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「お、おめでとう、司ちゃん」
「ありがと。相手との実力は同じくらいだったから、どうかと思ってたんだけど、なんとか勝てて良かったよ。これも、ここが応援してくれたおかげだよ」
「わ、私は……。み、見てただけだから」
「それが嬉しいんだって。親だって子供を、木の上で見てるだけなんだから」
「……。そ、それは漢字の、お、覚え方で、ほ、本当のゆ、由来は違うんだよ」
二人は体育館の外に出て、近くにあった公園で昼食を取っていた。
木製でできたテーブルを、同じく木製のベンチが両脇に設置されていた。
利用者を日差しと雨から守るためだろう。4本の柱で固定された屋根があった。周囲は木々に囲まれ、休憩するには丁度良い。
そんな場所に、司と桂葉は向かい合って座っていた。
「そうなの。じゃ、漢字じゃなくて感じ方の問題ってところかな」
「……」
「笑っていいんだよ? ここ」
試合の直後だからテンションがおかしくなってるのだろう。桂葉は司の言葉に触れない様に話題を変える。
「……し、試合凄かったね」
体育でバスケの試合を見ることは在ったが、やはり、しっかりと練習しているものと遊びのレベルは天と地の差があり、目まぐるしく代わる攻防に、桂葉は熱中してしまった。
「つ、司ちゃん格好良かった。た、沢山ゴール決めてたもん」
「うーん。今回はたまたま、相手に私より背の高い選手がいなかったからねー。多分、次の試合はそうはいかないよ」
「そ、そうなんだ……」
「それに、次やるところは、この辺で一番の強豪だからね」
全員が髪を短く揃え、中には坊主にまでしている選手がいると、司が対戦相手の説明をする。どうやら、桂葉が体育館前で見た、あのチームが次に司たちと対戦する相手らしい。トーナメント方式で優勝を決める今大会において、シード権を与えられているとのことだ。
当然――強いのだろう。
「た、大変だよね……」
「まあ、相手が誰だろうと頑張るしかないね」
そう言って司は、テーブルに置いていたコンビニの袋から、箱に詰められている長方形の栄養食を取り出した。コンビニの袋の中には、スポーツ飲料とそれだけしか入っていなかったようで、風で飛ばされないように、ぺとボトルで空になった袋を押さえた。
「で、ここはどうなの?」
「え?」
「はぁ……。なんで、私が試合見に来るように誘ったのか忘れたの?」
「……あっ」
「それは忘れてた反応だね……」
「わ、忘れてたっていうか……」
意識的に思考の外へと追いやっていたのだけれど、司の言葉で一気に中心にまで引き戻された。
逃げたる場所なんてないだろうに。
「何のことか教えてくれたら、私も役に立てるかもしれないのに……」
「ほ、本当に、大きなことじゃないから。つ、司ちゃんは試合に集中して……」
一試合、司の試合を見たのだけれどまだ、答えは出ていなかった。大きな決断をするときに、ギリギリまで先延ばしてしまうのが桂葉だった。
悩める間は悩んでしまう。
そうすれば、他の誰かが救いの手を差し伸べてくれることもある。
そしてそれは大体が司だった。
「ここが言えないならいいんだけど……」
しかし、今回ばかりは司の救いを受けるわけにはいかない。
「ご、ごめんなさい」
謝る桂葉。支配は現在昼時間となっており、試合全体が一時間ほど行われないことになっている。その時間を利用して食事にきたのだが、桂葉は食事の購入を忘れたために、何も用意していなかった。
司が一緒に買いに行こうとも言ってくれたのだけれど、試合前に余計な手間をかけたくない。
桂葉は、後で買うからと説明して、体育館の一階にあった自動販売機でミルクティーを購入した。食の細い桂葉は、昼を飲み物だけで済ませても問題はない。
司は良しとはしてくれないだろうが。
そんな司も、この後に試合が控えているからか小さな栄養食のみだ。
当然、その量では直ぐに食べ終えてしまう。
袋にゴミを入れて言う。
「いいって。ただし、次の試合も精一杯応援してよね!」
「も、勿論だよ!」
二人はその場所で昼休憩が終わるまで一緒に過ごすのだった。




