プロローグてきななにか
深い森の中。
その森の中で聞き覚えのない音と声がしている。獣が吼える声ではない。風で木々が揺れる音ではない。その音と声の正体は・・・。魔物が声を上げ武器を振るっていた。一人の男に向かって。魔物と男は戦闘をしていた。
―――ブン―――
―――ブンブン―――
「ハア・・・ハア・・・」
「気が済んだか~?」
「なぜだ・・・なぜあたらん!?」
「(・・・さすがだな・・・)」
女性は男に言われたとおりに木々の中に身を潜め観戦していた。
男の倍近くある巨体の魔物の手には大きな両刃斧。魔物の力で振るった両刃斧は周辺の木々をなぎ倒し、地面を陥没させたりしていた。それでも男には当たらなかった。息切れを起こしている魔物の動きは別段遅いというわけではない。むしろ速いと言える。両刃斧の大きさは大体成人男性の身長くらいだ。だいたい170~175cmの長さだ。普通の人間では到底持てるはずがない大きな両刃斧をあんなにも軽々と振り回している様はまるで子供がぬいぐるみを持って振り回すみたいに。
だけど当たらない。それをたやすく男は避けている。武器で受け止めたり受け流しているのではない。
武器は持っているが収めている。その男は本当の意味で攻撃を避けていた。そしてついに魔物は疲れ果てて動く事を止め、その場に立ち止まった。
「・・・なぁお前。人語が話せるならもう止めないか?」
「ふざ・・・けるな!!」
声を荒げる魔物に男はまったく怖気ることもなく近づいていく。
「わかるだろ?お前の攻撃が当たる気がしないのが。見逃してくれたら殺さないでやるから。ここは引いてくれないか?俺はお前を倒しにここに来たわけじゃないんだ」
魔物の目の前まで歩み寄った男は無防備状態。
一歩、また一歩と近づいていく。
「・・・・・・・・・」
魔物の乱れていた息の音は何時しか聞こえなくなっていた。
手にもつ両刃斧に最大限の力を込める。
「死ね!!」
魔物の射程範囲に入ってきた男に斧を振り下ろした。
―――ズドン―――
辺りに鈍い音が鳴り響いた。
木々が揺れ、葉が落ちていく。
魔物が男に攻撃をした。
辺りに煙がたち込める。
あれだけ無防備で近づいたんだ。
結果がどうなっても文句は言えないだろう。
・・・魔物もな。
「!!?」
煙が消え、めり込んだ地面を見ると押しつぶされて中身がトマトみたいに飛び散っているはずの男の姿がなかった。
あの距離で仕留める事が出来ない事に驚きを隠せないでいる魔物。
男はどこに消えたのか・・・。
「あ~あ、・・・せっかく汚れないようにやってたのに・・・」
その声は上から聞こえた。
声を聞いて魔物が上を見る。
木の上に男がいた。
砂が付いた鎧を叩いている。
「・・・・・・・・・・・・」
驚きのあまり声も出ずその場に立ちつくす魔物。
「助かる命を無駄にするとは・・・馬鹿な奴・・・」
男は持っている剣の柄に手をやり魔物に向かって飛び降りた。
―――ザシュ!―――
何かを切る音がした。
男は魔物の後ろを何食わぬ顔で歩いていき
「綺麗に死ねてよかったな。痛くなかっただろ?」
魔物の体からゆっくりと線がいくつも浮かび上がり、徐々にその傷から赤い液体が徐々に流れでて噴水のように勢いをます。
そして、大柄の体は小さく細切れに崩れていった。
魔物の体は男の見えない攻撃によっていつの間にか切り刻まれていた。それも均等な長さと厚みで。
「くそ、折角綺麗にしたばかりなのにこれかよ・・・」
自分の体をくまなく見る。
「ここも汚れているな・・・あ、ここも・・・こっちもか・・・こりゃあ洗濯しないと駄目だ」
ブツブツと呟きながらも楽しそうに汚れた場所を見つけていく。
「なあ。預けてた鞄から磨き材取ってくれないか?」
身を潜めていた女性は言われたとおり男の鞄の中から磨き材を取り出して渡してやった。
「サンキュー♪」
磨き材を受け取ると嬉しそうに汚れた場所を磨き始めた。
「・・・その癖は相変わらずだな。どうせいつかは勝手に汚れたり壊れたりするのに・・・」
「馬鹿だな。大事に扱えば長持ちするんだぞ」
「確かにな・・・。でもな、お前は大事にし過ぎてる。そもそもその剣を使った所を見たことがあまりない。それに攻撃を受けたこともないし・・・。それでは宝の持ち腐れだ。・・・それと聞きたいことがある。どうして先ほど私に身を潜める用に言った?あれくらいの魔物私一人でも余裕だ」
確かにこいつならあの魔物を倒すのは容易だ。
だけど俺は隠れろと指示した。
それはなぜかというと、
「それはわかってる。・・・けどお前の場合だと必要以上に他の場所を壊すし、すぐに戦闘にもっていくだろ?・・・まぁ俺も結果的にはなってしなったけどな」
あいつが戦うと周りの木々も巻き込む可能性があるからな。いや、確実に巻き込む。特にあの力を使うと余計にだ・・・。だから隠れろといったんだよ。そんなやり方は俺の性癖に反するからだ。
「・・・・・・」
「それに使わなくて済むなら使わない方がいい。お互いに無駄な苦労を避けれる。何でも武力で解決すると汚れるし傷がつく。手入れが大変だ」
「それで平和になるんだったら皆そうしてる」
「そうだよな・・・ハァ~・・・。やっぱし勇者なんてやるんじゃなかったな・・・」
最もなことを言われた。
反論する気もなく肯定し愚痴をこぼした。
本当にどうして勇者になんてなったんだろうな俺・・・。
「わかってると思うが、訂正はもう出来ないぞ」
「・・・わかってるよ。俺もやると言った以上やるさ。この国の大掃除をな」
「その考えは間違いではないが、お前が言うと別の意味に聞こえてくる・・・」
「どっちも変わらないだろ?だけど出来れば戦いたくないけどな~。・・・さっきの魔物ともな」
「・・・それは優しさか?」
「いや、ただ無駄な戦いは嫌いなだけだ」
「・・・そう言って、実は後の手入れが大変だからじゃないのか」
「・・・・・・・・・・・・」
図星をつかれてしまった。
まったく子供の頃から一緒にいると考えや行動を簡単に読まれてしまう、俺のことをわかってくれているのは嬉しいが何か複雑だな。。。、
「・・・まぁいい。先を急ぐぞ。もう少しで村に着くはずだ」
「ちょっと待てよ。まだ汚れた箇所の清掃が終わっt・・・って引っ張るな!汚れる!!」
男の襟元を引っ張って森の先にある村へと進行した。
「・・・・・・なあルシ」
男は女性の名前を呼んだ。
女性の名はルシ・セントラル。
この国で最強と言われている白騎士部隊。全身白い鎧を身に纏い、胸の甲冑には天使の羽と騎士の剣のマークが刻まれている。ルシはこの国の王国ラルクの最強部隊、白騎士部隊の隊長を務めている。部隊には第一部隊から第十部隊まで存在し、数字が少ないほど精鋭とされ、ルシはその第一部隊の部隊長。
彼女は天武の才に恵まれた存在で、この王国に入隊してわずか二年でここまでの地位に辿り着いた人物だ。
正義感が人一倍強く、勝気で強情な所もあるが、面倒見も良い。訓練での指導では部下への適切な指示・指導も完璧にこなしている。そして、自身もその才に溺れず毎日訓練を続けている。周りの人や部下達からはとても慕われ人望が厚い存在だ。おまけにルシに恋焦がれる男達は大勢いるという。何せ彼女は美人でもあるからだ。長い銀色の髪は純銀の絹で出来ているかのようキラキラと光、細く流れた目は透き通った海のように蒼く、見ているとすい込まれそうになる。鼻も美しく整っており、淡いピンク色をした唇は、一度口付けをしたら二度と忘れられない感触と甘美を与えてくれそうな感じがする。スタイルは言うまでもないが言わせてもらう。普段、王国にいた時は鎧を纏っていてもわかるくらい強調された胸。その胸とは反比例した見事な腰のクビレ。胸にはやや劣るかもしれないがそれでも十分すぎる尻。太腿から足の先までスラリとし無駄が一つもない。まるで神が最高の人間をここに作り上げたかのようだ。そんな彼女が今鎧を着用せず、一般の旅人が着用する服を着ているので、よりそのスタイルの良さが強調されている。
「どうした。カルロ」
ルシが男の名前を呼んだ。
男の名前はカルロ・スパイアル。
ルシと同じ王国ラルクの兵士であり、今は勇者として旅に出ている。なぜこの男が勇者になっているのか、ルシが勇者ではないのか疑問に思うかもしれない。だけど、その疑問は簡単に解消される。ルシよりこの男、カルロ・スパイアルの方が強いのだ。あの場にいた人達は皆知っている。それは王も他の白騎士達の隊長もだ。では、なぜカルロは白騎士になっていないのか?ルシに勝利したカルロを王は見過ごすわけはない。あの場にいた時、王はカルロに白騎士になるよう言ったが、カルロはそれを断った。王の推薦を断る行為は死に値するほどの重罪。だが、王はそれを笑って受け入れた。カルロという男がどんな人物が知っていたからだ。無論この城にいる者達なら皆が知っている有名人だ。
この男は戦うのが好きではない。
訓練でもまったくやる気を見せず、姿をくらまし、いつもどこかの掃除をしているか、城にいるメイドに清掃の仕方を教えてたりしている。時には自分一人では時間がかかる場合は、自分の部下に命令し一緒に掃除をしたりする時がある。だが、そのおかげで今まであまり清潔ではなかった兵舎の外観・内装は綺麗になり、訓練施設も同様で武器も毎日手入れがされていた。その清掃スキルの高さと兵士としてのやる気のなさがカルロという人物を有名にさせた。
前に部下の一人がカルロに対して疑問にもち聞いてみたらしい、
「兵士長はなぜ入隊されたのですか?」
それに対してカルロの返答は
「兵士になったのも綺麗な部屋が手に入るから」
という理由でルシと一緒に入隊し、一応兵士長までの地位は手にするまで頑張ったらしい。
「後どれくらいでこの森抜けるんだ?」
生い茂る木々を慎重に歩きながら先を歩くルシに声をかける。極力汚すことをしないように濡れている地面や無造作に伸びている草にあたらず、そして虫を踏まないようにと気を使いながら。
「・・・・・・その歩き方疲れないのか?」
「清潔を保つなら仕方がないんだよ。それより後どれくらいなんだ?」
「そうだな・・・。今太陽があそこだから、向こう位になった時には出れる・・・・・・といいな」
その言い方を聞きカルロの動きは止まった。
ルシもゆっくりと動きを止めカルロに振り返る。
「ルシ。・・・・・・迷ったのか?」
「・・・・・・先を急ごう」
「いつから迷った?」
「・・・・・・」
「おいおい、冗談じゃないぞ。こんな所で野宿はごめんだからな!!」
「ならさっさと歩け。早くしないと本当に野宿になるぞ」
「自分が迷子になったのに上から目線とは・・・」
「何か言ったか?」
「いいや、何も・・・・・・」
これ以上何か言うと流石にルシも怒るから黙っておくか。しかし、どうして忘れてたんだ。ルシが昔から方向音痴だったことを・・・・・・。その性で昔はよく二人で遊んだ時は迷子になって大人の人達が探しに来てくれて怒られたな・・・。俺はまったくの被害者なのにな・・・。今思えば悪くない思い出だったな。
「どうしたカルロ、笑っているが」
いつの間にか表情に出てたか。
「いや、ちょっと昔を思い出してね」
「・・・昔か」
「ああ。あの時の記憶をな」
「そうか。早くこの森を抜けるぞ」
「りょーかい」
出口のわからない森の中を当てもなく歩き続けた。
「今日はこの村で休むか」
「・・・・・・あそこなのか」
「嫌なのか?」
どうにか森を出たカルロとルシの先には村らしき家々があるのが見えた。
あれから迷いに迷って最終的には俺がどうにかして森を出ることが出来た。おかげで野宿をする事はどうにか免れたが、あんな村に泊まるのか・・・。宿屋あるのか?
しばらく歩くと村がはっきりと見えてきた。
日も暮れて辺りは徐々に暗くなっていた。
「この村か、寝れるかな~・・・」
「お前は無理だろうが私は問題ない。といかお前が寝られる宿屋はこの世にあるかどうかも怪しいな」
「いや、ないだろ」
「・・・自慢げに言うな。それに一々お前の我侭に付き合っていたら毎日が野宿になるがそれでもいいのか?」
「・・・わ~たよ。我慢しますよ・・・はぁ~・・・」
無駄に歩いて疲れた足腰が更に重くなりふらついている足取りで嫌々渋々村に入っていった。
村に入ると明かりはなく静まり返っていた。
「・・・・・・静かだな」
ルシが不振そうに言った。
「そうだな。でも、こんな村だから皆早めに休んでるんじゃないのか?」
「それもそうだが、・・・気のせいか、何か嫌な感じがする」
「俺はずっと嫌な感じなんだけど?それよりも宿探すんだろ。行こうぜ」
「・・・・・・ああ」
村はそこまで大きくなかったのですぐに宿屋を見つける事が出来た。
ルシとカルロは宿屋の扉を開けた。
「すまないが部屋は空いているか?」
宿屋には入ると年老いた夫婦がいた。
「おや、珍しいね。こんな夜に、・・・旅の方かい?」
優しい顔した老人が尋ねてきた。
「はい。辺りも暗くなって今日はここに泊まろうかと」
ルシはそう言った。
「そうかいそうかい。最近は物騒だからね。よかったら泊まっていきなさい」
「感謝する。それと聞きたいのだが、ここは地図のどのあたりの村だ?」
「この地図ですと・・・・・・この辺りになりますな」
老人が指した場所は森から南東の場所だった。
「・・・少しずれてしまったか・・・」
「おいおい。ずれてしまったじゃないだろ。かなりずれてるぞ目的の場所から」
「旅人さんはどこに向かわれるつもりだったのかね?」
「東の墓所に」
「・・・墓参りですか?」
「はい」
「そうかいそうかい。なら明日になったらこちらに行くとよろしいですぞ。川があるから上流に進めば目的地近くまで行けますよ」
「それはいい事を聞いた。すまないな」
「いえいえ。困った時はお互い様ですよ。それではお二人さん、お部屋に案内しますよ。婆さん頼めるかい?」
「ええ。では旅のお方、こちらに」
「すまない。カルロ行くぞ」
「へいへい」
老婆の後をついて行く。
「この部屋を使って下さい」
ルシは老婆に会釈をした。
部屋に入り荷物を置く。
「いい部屋だな」
ルシは周りを見渡しそう言った。
「・・・そうか?」
カルロは不満そうだった。
「何か問題でもあるのか?」
「大ありだ。ほらここ」
カルロはドアノブを指差した。
「・・・これがどうかしたか?」
「見てみろよ。汚れているだろ」
「・・・どこがだ?」
目を凝らしてみるが暗いのか良く見えない。
「それにこことか、ここも」
カルロはさらに指摘し始める。
「もっと掃除するべきだ。玄関だってそうだ。角にゴミがあったし天井も汚れてたし。廊下ももっと磨けば綺麗になる。外装もそうだ。俺の部屋なんてゴミも埃もなくて住みやすい部屋だぞ。一般人の俺が出来るのに、専門職が出来てないんだ。なぁそうだろルシ?」
「私は寝る。明日も早いお前も寝ろよ」
いつの間にか着替えを終えベッドに入っていた。
「無視かよ・・・。ったくよく寝られるなこんな部屋で、俺なんて気になって寝られないぞ」
「・・・スー。・・・スー」
ルシの方から優しい寝息が聞こえる。
「ってもう寝たのかよ!早いな。・・・仕方ない」
カルロは自分に用意されたベットを見た。
「・・・・・・」
軽く叩いてみる。
微かだが埃が舞った。
「無理だ」
自分ではこのベットでは寝られないと判断するとカルロは呪文を唱え始めた。
「風よ。忌まわしき敵を遠ざけろ」
カルロの周りに風が発生し、風はベット全体を取り巻いていき、徐々に小さな竜巻となって埃を掻き集め窓の外に運んでいった。
「・・・・・・」
再度ペットを叩く。
埃はもう出なくなった。
「本来は天気干しをして消臭したかったが、もう夜だしな・・・これで我慢するか。・・・寝れるかな・・・」
カルロは恐る恐るベットに入り就寝した。
――――――。
―――。
「・・・寝れない・・・」
ベットに入って大分経ったが全く眠れない。
「やっぱりあれ程度で寝れるはずないか・・・」
というかこの部屋で寝る事が間違ってるな。
ベットから起き上がり窓を開け外を見た。
「・・・まだ日は昇らないか・・・」
外は深い闇に包まれている。
「・・・スー・・・スー・・・」
傍ではルシが安らかな寝息をたてている。
「よくこんな所で寝れるよな。考えられんな」
俺なんかこの部屋の汚れが気になって寝れないっていうのにな。
窓の枠を軽く指の腹でなぞってみる。
暗くて見にくいが擦ってみると汚れの感触が伝わる。
「・・・・・・」
もう駄目だ。
我慢の限界だ。
俺は袋からいくつか道具を取り出した。
頭に三角巾。
口にはマスク用の布。
手には皮の手袋。
体に掃除用のエプロンを装備した。
「いい機会だ。本当の掃除を教えてやるか」
俺は部屋のあらゆる所を掃除し始めた。
「・・・おっとその前に」
俺は呪文を詠唱した。
部屋一帯に音を消し去る『音消し』の呪文を唱えた。
「・・・よし。これでルシは起きないな」
「・・・スー・・・スー・・・」
「さて、やりますか!」
俺は掃除を開始した。
――――――。
―――。
「・・・ふぅ~。こんなもんでいいだろう」
俺は額の汗を拭った。
テーブルを見る。
自分の顔が移る。
ワックスをかけたかいがあった。
「いい感じだ」
窓を見る。
自分の顔もよく見れるようになり、外の景色がはっきりと見える。
それに微かに輝いている。
「すごく綺麗だ」
床を見る。
綺麗にワックスもかけツヤがでて綺麗に磨くことが出来た。
「埃一つなし!」
ドアとドアノブも完璧だ。
「充実した時間だった。・・・解除」
俺は音消しの呪文を解除した。
「これでやっと眠れるな」
綺麗になった部屋を見て、安心と気持ちのいい疲れが襲う。
「寝るか。・・・ふぁ~」
俺はベットに入る為、装備を外していった。
―――カツ―――
「ん?」
―――カツカツ―――
部屋の外から足音が聞こえる。
―――カツカツカツ―――
足音は徐々に近づいてくる。
「・・・・・・」
―――ガチャ―――
「・・・・・・」
―――カツ・・カツ・・カツ―――
「・・・・・・」
足音はカルロの寝ているベットで止まった。
「・・・・・・」
―――ドス―――
「・・・・・・」
「こんな夜更けに何の用?」
「!!?」
後ろから男の声が聞こえ振り返る。
「どうも~」
カルロはにこやかに笑い手をひらひらと振った。
「・・・寝てなかったのか」
「いや、寝るつもりだったよ。掃除も終わったし」
「そうじ?」
「見てみろよ。綺麗になっただろこの部屋。ゴミ一つ落ちてないぜ。・・・あんたらを除いてな。婆さん。爺さん」
月の光が窓を通して照らす。薄暗かった部屋が少しだけ明るくなった。ペットには老婆の腕が突き刺さっており、天井には老人が張り付いて舌を出していた。
「おやおや、大人しく寝ていれば安らかに逝けたのにねぇ~」
「こんな部屋で寝れる方がどうかしてると思うが?」
老婆はベッドに突き刺さった腕を引き抜いた。
「それはすまなかったね」
「勉強になったかな?」
「そうだね。いい教訓になったよ。・・・オマエヲホネノズイマデキレイニタベルノニナ!!」
老婆がカルロの首めがけて腕を突き刺した。
「おっと」
カルロは左に避けた。
「ッチ!」
「ヒサシブリノニクダ!!」
老人は寝ているルシに向かって飛びつく。
「・・・すまないが、肉になるのは貴様だ」
「!!?」
毛布を放り投げ目隠しにし、向かってくる老人まものを斬りつけた。
―――ヒュン―――
風を切る音がした。
「・・・・・・」
魔物の動きが止まった。
「そのまま永遠に寝ていろ」
魔物は真っ二つになってベットを血で染め上げた。
「あ、起きてたのルシ?」
「いや寝ていたが、いつでも動けるように準備はしていた。ちなみに、お前が掃除をしていたのも知っていたぞ」
「・・・さいですか」
「それよりも後ろだ」
「ん?あ~はいはい」
「シネェ~~~!!!」
「お断りだ」
―――ブン―――
魔物の攻撃は空を切る。
「ウガァーーー!!」
「・・・遅い。それに無駄がありすぎるぞ」
カルロは剣の柄を握った。
「はい終わり」
柄を握っている手を離した。
魔物は一瞬だが動きを止めたがどこも斬られていないことにすぐに気がつく。
「・・・?。ほざくなニンゲンガ!!」
カルロに飛び掛る。
・・・が、動きが止まった。
魔物から線が浮き出てくる。
その線は鮮明になり魔物は縦に真っ二つになった。
「・・・せっかく綺麗にしたのになぁ~・・・はぁ~」
「落ち込んでる暇はないぞ?」
「・・・そうだよな~」
静かだった外から魔物の声が聞こえる。
「どうやらここの村はすでに占領されていたか」
「・・・・・・最悪だな」
「行くぞ」
ルシは窓に足をかけ飛び降りる姿勢を取っている。
「行ってらっしゃい」
カルロはそんなルシを笑顔で送り出す。
「お前も行くんだ」
「ルシ一人でもやれるだろ。俺は今落ち込んでるんだよ。そっとしといてくれ」
「・・・その袋燃やすぞ」
「よし行こうか!」
カルロとルシは飛び降りた。
「ニンゲン・・・」
「・・・クイモノ」
「ハラ・・・ヘッタ・・・」
どこに隠れていたのか、かなりの数の村人?が二人を囲む。
こいつら村人か?死んだ人の臭いがする。・・・なるほどアンデットってやつか。・・・・・・うへぇ~。気持ち悪いな。
「真夜中の食事は体に悪いぞ?」
「ニンゲン・・・クイモノ・・・」
「・・・コロス・・・」
「ハヤク・・・クワセロ」
「まったく。腹を壊しても知らんぞ」
ルシは再び剣を抜いた。
「カルロ半分は任せるぞ」
「へいへい」
アンデットが襲い掛かる。
「よいしょっと」
カルロは地面に手をつけた。
「・・・終わったら消毒しないとな。・・・水よ槍となり貫け」
呪文を唱えると、地中の水分が氷の槍となって生えてくきた。
その槍はカルロに向かって来たアンデットはすべてに突き刺さる。
「土よ盾となり守れ」
カルロの周りに土の壁が出現し、氷の槍で突き刺さったアンデットの血しぶきを受け止める。
「んで、後はこれで終わり」
カルロはまだ残っているアンデットに向かって柄を握ると
―――シュ―――
剣が風を切る。
その後で、アンデット達は無残に切り刻まれた。
「グギャアアアアー!」
「ッハ!」
「グゲ!」
「・・・フン」
ルシの止まることのない連続の剣技で次々と倒れていくアンデット。
「雷よ。剣を裁きの剣つるぎと化せ!」
ルシの剣が雷を纏う。
「蒸発しろ。雷鳴剣!」
アンデットを斬りつけると凄まじい音と共に一瞬で蒸発し黒い粉となって絶命した。
その威力を見たアンデット達は退いた。
「まだだ!」
ルシはそのチャンスを逃さず、群れの中に飛び込み、流れるようにアンデットを切り倒す。
そして、群れの中央にくると剣を地面に突き刺し
「開放!」
と叫ぶと、剣に纏っていた雷が地面を這うように流れアンデット達を襲い一瞬で蒸発させた。
「これで終わりだな」
一息ついて剣を鞘に収める。
「お疲れ~」
呑気な声でルシに近づくカルロ。
「そっちも終わったのか」
「綺麗に掃除しといたぞ」
「そうか。これで他の村や町が被害を受けることはないな」
「それはそうだが、なあルシ。多くなかったかアンデット」
カルロの言ったことにルシは同意をした。この村の民家に対して明らかにアンデットの数が多かった。
「確かに。この村に対して数が明らかに多かったな」
「他にこの辺りに村があったのか?」
「わからん。調べるか?」
「そうだな。東の墓所に行く途中にある村や町もちょっと調べてみるか・・・あ~・・・夜明けか」
気がつくと辺りは明るくなり始め、日の出が出てこようとしていた。
「結局一睡も出来なかったか・・・」
「我慢して寝ればよかっただろ」
「それが出来たらしてたわ!・・・ふぁ~あ。ねみぃ~」
「それじゃあ、近くの川に行くか?冷たい水で目が覚めるぞ」
「そうだな。手も洗いたいし、防具も一式綺麗にしないといけないからな。・・・ふぁ~あ」
「よし。では行くか」
「・・・ねぇ、あれどう思う?」
二人が去り姿が見えなくなったころ、別の二人が姿を現した。
全身を布のフードで姿を隠し、幼い声で子供くらいの身長さの人物がルシとカルロの向かった方を覗いていた。その人物が話しかけていたのが隣にいる全身が黒い鎧を纏った騎士だった。
「うん。強い人達だね。この国のトップかな?」
黒騎士はのんびりとした口調で言った。
「へぇ~・・・いいねいいね!他にもいるのかな!?」
「そうだね・・・いると思いたいね。どっちが気に入ったんだいホロイド?」
黒騎士はフードで姿を隠している人物をホロイドと呼んだ。
「僕はお姉ちゃんが気に入ったよ!あの雷見たでしょ!?すっごく綺麗でカッコヨカッタヨネ!!シシスもお姉ちゃんが気に入ったの?」
黒騎士をシシスと呼ぶとシシスは
「僕は男の方だね。あんな技見たことない。・・・それに彼からは違う気配を感じるんだ。僕達とは違う何かがね」
「?。よくわかんないけど良かったよ。もしシシスと被ったらどうしようかと思ったからね」
「それはよかったよ。僕もホロイドと被ったらどうしようかと思ったからね。それよりもよかったのかい?これ君のだろ。こんなにされて大丈夫?」
嬉しそうにはしゃぐホロイドに黒騎士は地面に転がっているアンデットの骸を指差
「ん?あ~・・・いいよ別に。あれはゴミだしどうせすぐにいくらでも手に入るからね。今度はもう少し丈夫なのにしようかな。いや、それよりもあれを使ったほうがもっと面白くなりそうかな」
「・・・あまりはしゃぎすぎないようにね」
黒騎士は苦笑したように言った。
「わかってるよ。どうせ当分はあそこでお留守番しないといけないし・・・。あ~あ、早く僕も出かけたいよ」
「拗ねないでくれよ。これも大事な役割なんだからさ」
「でもさ~・・・。暇なんだよね、あそこ」
「だからといって勝手な行動は駄目だよ」
「だったらさ、お土産取ってきてよ!」
「お土産?」
「うんうん!東南の方に僕のほしい骨があるんだよ」
「・・・・・・わかった。なら大人しくしててくれるね?」
「うん!するよ」
「じゃあ行ってくるよ」
「いってら~」
黒騎士はその場で姿を消した。
「・・・さてっと僕も戻るかな~。いい気分転換になったよ。また近いうちに会おうね!お姉ちゃん!!」
潔癖勇者のリメイクになります。最初に投稿する話は前の話とほぼ変わりません。また、文字数もバラバラで投稿することになりますのでご了承ください。