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彩りすべての祝福を!  作者: さぶろー。
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1 粉黛

ルコロ王国アクロ姫のカラフルな(?)物語。

1 粉黛


 際限なく磨き上げられた無数の宝石が散りばめられている腰掛は、私がここに仕えるよりももっと前からございます。そこへ座っていらっしゃるのは、その腰掛の輝きすら衰えて見えるほど可愛らしい姫様でございます。

 黒の燕尾服、黒の革靴、黒の蝶ネクタイ、となにからなにまで真っ黒な恰好をした私には、その体が示す通り、『黒色』の仕事を任されております。

 さて、さっそくいくつか仕事がございます。『黒色』の仕事、と誰かに紹介してしまうとどうもいけません。必ず誤解を招いてしまいます。イメージされるような、そんな汚れたものではありませんよ?そうですね。例えば、今日のように催し物がある朝は決まって姫様にお化粧を施すわけです。

 後ろから拝見していても、その眩さは他の追随を許しません。ただ。

 「ねぇ、クレブ!早くして!ねぇ!」

 「はい、ただいま」

 「そんなところで突っ立ってどういうつもりなの?。わたしが舞踏会に遅れてもいいって解釈しちゃうよ」

 「滅相もございません」

 「だったらやることはひとつじゃない?ねぇねぇ」

 「おっしゃる通りです」

 ただ…ただ大層『色遣い』が荒いのでございます。

 

 メイクルームの壁の一枚は大きな鏡になっております。姫様は、鏡越しでもやはりお美しい。先ほどの「態度」にはどうも頭が上がりませんが、これだけ透き通った肌です。多少の行いには目を瞑っても罰は当たらぬものでしょう。

 「それでは、お顔を先に失礼いたします」

 「早くしてっていってるでしょ」

 ポシェットからブラシを数本取り出して、貝殻のような瞼を撫でていきます。木漏れ日でお身体を洗う夢でもみていらっしゃるかのように澄ましてみえる姫様。女の私から見ても惚れ込んでしまいそうでございます。

 「眉も失礼いたします」

 「もう、その変なしゃべり方やめてよね。聞いてるだけで疲れちゃうんだから。ロイウェルを見習ってちょうだい」

 「彼こそいけません。姫様に対してあれほど無礼な口の利き方なんてありませんこと」

 「その姫様ってのもどうにかならないの」

 おみ足をぱたぱたとされていますが、こればかりは引き下がるわけにもまいりません。

 「そう苛立たれていては、今日の舞踏会も台無しになってしまいますよ。アルデバ国のプリンスもいらっしゃるみたいですが」

 「べつに興味なんてないもん。年に一度しか会わないんだから」

 「それだったらば、遅れても問題もございませんね」

 「あぁぁぁぁもぉぉぉぉはぁぁぁやぁぁぁくぅぅぅぅぅ!」

 少しからかいすぎましたね。ご機嫌斜めになってしまいました。ですが、いやいやとお顔を振られるたびに、睫から光粒が舞うばかりです。

 私のポシェットに収められたメイクアップの色々は、そっとなぞるだけで自在に彩りを与えるのですからそれもそのはず。

 姫様が席を立たれるときにご機嫌になっていらっしゃるのはいつものことですから。


 大広間での会話が賑やかになってまいりました。ここにいる私たちにもよく聞こえます。姫様のそわつく心が、表情全体からあふれ出ております。こんな緊張感や焦りを誰にも悟られぬようにするのもお化粧の役目です。

 「もう終わった?」

 「まだまだです。ほら、まだ唇がそのままですよ」

 「はやくしないとほんとに遅れちゃう」

 「それでしたら少しの間お静かに」

 「んんん~~~~」

 ぷっくりとほほを膨らませるその隙に、ささっと桃色へと染めていきます。

 「もちょっと赤いのはないの」

 「このくらいですか」

 「それだと赤すぎるっ!」

 「それではこのくらいにしましょうか」

 「…いいけど…うん、おっけ」

 時折このように姫様からご注文があります。こんなことではプロも失格になってしまうかもしれませんが、実に姫様のご注文は的確で、私の想像の範囲を超えていらっしゃるのです。そのようなおつもりはなさそうですが、いつも勉強させていただいております。

 さて、姫様のお化粧が無事に終わりました。お召し物も非の打ちどころがなく、まさに完璧です。主役にふさわしいお姿。

 「お待たせいたしました。もうよろしいですよ」

 「ふん」

 お顔を左右に突き出して、右目をぱちくり、左目をぱちくり。あごを引いてみたり、整っている髪を掻きあげてみたり、と落ち着きがありません。

 「さてさて、それでは会場に向かいましょう」

 「う…うん、わかった」

 はやる気持ちを追い出すように深い呼吸を一度だけされました。姫様も舞踏会は3度目になるというのに、やはりまだどぎまぎされるそうですね。

 「わっ!もう準備できたんだ!」

 「いきなり大きな声をだしちゃ姫さまがおどろく…」

 メイクルームの外から声がします。赤の燕尾服、赤の革靴、赤の蝶ネクタイを着ているほうがいつでも元気で勇猛果敢なデル、そして、青色に纏まったほうが聡明で深謀遠慮なベリュ。

 「姫様、お迎えの二人が」

 「今出ようと思ってたところ!」

 ふわりとお立ちになった姫様をみてデル&ベリュが大騒ぎ。

 「すっげえ!お姫様みたい!」

 「デル、姫さまは姫さまなのよ…」

 そう注意しているベリュこそ姫様に釘付け。ふたりともまだまだ子供ですから、これほどお美しくなった姫様を目にするのも慣れていません。

 「もう、ふたりとも、ちゃんと連れて行ってね!」

 「もちろん!」

 「足元気をつけてね…」

 私も直に後を追いかけましょう。せめて今日くらいは、場にあった言葉遣いをしてくださればよいのですが。


 (続く)

ただいま完結に向けて執筆中です。

お待ちくださいませ。

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