隠しキャラ
指輪を持って現れたのは、黒髪に右目は金、左は青のオッドアイの精悍な青年。彼は、今まで名前だけは出てた、ジャーヴォ帝国のバンダース皇太子。ちなみに隠しキャラ。
ヒロインちゃん、目が輝いてるけど、さっきのセリフとタイミングを良く考えようね? まあ、ストーリー通りだと、ここでヒロインを帝国に攫って?拉致って?いくんだけど…
ところで、隠しキャラっているけど、あれって現実にはどんなんだろうね。たまたまそのタイミングでだけ訪問した? ランクごとに分けられた生活で、その時だけ交流を持てる?
バンダースに関しては、現状だと在籍はしてるらしいんだけど、入学式や卒業パーティーなんかの儀式ごとにしか姿が見えなくて、普段は、試験なんかの時でもどこにいるのか分からないっていう存在なんだよね。
ヒロインちゃんもゲーム通りに1回だけ会って、ゲーム通りの会話をしたんだけど(面白いって言われる)、それ以降は探しても全然見つかんないで、どこにいるの~ってぼやいてる。
そういう意味では、彼は隠しキャラに仕立て上げられてるんだよな~。
入学決まった時に、とある人物にね、自由にできる最後の機会だし、身分を離れて過ごしてみる?って聞かれて、喜んで!って。他にも案は考えてたんだけどな。
普段は実はとある辺境伯4男ということに。変身グッズも、とある人物に貰ってね。学園長と数人だけに話し通して、そっちの成績を反映出来るようにもしてるしね。
ええ、知り合いですよ。数ある男爵家からヒロイン探してたんだから、もっと分かりやすい攻略対象なんてねえ。しかも皇太子。
つかつかと、ラースィーに近づいてきたバンダースは
「これがその指輪ではないのか?」と渡す。
「ええ、このデザインといい宝石と言いこれですが…、なぜこれを?」
皮肉気に笑って 「なぜ、か。そこにいる女が作業倉庫裏の沼に投げ込むところを、偶然見てな。投げ込んだはずみに光ったので、何かと思えばこの指輪だ。
それなりの品らしいから、何らかの訳があるかと思っていればこの騒ぎだしな。ずいぶんと見事に踊らされてるな」
はい、そんな偶然、普通はないよね。手が離せないから見張ってて回収してきて~、ってお願いしたんですよ。
え、どうやってって? ヒロインちゃんが母親の形見ですって王子たちに見せてたから、これは、と思ってね。
発信機仕込んで、彼女の近くで友人に、リボンが飛ばされて沼に落ちた、そんなのあった? 倉庫裏の~ ってやってもらったら、下見に行って石投げ込んでるんだもの。寮まで距離あるから、指輪と一緒に移動しだしたところでスタンバイさせて。
あ、もちろん「これはなぜ?」って聞かれたから、自作自演で王子達に私のせいって言ってるの~ってお伝えしましたよ。ちゃんとこの場で証明されましたよね?
ちなみに教科書焼却でも証拠確保してもらいましたよ。こっちは灰になっちゃってましたけど。まあ、見に行かせることに意義がありましたからね。
え? なんでそんなことをって? ないとは思いますけど恋愛フラグをへし折るためですわよ。
ちなみに一応皇太子ですから護衛もついてますの。うちの兄弟が交互にね。そう、それで忙しいの。
みんな変身グッズで、ザ・モブ!って見た目になって、ヒロインちゃんがラースィーの前でカワイ子ぶったり、ルディーの前でだけ努力する姿を見せたり、ハティの前で調子合わせてるの、横で見ててもらいましたわ~。
最初は珍獣観察のようでしたが、最近は籠絡されちゃったラースィー達共々、呆れの眼差しで冷ややかに見ておりますわ~。 よしよし。
「そんな! じゃあ、今まで言ってたことは本当に全部嘘だったのか? なぜそんなことを!」
詰め寄られて、ヒロインちゃん、泣きそうな顔で震えてます。いや、嘘って…自分で脳内補完したんじゃん…
ふふ、ところで今までヒロインが口を開いていないことはお気づき? なぜでしょうね?
A:着ているドレスの製作者は私。私はドレスに見えるバトルスーツを作れる。バトルスーツとは筋肉や神経に干渉して、出せるパワーを増幅したり反応を早くしたり出来る。
逆も可。声帯や肉体の動きを制限することも可。
だって一番の不確定要素ですもの。制しておきますけどそれが何か?
「お分かりになりません?現状が答えですわ」
何やら言い出した私を、ヒロインちゃんは希望と絶望を混ぜた目で見てる。
そうだよね。ざまぁしてきた人間の助け舟か追い討ちか分かんないもんね。
「どういうことだ?」
「彼女からの訴えを聞かなければ、あなた方は婚約破棄にまで思い切れなかったでしょう。親に婚約破棄したいと願ったとて、何を馬鹿なことを、と切り捨てられてお終いでしょう。何の不満がある、とも言われましょう。
ですけど人格に問題ありで殺人未遂にまで手を染めたとなれば…。
好きな相手に選んでもらいたいと思えば、こういう手に出たのも理解はできますわ。私にあって彼女に無い、身分や権力など、生まれ付きの物はどうしようもありません。成績や繋がりなど、私より優れようとして努力しても、限度はありますし。
思い詰めて、では逆に私を落とせば…、と思ったとてね」
ふふ、ヒロインちゃん、これで王子への恋心ゆえの暴走になりましてよ。ええ、恋など無いのは知ってますけど、隠しキャラ出すために、王族に嘘を自作して吹き込む? それこそ処刑モノでしてよ。
「あと、貴方達にも責任はありましてよ。貴方達は彼女にそのように訴えられ、泣き付かれた時に疑いなく信じて、慰め、気遣ったのでしょう?
貴方達のように身分があり見目の良い方にそのように優しくされるなど、彼女にとっては麻薬のようなものでしてよ。それをもっと欲しい、さらに気遣ってもらえるようにと、悲劇のヒロインへと自分を仕立てあげ、それを認められ慰められることで、さらにエスカレートさせてしまった。
誰も偽りに気付かず、疑問すら呈さないおかげで引き返すこともできずに」
一応?フォロー。ヒロインちゃんのね。
元婚約者三人組、貴方達(のチョロさ)が暴走の元凶でもありますのよ。被害者面はさせません。あなたたちだってそう選択したんですからね。逃がしませんよ。もっとももう手遅れですけど。
ただね、私たち姉妹の誰にも、そんな可愛げのある人間おりませんからね…。泣き落としに引っかかったの、ある程度は無理ないですかね。
でもそれって、私たちならやりかねないと信じ込んだってことですよね?
まあ、今後同じ手に引っかかられても困りますしね。きっちり再教育しますわ。