薔薇乙女
あたしはズルい女。
人の弱い所につけ込む才能がある。弱って孤独で助けを求めている人を、見つける才能がある。
案外多いのよそんな人。誰かに認められたくて、ひとりが嫌で、傷つきながら暗闇を必死でもがいてる。そんな人に優しく手を伸ばしてごらんなさいよ。地獄に垂らした蜘蛛の糸よろしく、相手はすがり付くに決まってるじゃない。誰だって救われたいと思っている。
あたしはヒドい女でもあるから、助けを請う様を見て、つかの間の優越感に浸る。頼られる快感に浸る。こんなあたしでも、誰かに必要とされていると認識できるから。
でもそんな表情は一切出さない。相手に向けるのは聖母のようなほほ笑みだけ。すると相手は安心した顔しちゃうのよ。ふふ、笑えてきちゃうわ。
これだか——「ママーーー!! もう、聞いてよ、あの男! ほんっとにあり得ないの!」
……ごめんなさいね。いきなり入ってきたこの子、店の常連中の常連、サチ。もう、仕方ないんだから。
「いらっしゃいサチ。バカね〜、この前言ってた男でしょ? やめときなさいっていったじゃない」
あたしに助けを求める子羊。彼女はいつだって愚かで孤独。たったひとりに愛されたいと、何度も何度もバカを見る。あたしに愚痴って愚痴って愚痴りまくって、悩んで泣いて、また立ち上がる。
「だって、だって、」
「だってじゃないわよ。ほんと男見る目ないんだから。それに、貧乳のくせに偽物でごまかしてんじゃないわよ。貧乳のまんまでちゃんと胸はんなさい」
「うわぁーん、オカマに言われたくなぁーーい! 」
「オカマは余計よ!」
あらやだ、声が野太くなっちゃった。アゴもうっすらゾリゾリよ。いやね、もう剃らなきゃ。
ここは悩める子羊が集う場所。駅から徒歩十分、コンビニを左に曲がった先。入り組んだ路地の中にある、一軒のオカマバー「 薔薇乙女 」。
からんからん、とドアベルが鳴る。
「ちょっとーママいるー? ぐすっ、もう私、限界……」
おっとまたお客が来たようね。もう少しお話ししたかったけど、また今度。あなたも悩みがあるならその内いらっしゃい。
あたしはズルくてヒドい女。
だから安心しなさい。どんな汚い悩みだって聞いてあげるわ。本音でなんでもぶちまけていいわ。全部、あたしが受け止めてあげる。それがあたしの役割だもの。
——うるさいわね、オカマは余計だってのよ。
※作者はオカマではありません。