での魔術使用禁止或いは魔術を使用しても気づかれないようにするということ、だった。

 そんなこと僕たちを縛る『鎖』にしては脆く、さび付いたものだった。

 炭酸の抜けたコーラのように、甘ったるい。

 携帯電話の着信音が夜の新宿に響いたのは、ちょうどそのときだった。若松河田の駅前に着いたあたりでこれから電車に乗ろうとした矢先の出来事だった。


「げっ。『所長』か」


 僕が所長と呼ぶのは、たった一人しか居ない。

 僕は電話に出て、


「はい、所長。どうかなさいましたか?」

『今どこだ』

「今……ですか。彼女の元に会いに行っていたので、若松河田の駅前に居ますけれど」

『それじゃあ、今から事務所に来い。ちょいと野暮用が起きた。私のキャパシティを超えかねないので、庶務をお前に任せたい』

「……どうせ駄目だと言ったところでそれを認めてはくれないのでしょう」

『分かっているならば、さっさと来い。若松河田と言ったな? だったらそこから数駅で到着するだろうが。よろしく頼むよ、それじゃあ』


 結局、僕の意見を聞くまでも無く電話を切ってしまった。

 そういう人間だ、彼女は。

 そんなことを思いながら、僕は階段を下りて行くのだった。



 ◇◇◇



 大江戸線に乗って、一駅。東新宿駅で降りて徒歩五分にあるマンションの一室。そこが事務所だった。特に言われてはいないけれど、途中のコンビニでプリンを二つ買ってきた。出費は手痛いが、ここで甘い物を出しておかないと、どうせ後で買ってこいと言われかねない。

 三階の一室、『柊木伝承相談所』と書かれた看板を見て、僕はインターホンを押す。

 少しして、「開いてるぞ」の言葉を聞いて、僕はドアノブを捻った。

 中に入り、冷蔵庫にプリンを入れる。


「おっ、お土産か。嬉しいねえ」

「どうせ甘い物を欲しがるのは分かっていましたからね。先手を打っておきました」

「何だ、先手って。……まあ、いい。とにかくここに座ってくれ、少年」


 柊木夏乃。

 それがこの事務所の所長であり、僕の上司だった。

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