表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の遺産〈レガシー〉  作者: 誇高悠登
一章 二人目の『魔法少女』
26/48

25

「お、おめでとう、司ちゃん」


「ありがと。相手との実力は同じくらいだったから、どうかと思ってたんだけど、なんとか勝てて良かったよ。これも、ここが応援してくれたおかげだよ」


「わ、私は……。み、見てただけだから」


「それが嬉しいんだって。親だって子供を、木の上で見てるだけなんだから」


「……。そ、それは漢字の、お、覚え方で、ほ、本当のゆ、由来は違うんだよ」


 二人は体育館の外に出て、近くにあった公園で昼食を取っていた。

 木製でできたテーブルを、同じく木製のベンチが両脇に設置されていた。

 利用者を日差しと雨から守るためだろう。4本の柱で固定された屋根があった。周囲は木々に囲まれ、休憩するには丁度良い。

 そんな場所に、司と桂葉は向かい合って座っていた。


「そうなの。じゃ、漢字じゃなくて感じ方の問題ってところかな」


「……」


「笑っていいんだよ? ここ」


 試合の直後だからテンションがおかしくなってるのだろう。桂葉は司の言葉に触れない様に話題を変える。


「……し、試合凄かったね」


 体育でバスケの試合を見ることは在ったが、やはり、しっかりと練習しているものと遊びのレベルは天と地の差があり、目まぐるしく代わる攻防に、桂葉は熱中してしまった。

 

「つ、司ちゃん格好良かった。た、沢山ゴール決めてたもん」


「うーん。今回はたまたま、相手に私より背の高い選手がいなかったからねー。多分、次の試合はそうはいかないよ」


「そ、そうなんだ……」


「それに、次やるところは、この辺で一番の強豪だからね」


 全員が髪を短く揃え、中には坊主にまでしている選手がいると、司が対戦相手の説明をする。どうやら、桂葉が体育館前で見た、あのチームが次に司たちと対戦する相手らしい。トーナメント方式で優勝を決める今大会において、シード権を与えられているとのことだ。

 当然――強いのだろう。


「た、大変だよね……」


「まあ、相手が誰だろうと頑張るしかないね」


 そう言って司は、テーブルに置いていたコンビニの袋から、箱に詰められている長方形の栄養食を取り出した。コンビニの袋の中には、スポーツ飲料とそれだけしか入っていなかったようで、風で飛ばされないように、ぺとボトルで空になった袋を押さえた。


「で、ここはどうなの?」


「え?」


「はぁ……。なんで、私が試合見に来るように誘ったのか忘れたの?」


「……あっ」


「それは忘れてた反応だね……」


「わ、忘れてたっていうか……」


 意識的に思考の外へと追いやっていたのだけれど、司の言葉で一気に中心にまで引き戻された。

 逃げたる場所なんてないだろうに。


「何のことか教えてくれたら、私も役に立てるかもしれないのに……」


「ほ、本当に、大きなことじゃないから。つ、司ちゃんは試合に集中して……」


 一試合、司の試合を見たのだけれどまだ、答えは出ていなかった。大きな決断をするときに、ギリギリまで先延ばしてしまうのが桂葉だった。

 悩める間は悩んでしまう。

 そうすれば、他の誰かが救いの手を差し伸べてくれることもある。

 そしてそれは大体が司だった。


「ここが言えないならいいんだけど……」


 しかし、今回ばかりは司の救いを受けるわけにはいかない。


「ご、ごめんなさい」


 謝る桂葉。支配は現在昼時間となっており、試合全体が一時間ほど行われないことになっている。その時間を利用して食事にきたのだが、桂葉は食事の購入を忘れたために、何も用意していなかった。

 司が一緒に買いに行こうとも言ってくれたのだけれど、試合前に余計な手間をかけたくない。

 桂葉は、後で買うからと説明して、体育館の一階にあった自動販売機でミルクティーを購入した。食の細い桂葉は、昼を飲み物だけで済ませても問題はない。

 司は良しとはしてくれないだろうが。

 そんな司も、この後に試合が控えているからか小さな栄養食のみだ。

 当然、その量では直ぐに食べ終えてしまう。

 袋にゴミを入れて言う。


「いいって。ただし、次の試合も精一杯応援してよね!」


「も、勿論だよ!」


 二人はその場所で昼休憩が終わるまで一緒に過ごすのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ