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彼と彼女たち  作者:
プロローグ
6/37

入試 5

 俺は倉林さんを連れて、ちょっと離れた所にあった大木の下のベンチに腰掛けた。


 彼女は俺が渡したハンカチで涙を拭っていた。

 そして、綺麗に折り畳んで返してくれる。


「ありがとう」


「ああ、……もう大丈夫?」


「…うん」


 俺達を優しい風が吹き抜ける。上を見上げると見事な晴れ模様。爽やかな風がちょっと早い春を感じさせる。


「…私ね」


「うん?」


「…みんなから期待されてた。両親からも、学校からも、友達からも。みんな受かるのは当たり前って、そう言ってた」


「…………」


「…だからかな。凄いプレッシャー感じちゃって…。今日までまともに寝れなかったし、食欲もなかった。落ちちゃったらどうしよう?って…」


「…そっか」


 彼女とて普通の人間だ。どんなに優等生でも1人の女の子なんだ。彼女の小さな肩には周りからの期待が重くのし掛かっていたんだな。

 俺も倉林さんなら…って思ってた。それって他人の勝手な虚像だよな。


「…すまん。俺も勝手な思い込みで倉林さんなら絶対受かるって思ってたよ」


「…いいの。そう思われちゃうのもしょうがないと私自身そう思うから」


 私って地味だから。と自分で付け足してそう言った。

 自虐的に笑う彼女を見て俺はいたたまれない気持ちになった。


「それは違うぞ。倉林さんは絶対魅力的な女の子だよ。周りが気づかないだけであって、そんなに自分を卑下にしなくてもいいと俺は思う」


「……あ、ありがと」


 俺の言葉を聞いて顔を真っ赤にして俯いてしまう。ちょっとくさかったかな? でも俺は間違ったことは言ってない。



「……ズルいよ…」



 彼女がポロリと呟いた一言は風に乗って掻き消されてしまい俺には聞こえなかった。




 帰り道、俺と倉林さんは途中まで一緒に歩いていた。

 彼女の家は俺とは地区が反対側らしいが、朝霞に通うとなるとこのように途中では一緒になるようだ。


 そして、分かれ道に差し掛かったときだった。


「そういえば、柏くんは合格したの?」

 今さらでゴメンね。と両手で謝りながら尋ねてくる。


「何とか…ね。本当みんなのおかげだよ。俺1人じゃあ絶対無理だったから」


「柏くん、途中から凄い追い上げだったもんね。今思ったら柏くんもプレッシャーの1つだったかもね」


 えへへ。と笑う倉林さん。彼女の笑ってる顔は本当に可愛いと思う。もっと笑えばいいのに。



「…じゃあ、私こっちだから」


 そう言って去ろうとする彼女。


「あ、ちょっと待って」

 と言って呼び止める。


 彼女が?を浮かべて振り返る。


「月並みで申し訳ないけど、最後に1つ言い忘れてたよ」


「え?」



「倉林さん。合格、本当におめでとう」



 合格することが当たり前とされた彼女。周りからおめでとうなんて言われるだろうか。きっと、言われないんじゃないか?

 彼女が朝霞に合格したのは必然じゃない。彼女が彼女なりに努力したからだ。それが報われないなんて悲しすぎる。

 なら、せめて俺だけは。と思い言ってみた。…押し付けがましいかもしれないけど。


「……ぁ…」


 一緒固まってしまう倉林さん。でも、すぐ元に戻って。

「ありがとー! 柏くんも!合格おめでとー!」


 と最高級の笑顔を見せてくれた。

 その笑顔にはうっすらと涙が浮かんでいた。

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