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コッペリアの手紙  作者: 八千草夏日
マイルズ
9/10

アルメリアは咲かない

未来の話


ヴィートは、マイルズの姿を探していた。もう高齢と言っていいマイルズに仕えるようになって日が浅いヴィートは、思いのほか、フットワークの軽いマイルズに置いて行かれてばかりだった。

と言っても、目的地は知っている。毎日、毎日、マイルズは屋敷の奥にある雑木林の入り口の石碑に花を添えに行く。その石には何も書かれていないし、何を埋めているのかは知らない。決して、尋ねてはいけないと古参の使用人たちに口を酸っぱくして言い聞かされた。


「マイルズ様!」

「おや、ヴィートじゃないか。」


ヴィートがマイルズに仕えるようになったのは、祖父の引退がきっかけだった。祖父・リンクは長くマイルズに仕えた。父もその後を追い、今はマイルズの息子に当たるテレンツィオに仕えている。テレンツィオはビルハルツ家の現当主ではあるが、マイルズと直接的な血のつながりはない。テレンツィオは、マイルズの弟・レリオと降嫁した王女の間の子どもだ。

ヴィートは祖父に英雄に仕えるのだと言われて、とてつもなく期待した。この時代を育て上げた人だと言われて、ヴィートはぴんとは来なかったけど、よほどすごい人なのだと思っていた。

ヴィートは新しい時代になってから生まれた。だから、前の時代がどんな時代だったのかは知らない。今の時代のことは、ただただ平和で良い時代だとは思う。

だが、祖父の言う英雄は、案外普通の人だった。

というよりも、祖父の言葉は主人可愛さの言葉ではないかと疑っていた。本当に英雄なら、王女が弟に降嫁するなんておかしい。マイルズに王女が降嫁しなかったということは、彼ではなく、弟が英雄なのではないか。


「もう、お年なんですから、使用人を連れて行ってくださいと何度も申し上げたはずです!」

「おお、そうだったな。」


マイルズは石碑に白い小さな花を添えていた。それをヴィートは一瞥してから、心の中で、この人ボケてるのかなと不敬なことを考えていた。死んだ祖父にも、父にも言えないけれど。


「今日は白い花なんですね。」

「ああ。この花はキスツスと言うんだよ。」


好々爺を絵に描いたような人だけれど、この人が本当に英雄なのだろうか。ヴィートは、何度も同じ疑問を持っている。ヴィートが少し不敬なことを言っても笑って許してしまうマイルズは、父の世代では崇め奉られている。それが、ヴィートには全くピンと来ない。


「じゃあ、帰りましょう。」


ああ、そうだな。マイルズは少しの間だけ石碑を眺めて、足取り軽く屋敷に戻っていった。



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