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魔女の遺産〈レガシー〉  作者: 誇高悠登
一章 二人目の『魔法少女』
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深淵の男

「『魔法少女』が二人か……。困ったねぇ。折角、力も付いてきたというのに……」


 一人――呟く者がいた。

 臙脂色のローブを着込んで、「困った」と声に出していたが――どこか楽しそうだった。

 ねばりつくようでいて、かといって聞き取りにくい訳でもない。

 耳に残る声をした男は、再び呟く。


「まあ、でも、その分の収穫はあったと思えば……安いものだな」


 男の前には光る扉があった。

 『侵入者』が現れる際に出現する扉に酷似してはいるが、それは正確には扉ではなかった。男が望む場所を映し出す鏡のようなものだ。

 男が望む場所。

 その中央には、2人の少女が映し出されていた。

 桂葉 ここ。

 そして一緒に話している紫姫(ゆかりき) (つかさ)

 二人の少女を見つめて笑う。


「これからどうするか……。もうしばらく考えようか」


 男が立っている場所は薄暗い森の中。

 黒く澱んだ空気ではあるが、普通の森と変わりはない。

 ただ一つを覗いて。

 そしてその一つが狂っていた。

 森に生えている木々の一本一本が――自在に動きまわっていた。

 木とは根を張るものであって動き回るものではない。

 そんな当たり前の事実を無視するかのように、時に加速し、時に止まり、動物のように走り回る。

 それでも、足を止めている男には、一切近づこうとしない。

 むしろ離れようとしていた。

 男が一歩足を進めれば、その分だけ距離を置くようにして、『森』が移動する。その光景は神秘的で禍々しい。

 男が歩くと無になった。


「……ちょっと、楽しくなってきたじゃないか――『魔女』よ」


 光る扉に移る『少女』――『魔法少女』を睨みつけると、扉を壊すようにして、手にしていた武器を突きつけた。

 身の丈ほどの長さを持った杖だ。

 扉はガラスのように粉々に砕け散ちった。

 破片が地面に着く前に粒子になり天へと上り消えていく。


「ふふ……。我々も貴様らにようやく追いつけるよ」


 まだ、まだ、楽しもう。

 森を二つに割るようにして――男はどこかに消えて行った。


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