処分は最大権力者が決めるもの
「婚約破棄自体は、かねてからご相談しておりました通り、こうなった以上3人とも解消でよろしいかと」
ん? なにか疑問かしら。本人の意思もある程度は反映されますけど、基本的に当主に決定権があるのですから、騒ぎが起こりそうなら、先にそちらを押さえておくべきでしょう?
「こんなことになってしまって本当にごめんなさい」 王妃様直々の謝罪。
いえお気になさらず。
「いいえ。私も母からトランタでの事業の代行をできないかと打診されておりましたので。
しばらくジャーヴォでの産業発展に傾力したいとのことで」
口実ではありますけど、業務代行、私が一番理解はできるんですよね。兄は侯爵家の方がありますし。え?本気で手伝えって? はいはい。
ええ、お母様、ジャーヴォでも着々と勢力拡大中です。貧しいままだと結局争いになりますのでね。それと戦争時の初期に徴兵された民を殲滅したの、こっそり気に病んでまして。罪滅ぼしもかねて。
結果、聖女様扱い再び。日に野菜クズの塩スープ2食だったのが、現在は肉入りシチューにパン付。週一でお菓子も食べられるようになったとなればね。一部の遺族でやはり複雑な人はいますけど。
あ、レジスタンス予定だった攻略者、信者になって発展に尽力してますよ~。他の攻略者の商人や元奴隷もね。騎士もいたんですけど、それは10年前の襲撃に居合わせちゃったせいで、ガクプルと下僕化…。
「でも今回の事、個人的には喜ばしい事だと思っております」
「?」
みなさん疑問に思ってますわね。さあ、美しい物語にまとめますわよ。
「ラースィーもそうでしょうが、私も、お互い恋人と言う関係には思えませんでしたの。子供のころからの付き合いのせいか、私にとっては守り庇護する対象にしてしまっていて。
それが、守りたいと思うほど愛しい相手を見つけ、その子の為なら一生懸命になって行動するようになったのですもの。今回は少し間違えましたけど、彼女といっしょならこの先きっと成長していけますわ。
私は喜んでラースィーと彼女のこれからを祝福しますわ」
ママはボクちゃんのヤル気を祝福しますよ~。ええ、行動に出た結果が巻き込んでの自滅ですけどね。愛? ヒロインにはないし、自滅の原因は嘘で騙したのかとか言ってたけどね~ ごまかしたけど。
ラースィー? 先ほどヒロインのウソがばれた時は、騙されたのがショックだったようですけど、私のもっともらしい説明で、恋心ゆえにこんなことを? 俺がそのまま鵜呑みにしちゃったせいでエスカレートしたのか? って感動したり心を痛めたり。
本当にチョロイですわね…。しかも私に認められて応援されてるんですもの。ヒロインとの未来に向けて張り切ってますよ。私、ある意味最大限に見捨てたんですけど。
え? 本当に彼と結婚することになっても嫌ではなかったんですよ。ペットとかって、役に立たなくてもカワイイだけでいいじゃないですか? 潤いや癒しも仕事ですよね?
で・も・、噛みついてくる子はいりません。しかも私が避けたから怪我しなかっただけですもの。そこまで酔狂ではないですからね。
あ、ちなみにラースィーですけど、第三王子で、現状、政略の必要性なかったのと適性の問題で、いずれ私と結婚して臣下に下る予定だったんですね。王家から適当に爵位と領地をもらって。お母様が手掛けてる事業の一部も私に譲ってもらったりして。
もっともこうなった以上うちからの支援なんてあるわけないですよね。ヒロインとこの男爵家に婿入りかな? 王家からの援助はあるでしょうけど、経営自体はヒロインと二人三脚で頑張ってくださいね。頑張る二人の邪魔をしないようお願いしておきますから。
こんな、政略というほどもない、うちの子お土産付きであげるから可愛がってあげてね、ってペット譲渡程度の婚約事情ですから、破棄したところであっちはともかくこっちは特に問題ないですよ。力関係的にもね。
次の嫁ぎ先? 別に無くてもいいですが、お母様とのつながりや手がけてる事業にかませてもらえるなら、喜んで!ってとこ多いですからね。うち侯爵家ですから上位の家とは顔見知りで説明できますし、下位なら問題ないし。
でもまあ、つり合い的にはね。私とだといろんな意味で不似合いに見えるのよね。見た目的にも、あっちは小動物カップルなんだけど、私とだと無知で無垢な子豚ちゃんを裏から操る妖狐のような…
「そうですわね。私が言うのもなんですけど、殿下はコランディアとよりはアリス嬢との方がお似合いですわ。そちらのお二人の新たな出発を私からも祝福しますわ。
あなたたちも、こちらとはご縁はありませんでしたけど、良いご縁があるよう祈っておりますわ。
皆さん、せっかくの卒業パーティで申し訳ありませんでしたわね。せめてこれからはお楽しみになって」
お母様も笑顔で援護射撃。無言の圧力込みで。
これで私たちの婚約破棄と殿下のアリス・ミラー嬢との新婚約は決定事項ですね~。いやぁ、だって聖女様のご意思ですもの。
王妃様たち、立場的には元のままにしておきたいという思いもあるのでしょうけど、今となっては当人たちに無理がありますし、特に無茶なことは言ってませんし、言い分をそのまま飲むしかないですわよね。
3人の元婚約者に非があるのもあるんだけど、こんなことで敵対しちゃったら国滅びかねませんもの。
身分的には王妃であるクイーニア様が1番高いんですけど、お母様の影響力はトランタ国内のみならずジャーヴォでも無視できないですし。
力に訴える? 10年前の最大戦力にですか? 今となっては私達もおりますし、恩や情で敵対できない人間も多いでしょうしね。
ざまぁの準備しながら話してたんですよ。万一ゲーム補正とかあってうちが罪に問われたりするようなら、ジャーヴォに行って10年前失敗に終わったトランタ併合しちゃおっか~?とか。
そこまでしなくても、皆に訳を話して隠遁したら暴動とか起きると思うけど~ 身分制度崩壊~ 経済封鎖~、とか。
後、ゲーム知識を知ってからやってくれてたらしくて、こつこつ資金をへそくって、現状レベルの生活なら人生3回分、つつましくなら10回やってけるくらいは確保できてるわよ~。
拠点も各国に確保~。秘境系だと、魔の森にセーフティーエリア作って、エルフの隠れ里やドワーフの地下王国への家族移住もいけるよ~、って…
お母様、頼もしすぎますわ…
私たちと保護者たちで元婚約者3人+ヒロインを別室に連行。ついでに他の関係者も大集合。
ヒロインちゃん、初めて会った(と思ってる)うちの長兄(侯爵家長男:ベリルース)と末っ子(侯爵家次男:ゼクス)を見て、期待するような顔したけど…、うん、お兄様たちからしたらモブのふりして本性見てたもの(見させたともいう)。
私たちとそれなりに仲もいいもの(ゲーム知識を得たお母様による洗の‥、いや教育のおかげ)。絶対零度の視線&スルーですよ。
防音の術をかけて早速、騎士団長、
「馬鹿者ーっ! お前は何をやっておる! 今まで何度もお前の見ているものだけが全てではないと言っておろうが!」
宰相も 「私も何度も、真実とは色々な事情が重なり合って、見る人間によって違うものだと教えていただろう」
「「申し訳ありません」」
ルディーとハティ、一応無実の罪でつるし上げたのは自覚してシュンとしてる。
「誠に申し訳ない。こうなった以上、以前からの話の通りにさせていただく」「私もです」
ええ、婚約破棄以外にもお話はしてましたよ。ちょっと事情がありまして…