ヒロイン VS 悪役令嬢
アリス嬢は現在、3人の婚約者たちの後ろに庇われて、困ったような顔を作っていますわ。そう、作って。
こんな周囲の生徒たちに注目されている場面で嘲笑いを見せるようなお約束なことはいたしません。
なぜかって? いざとなれば、この3人の思い込みによる暴走の被害者面するつもりだからですわ。
だって、いじめについても階段落ちについても本人は私を名指ししてはおりませんもの。
いじめの犯人について問われて、思い当たることとして「不興をかってるとしたらコランディア様達かしら」
階段落ちは「紫色の髪の女性が階段の上に見えた」とだけ答えておりますもの。
さらに、アリバイの主張しづらい私たちが姉妹3人だけで部屋にいる時間を狙い、紫色のかつらと私がよく着ているタイプの服を用意して、それらしい姿を他人に見せておくという手の込みようですわ。
いっそお見事ではありますわね、間違った方向に…
正直、備えてなければ危うかった気はいたしますわ。
ふふ。ところで、どうして私は彼女たちが話した内容や、こそこそやっていたことまで知っているのでしょうか?
A:コネや権力の限りを使い、徹底的に監視、軌道修正、誘導等をしていたから。
まあちょっと感心しない手段であることは分かっておりますわよ。しかしねぇ、かかってるのが今後の生活の安全となりますと…。ゲームではそもそもそこまで後日談無かったのでどうなるか分かりませんけど、決まってたとしてもヒロイン次第でBadendが上乗せされる可能性がありますもの。特に前世の記憶があちらにも出ると、何をやらかされるか…。
せっかく分かっている危機ですもの。私達の全力を以て準備して対応させていただきますわ。
ということでヒロインちゃんのことはずっと前から監視対象でしたよ~。
本人にはGPSもどきと盗聴器もどきを仕込み、遠巻きに手のものや友人たちに監視いただき、部屋にも映像記録機器と盗聴器もどき。合鍵ももちろん作りまして、机の引出の二重底にある乙女ゲーム攻略ノートも拝見させていただきましたわ。
殿下たちとのサロンにも映像記録機器と盗聴器もどき。全員は無理でしたけど、従者の一部には情報を流していただきましたわ。
ビバ、権力!
入学する前から彼女の情報はあったのですけど、それによると記憶が戻ったのは入学時のようですわね。
え? 私、家のメイドが入ったら可愛い服着させて、店でお針子や店員にも着飾らせて、交流持ってましたから。使用人、お針子、各家に出入りする店員達のネットワークってかなりのものですよ。あと神殿や孤児院に顔の効く母もいましたから。
モデルにしたいなぁ、ってヒロインちゃんの容姿(同い年くらいでピンク髪の小動物カワイイ系)を上げてみたり、貴族の家に働きに行って身ごもって帰されて女の子を産んで育ててるとある不幸な娘さんの話がないか、それがどこの男爵家か聞き出してみたり。皆さんこの手の話はお好きなようでしたわね~。
これかなあ、というのは10歳ころに上がってきましたかね。確証はないし前世記憶もなさそうだったので、とりあえずの監視だけすることにしましたけど。
結果的にビンゴでした。入学してきて部屋に入った途端、
「え、これネット小説でよくある乙女ゲーム転生? あれ、ラースィー王子と帝国のバンダース皇太子だったよね? ルディーとハティもいるのかな? でもまあ入学のときに記憶戻ってよかった。婚約破棄の場とかだとわけわかんないし」と自白。で、カリカリとノートに憶えてること書いとこうって書いて。
まあ、しばらくはカワイイ愛玩モードはオフにして、監視しながら性格を掴もうとしたんですけど…
とりあえず婚約者3人は攻略しにかかりましたね。偶然好感度が上がってる体を装いつつ。とはいえ部屋では「あいつらゲームもだけど現実でだともっとダメダメ~(そこらは同感だけど)。うざい、絶対なし!やっぱり帝国ルートか。でもバンダースは怖いから救国コース?」とか言ってましたけど。
「ネット小説のヒロインざまぁ、よくあるのは悪役令嬢も転生者ってパターン。たしか侯爵家の3姉妹。私がそうだし、どれかがそうの可能性はあるかな。
侯爵家ってそこそこ偉いはずだし、仲良くなれたら便利かも。転生者って確認できたら、泣き付くふりしてうまく仲良くなって~、できそうなら踏み台になってもらうのもいいかも。ふふ。」
「悪役令嬢がなんにもしてこなかったりバンダースに会えなかったらやめるか~。でも王国であいつらといても…。
あ、王子様たちの勘違い暴走とかあったっけ。あいつらならそもそもやりそうだし、帝国に行くなら関係ないし、ダメでも勝手にやったのに巻き込まれたってことでやらかさせようか。チョロイし、もうちょっと好感度上がったあたりでイロイロ吹き込めばいけそう。
演技は途中でもボロ出さず何か言いたげな困った感じで、そうだアリバイもあったら困るな、無い日調べないと」って。
「悪役令嬢達にはちょっと悪いかな?でもいじめはグレーだし、頑張れば後でなんとかできるよね。それで婚約破棄は当人たちの問題だよね?」
……
へえ~?
監視しててよかったですわ~。自白無くてもこの綿密な監視体制なら、イロイロ吹き込みだしたあたりで見切りを付けていたとは思いますけど…
ねえ、私 確かに 可愛い物は好きですし、仲良くできるならと思っていましたけど…
毒蛇を懐に入れるほど心は広くなくってよ。というか懐に入れて制御できるほどの自信がありませんのでね。
しかも記憶戻ったばかりの元平民の貴方では分かっておりませんでしょうけど、この企ては我が『家』への攻撃ですのよ。その場で対処できないと最悪家に影響が出ますわ。まあ、その程度で致命的なことになるとも思えませんけど。
カワイイとは言い切れませんけど、今の『家族』って、今の私にとって特別なものですの。
そうですわね。では先に自分で頑張らせてもらいましょうか。ええ、降りかかる火の粉をその場で叩き返されるあなたがたには悪いですけどね。ざまぁの後の事は当人の問題ですものね。